湯浅健二の「J」ワンポイント


2016年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2016年5月13日、金曜日)

 

サガン鳥栖が内包する「Korean-Power」・・また豊田陽平のポストプレーというテーマも・・(FC東京vsサガン鳥栖、0-0)

 

レビュー
 
両チームが創りだしたチャンスの量と質。

その視点じゃ、たしかに盛り上がりに欠けるゲームだったって言えるかもしれないけれど、私は、それなりに楽しんでいましたよ。

何せ、両チームともに、粘り強い「スペースの消し合い」という明確な意志をもってゲームに臨んでいたわけだからね。それは、それで、とても興味深い闘いだったんだよ。

ところで、その「スペース潰し・・」というテーマ。

その主だった意味合いは、相手に、スペースで、ある程度フリーでボールをもつ「仕掛けの起点」を創らせないといことだよね。

たしかに、阿部拓馬のような優秀なドリブラーがいれば、周りのチームメイトは、そのドリブル勝負が成就するようにサポートする。

でも、パスが基本のサッカーじゃ、やはり、パサーとパスレシーバーの効果的コンビネーションを、連動ディフェンスで潰すっちゅうニュアンスが主だったところでしょ。

そう、勝負は、ボールがないところで決まる・・のであ〜る。

ということで、最初のピックアップポイントだけれど・・

それは、サガン鳥栖のサッカーが、質実剛健に進化しているという視点ですかね。

以前のコラムでも書いたけれど、マッシモ・フィッカデンティというイタリア人プロコーチもまた、様々な意味合いで、自分の「内なるコンセプト」を、変化させ、発展させていると感じるんだ。

だから、私にとって、サガン鳥栖のサッカーを観察することには、とても深い「意義」がある。

まあ、とはいっても、この試合では、前述したように、互いに「粘りのスペース潰し」に終始したわけだけれど・・ね。

とはいっても・・

全体的には「そんなゲーム展開」ではあったけれど、そのなかで生み出された「勝機」という視点では、FC東京に軍配が上がる。

前半終了直前にFC東京がブチかました、高橋秀人のバー直撃シュートからはじまった、連続した決定的チャンス。

そして何といっても、後半ロスタイムに飛び出した、観ている誰もが「キタ〜〜ッ!!」って絶叫するほどの決定的チャンス。

そのように「勝機」という視点じゃFC東京が優っていたかもしれないけれど、サガン鳥栖も、後半10分にペク・スンドンが登場してきてからは、多くの時間帯でゲームを支配したよね。

たしかに決定的なシーンは創りだせなかったけれど(FC東京の粘りディフェンスに拍手!)、それでも、そんなゲームの流れのなかで魅せたサッカーは、マッシモ・フィッカデンティ率いるサガン鳥栖が、「正しいベクトル上」を邁進しているコトを如実に証明していたと思う。

そこで、ピックアップしたい二つ目のポイントだけれど、それが、ゲームの流れを変えたペク・スンドンのプレー内容に象徴されていた、「Korean-Power」というわけだ。

要は、サガン鳥栖には、特筆に値する、Korea的な、素晴らしい闘う意志が備わっているというポイントのことだよ。

結局、後半の「Korean-Power」は四人にまでふくれ上がったよね。それが、サガン鳥栖のサッカーを活性化した!?

さて〜・・

考えてみたら、サガン鳥栖のキャプテンは、素晴らしいファイティングスピリットを放散しつづけた韓国代表のキム・ミンウだったよね。

とにかく、サガン鳥栖には、「Korea」的な、レベルを超えた闘う意志のマインドが底流にあると感じている筆者なのです。

そのポイントについて、「鳥栖のコリアンパワーは、良い方向へチームを引っ張っているマッシモさんにとっても、心強いサポートだと思うのだが・・」なんて質問したかったんだけれど、会見時間が限られていて難しかった。残念・・

ということで最後のテーマ。それは、豊田陽平という絶対的なポストプレイヤー・・。

やっぱり彼は強力だよ。

何せ、彼を目掛けて、「滞空時間の長いロングボール」が送り込まれたら、必ず、少なくとも1人か2人は、彼の「脇をすり抜けて」最前線へ飛び出していくんだからね。

でも、この試合では、そんな「鳥栖の典型的」なチャンス演出シーンは、前半の立ち上がりに1本あったくらいだったね。

もちろんその後にも、何度か、彼のヘディングでの「流し」からチャンスの流れが生まれたシーンはあったけれど、FC東京も、その「流れ」をしっかりとイメージして抑えていたからね。

ということで私は、豊田陽平と、FC東京ディフェンスの重鎮、森重真人が繰り広げた「空中戦」にも舌鼓を打っていたっちゅうわけさ。

とにかくこの試合については、互いに、相手の「良さ」を潰しあう粘りのディフェンスが主役の勝負マッチだった・・なんて表現が成り立つかもしれないね。

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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ、そしてチャンピオンシップ・・という「興行」について。

昨シーズンの「J」は、本当にツキに恵まれた。

何せ、年間最多勝ち点チームというリーグ頂点に立ったサンフレッチェが、「興行チャンピオン」にも輝いたわけだからね。でも、昨シーズンの二位クラブは、ガンバ大阪なんだってサ。要は、「興行チャンピオンシップ準優勝チーム」ということらしい。

まあ、皆さんも感じられている通り、とても、変。まあ、協会側は、この不自然なリーグシステムを「まだ」つづけるつもりらしいけれど・・サ。フンッ。

皆さんもアグリーだと思うけれど、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。

まあ、以前の「2ステージ制」とは違い、昨シーズンから始まった「今回の興行」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになることだけが、救いかな。

ということで、その後のトーナメント(チャンピオンシップ)は、まさに「興行」。

そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる(刻み込まれなきゃいけない!)。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうわけだからね。

だから、サッカー人だけじゃなく、読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむべきだと思うわけなのですよ。

この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。

そこでは、いかに(目的が歪んだ興行の!)2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。

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最後に「告知」です。

どうなるか分からないけれど、新規に、連載をはじめています。

一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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