湯浅健二の「J」ワンポイント


2015年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第32節(2015年10月24日、土曜日)

 

レッズにとって、素晴らしい内容が凝縮された学習機会だった・・(FC東京vsレッズ、3-4)

 

レビュー
 
75分までは、とても創造的、忠実でチャレンジング、そして魅力的なサッカーを展開したレッズだったけれど・・

皆さんも、最後の時間帯にFC東京が作り出した、シュートにつながる最終勝負シーンに手に汗したと思いますが、観られた通り、この試合は「引き分け」で終わってもおかしくありませんでした。

そう、とても後味が悪いゲームになっちゃったんですよ。

そんな情緒の背景には、75分までのレッズが、「内容」でFC東京を凌駕しながら、組織コンビネーションを駆使して、何度も、何度も決定的チャンスを作り出したという事実があります。

この試合でのレッズは、立ち上がりから、攻守にわたって、本当に素晴らしいサッカーを展開したんですよ。そして実際に、その内容を、ゴールという結果に結びつけた。でも・・

75分までのレッズ。

とにかく、攻守ハードワークが素晴らしく、たまには、効果的なショートカウンターをブチかませる有利なポジションでボールを奪い返したりするシーンもあった。

また組み立てでも、柏木陽介を中心に、両サイドバック、両サイドハーフ、ズラタン、そして、相手守備にとって「見慣れない」、槙野智章を筆頭にしたオー バーラップストライカーが、まさに「一つのユニット」として、「トントントンッ」っちゅう素晴らしい組織コンビネーションをブチかましたりするんだよ。

とにかく、最終勝負の流れに乗った、3人目、4人目の決定的フリーランニング(ウラの決定的すペースへの飛び出し!!)が、秀逸だった。そのタイミングとイメージングに舌鼓を打った。

また特筆すべきは、対峙したのが、あの「イタリア化されたFC東京」だったということだね。彼らの守備は、とても強いんだ。特に、ボールがないところでの動きの量と質が素晴らしい。

でも今日のレッズは、そんな強力な「東京ディフェンス」を、かなり攻略していたんだよ。だからこそ価値があった。

確かにサイドからの勝負が多かったけれど、それでもセンターゾーンには、とても危険な(レッズの勝負コンビネーションリズムに効果的に乗れるようになっ た!)ズラタンがいるし、その後方には、ミドルシュートが美味しいことを体感した柏木陽介や阿部勇樹、はたまたベストタイミングで押し上げてくる槙野智章 がいる。

そんな強力なセンター攻撃があるからこそ、サイド攻撃の実効レベル「も」高まるっちゅうわけだ。

とにかく、レッズの攻撃は、「全方位」にわたって、とても創造的で勇気あふれるモノになっている。

ホントに、75分までは、まったく危なげのない「横綱相撲」だったんだよ。それが・・

ということで、ここからコラムのメインテーマに入っていくっちゅうわけだ。

そう、ゲーム最後の15分間に沸き立ったエキサイティング勝負ドラマ。

そこでのレッズは、完璧に、FC東京がブチかました「イケイケの雰囲気」に呑み込まれてしまった。ホント、完璧に呑み込まれちゃったんだ。

その「現象」は、第一義的には、レッズ選手たちが為さなきゃいけない守備アクションの量と質が、ガクッと減退してしまったことによるよね。

そして、もう一つ。そう、何も失うモノがなくなったFC東京の、イケイケの押し上げ。

この押し上げが効果的だった。何せ、足が止まり、混乱気味のレッズ守備が、うまくボールを奪い返せず、押し込まれつづけたんだからね。

そこで目立っていたのが、FC東京のタテパスを供給する後方の選手たちが、ほとんど邪魔されることなく、とても正確に、良い「質」のタテパスを供給していたことなんだ。

もちろん、受けたFC東京選手のほとんどは、かなりフリー。

レッズ守備ブロックには人数はいる。

でも彼らは、まったくといっていいほど、積極的なボール奪取イメージを描けていないし、効果的なポジションニングも取れていなかった。

要は、足が止まり気味で、相手の「人とボールの動き」を、無為にウォッチしているだけ・・ってな無様な状況がつづいていたというわけなんだ。

もちろん自分の近くにボールがきたら(きそうになったら)相手パスレシーバーをマークしたりインターセプトを狙ったりと、局面での勝負には入るし、その多くで抑えが効いていた。

でも、FC東京の、後方からオーバーラップしてくる選手に対するマークが十分じゃない。

それに、そのオーバーラップ選手をマークするために寄っていったら、今度は、中島翔哉のようなドリブラーをフリーにしてしまう。

そんな、バランスを欠いた組織ディフェンスの悪循環がつづいたんだよ。

そして、太田宏介による、流れのなかからのクロスとコーナーキックから1点差に詰め寄られただけじゃなく(このゴールは二つとも高橋秀人!)、ロスタイムの最後の時間帯には、完璧なゴールチャンスまで作り出されてしまったっちゅう体たらくだったんだ。

まあ、サッカーだから、レッズが勝ち切ったことについては何とでも解釈できるけれど、私は、このゲームに限っては、冷静な合理性をもって分析しなきゃいけないと感じているんだよ。

この最後の15分間。もちろんそれは、レッズにとって、願ってもない「学習機会」だったんだ。

勝ち切ったから・・と、反芻しないのは、愚の骨頂だよ。

イヤかもしれないけれど、とにかく、その15分間を、冷静に、合理的に見直しましょう。そして、自分たちの「イメージ・バンク」に、しっかりと刻み込みましょう。

私は、それこそが、年間チャンピオンを掴み取るための、勝者メンタリティーを確固たるものにするための、もっとも大事な「心理プロセス」だと思っているわけです。

最後に・・

ところで、「イケイケ現象」。

ミハイロもマッシモも、ヨーロッパじゃ、あまり観ることのできない現象だ・・ってなニュアンスの内容をコメントしていた。

まさに、その通り。

そんな、擬似のパッシブプレー姿勢と、極端なイケイケ(アグレッシブ)姿勢が対峙し、その二つが掛け合わされたような一方的なゲーム展開は、あまり観られないんだよ。

それは、選手一人ひとりの意識と意志が、とても強いからに他ならない。

フットボールネーションの一流プロ選手たちは、まさに「自己主張の塊」ってな、強烈パーソナリティーの持ち主がほとんどだし、ゲーム展開についても、十分な経験を積んでいる。

だから、あのような「イケイケの一方的ゲーム展開」になりそうになった次の瞬間には、少なくとも数人のビッグパーソナリティーが「動いて」チームを活性化しちゃうというわけだ。

活性化!? どのように・・??

その答えは、まさに「唯一」。

そう、チーム全員で、爆発ダイナミズムのボール奪取勝負をブチかましていくんだ。

それしか、この「心理的な悪魔のサイクル」から抜け出せる方法は、ない。本当に、ない。

だからこそ、あの時間帯での、レッズ最前線選手たちのディフェンス姿勢に不満だった。

間に合わなくてもいい。とにかく、相手の次のパスレシーバー(効果的なタテパスの供給プレイヤー)を、全力スプリントで追いかけ回すんだよ。

そうすれば、間に合わなくても、周りのチームメイトたちに、大いなる刺激を与えることになる。そして、チーム全体の(心理的な!)ダイナミズムを増幅させられる。

もちろん、そんな「爆発ディフェンス」を、連係し、連続的に(効果的に!)ブチかますためには、その流れを引っ張れるだけのリーダーも必要だろうね。

でも、そんな強力パーソナリティーがいなくても、選手一人ひとりの「意志」が充実していれば、必ず、チーム全体のダイナミズムだって復調していくはずなんだよ。

ちょっと蛇足だけれど・・

私が読売サッカークラブでコーチを務めていた頃のこと。当時の「ヤマハ発動機」とトレーニングマッチをやったことがあった。

どうも気合いが乗らない読売サッカークラブ。対するヤマハは、もう最初から、ガンガンと「イケイケの雰囲気」を作り出してしまうんだ。

足が止まり気味になって押し込まれる読売サッカークラブ。そのとき、「天才」が爆発した。

そう、ラモス瑠偉。

ヤツは、アタマにきていた。そして彼は、そんなジリ貧の雰囲気をブチ破って押し返す「スベ」を知っていた。そう、ディフェンスの活性化。

・・何やってんだ〜っ!!・・ツナミ〜!!・・オミ〜!!・・マツキ〜!!・・もっと、次のパスレシーバーをタイトにマークしろ〜っ!!・・オイッ、ケツ〜ッ!!・・もっと気持ちを入れてチェイスしろ〜っ!!・・

もちろん自分も、全力で、相手ボールホルダーを追いかけ回すんだよ。「あの顔」だからネ、それは迫力満点だった。

当時のヤマハでは、山本昌邦や柳下正明といった強者プレイヤーも活躍していた。でも、そんな彼らでも、ラモス瑠偉(カリオカ)がブチかます「鬼の形相ディフェンス」には、タジタジになった。

そして、数分で、今度は読売サッカークラブがゲームを支配しはじめたっちゅうわけだ。

ラモス瑠偉が、そのときの感覚的な「状況把握」プロセスを、こんな風に表現していたっけ。曰く・・

・・ユアサさんも分かっているでしょ・・あのままじゃ、まったくサッカーにならなかったよ!・・とにかく、調子に乗っているヤマハのヤツ等が、震え上がるくらい脅さなきゃ、何もはじまらないんだよ・・分かっているでしょ!?・・

今度、ヤツが監督を務めているFC岐阜のゲームを観にいくことにしよう。

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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ・・という「興行」について。

メディアは、「1.ステージ優勝」なんていうテーマで盛り上がっている。

でも・・ね・・

皆さんもご存じのように、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。

以前の「2ステージ制」とは違い、今シーズンからの「それ」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになるはずだからね。

その後のトーナメントは、まさに「興行」。

そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうからね。

だから、「J」に関わっているサッカー人は、そして読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむっちゅうわけだ。

この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。そこじゃ、いかに2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。

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 最後に「告知」です。

 実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。

 でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。

 そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。

 だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。

 でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。

 ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。

 一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

 そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

 とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

 ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

 もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

 まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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