湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第6節(2013年4月13日、土曜日)

 

楽しみながら効果的な組織プレーを展開する「天才」を観ることほど楽しいことはない・・また風間八宏との対話も・・(マリノスvsフロンターレ、 2-1)

 

レビュー
 
 「悪くなったリズムを効果的にアップさせるために、もっとも大事な要素ですか??」

 「・・そこには、とてもたくさんの要素があると思いますが、そのなかで一つだけと言われたら、間違いなく自信というファクターを挙げるでしょうね・・まあ、メンタルとか、意志とかいった要素も含めてですが・・」

 「・・ご存じのように、サッカーをやっていく上では、自由と責任というテーマも重要な意味をもってきます・・要は、そのバランスをいかに上手く取ってい くのかという視点のことですが・・責任に対する意識が大きくなりすぎたら、もちろん自由な発想とか、リラックスした雰囲気でリズムを作っていくプロセスに ブレーキが掛かってしまいますよネ・・逆に、自由奔放に過ぎてもいけない・・」

 「・・だから、限りない自由のなかで、(主体的に形作る!?)チームワーク的な規制意識を、自分自身のなかに効果的に組み込んでいくという発想が大事と いうことになりますかね・・そんな、自由と責任のバランスを、上手く、自然に取れるようになったら・・もちろんフロンターレの選手たちには、そのチカラが 備わっているわけですが、もっともっと彼らも、サッカーを楽しめると思いますよ・・」

 試合後の、風間八宏さんとの対話でした。

 上記には、例によって、実際のコメントのなかに示唆されていた「行間ニュアンス」も含まれていますので・・、悪しからず。

 ところで、ゲーム。

 それは、全体的なサッカーの内容からすれば、マリノスが順当に勝ち点3をゲットした・・っちゅう評価がフェアだろうね。でも・・

 そう、私は、前半のフロンターレが、とても優れたサッカーを展開していたと思っているのですよ。でも、徐々に、その勢いが殺がれ、結局は、後方からのサポートが十分ではない「前後分断サッカー」に陥ってしまう。

 そんなだから、中村憲剛の良さが、マリノス守備ブロックに、クレバーに抑え込まれてしまうのも道理だった。

 そのことについては、マリノスの樋口靖洋監督も、こんなニュアンスの内容をコメントしていたっけ。曰く・・

 ・・中村憲剛に対してマンマークを付けたという訳ではないが・・とにかく彼が良いカタチでボールをもつ(パスを受ける)状況が出てこないように、できる 限り邪魔していこう・・また憲剛がボールをもったら、そこから良いパスが出ないように、彼のプレーを抑制していこう・・そんなイメージで選手たちをゲーム に送り出した・・

 そうね・・

 中村憲剛のプレー内容が「マリノスに抑制されていく」のと呼応するように、フロンターレも、チームとしての「リズム」を徐々に失っていったということなんだろうね。

 だから、後方の選手たちも、自分たちの「確信レベル」をアップさせられず、勇気をもって押し上げていけなくなってしまった・・

 そんなフロンターレに対して、調子の良いマリノスは、特に後半にペースアップしていった。

 もちろん、その絶対的なベースは、忠実&創造的&謙虚な姿勢のディフェンスですよ。全ては、守備からスタートするわけだから・・

 まあ、とはいっても彼らにしても、流れのなかで、フロンターレ守備ブロックのウラに広がる決定的スペースを効果的に攻略できていたという訳でもなかったよね。

 ちょっとハナシが逸れるけれど・・

 日本サッカー(Jリーグ)の全体的な傾向として、守備の内実が、高いレベルで平準化している・・なんてことが言えるのかもしれない。

 どの試合を観ても、攻守にわたるボールがないところでの動きの量と質(攻守のハードワーク)がアップしていることで、誰も、簡単にウラの決定的スペースを突いていけなくなっている(フリーでパスを受けるのが難しくなっている・・)と思うのですよ。

 まあ、言い換えれば、ダイナミックな均衡状態・・というゲーム展開が圧倒的に多いっちゅうことだけれど・・ね。

 もちろん、相手のマークを振り切ってウラの決定的スペースを突いていくような、守備と攻撃の「せめぎ合い」は、観ていて興奮させられる。

 でも、これも全体的な傾向なんだけれど、「誰も」うまく相手マーカーからフリーになれないことで、徐々に、ボールがないところでの動き(≒フリーランニン≒パスレシーブや味方にスペースを作り出すための動き・・等など)の勢いがダウンしていっちゃうんだよ。

 そして、シュートシーンが少ない、中盤でのボールを巡るせめぎ合いばかりが繰り返されるゲーム・・なんていうことになってしまう。

 まあ、もちろん全体的な傾向だからね・・

 なかには、「それでも」相手のマーキングを上回るくらいのボールがないところでの動きを積み重ねることで、ものの見事に、ウラの決定的スペースを攻略しちゃうような、強烈な意志の権化のようなチームもいるけれどネ・・

 ちょっと脱線しすぎだけれど、言いたかったことの骨子は・・、「個のチカラ」によって、ダイナミックな均衡状態をブチ破っていけるような「才能」が、もっともっと必要だということでした。

 そう、攻守にわたる組織的なハードワークにも心血を注げるような、強烈な意志を持ちあわせた「才能」がネ・・。

 だからこそ、ユースのコーチの方々には、選手の才能レベルが高ければ高いほど、攻守両面で、組織と個がハイレベルにバランスするような「良いサッカー」に対する理解を、効果的に深めていく努力をつづけて欲しい筆者なのですよ。

 ホント・・ちょっと脱線しすぎだね。スミマセン・・

 ということで、最後に、「セットプレー」というテーマで締めましょう。

 マリノス樋口靖洋監督にこんな質問を投げた。

 「マリノスのセットプレーが、他のチームよりも危険なのは、何故でしょうか?」

 そしたら、こんな一言で締められちゃった。

 「それは、キッカーと受け手の質が高いことに尽きると思います・・」

 そう、まさに、その通りだけれど、私は、「両者の確信レベル」という要素にも言及してもらいたかったな〜〜・・

 質問の骨子は、もちろん、中村俊輔のフリーキックやコーナーキックの危険度が、他のチームと比べて格段に高いという事実のバックボーンを解析する・・っちゅうことだったわけだからね。当たり前でしょ・・

 ということで、そのテーマについては、こう考えている筆者なのです。

 要は、中村俊輔のキックが、どのピンポイントに、どのようなタイプのポールが飛んでくるのか・・ということについて、チーム内に、深〜い相互理解が浸透しているから・・という重要ポイントのことです。

 だから、中村俊輔が蹴るとき、相手ゴール前でのチームメイトたちの「受けの動き」は、力強い意志にあふれた全力スプリント・・等など ほんとうにダイナミックになる。

 それは、もちろん、「受け手」が、明確なイメージをもって、決定的スペースに「なだれ込んで」いける・・ということです。だから、守備側にしても、最後までしっかりとマークし切れなくなってしまう。

 この試合の先制ゴール場面は、まさに「それ」だった。

 ヘディングシュートを決めた富澤清太郎は、シュートをブチかました「スポット」よりも、かなり後方から、「そこ」へパワフルに走り込んでいったんだよ。そう、自分がヘディングシュートをブチかます・・という明確なイメージをもってね。

 それは、相手選手の「眼前スペース」だった。だから、相手にとっちゃ、自分へ真っ直ぐに向かってくるボールが自分の所に到達する直前、目の前を「青いカゲ」が、スッと横切った・・そして次の瞬間ボールが消えていた・・っちゅうことになる。

 とにかく、この試合でも、中村俊輔は、攻守にわたるハードワークでも、ボールを持ったときのクリエイティブワークでも、光り輝きつづけていた。

 ホント、とことん楽しみながら(汗かきも含めて!)効果的なプレーを展開している「天才」を観ることほど楽しいことはない。

 フムフム・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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