湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第3節(2013年3月16日、土曜日)

 

2013_J1_第3節・・ジュビロの高質サッカー・・そして中村俊輔の凄さ・・(マリノスvsジュビロ、 2-1)・・(2013年3月16日、土曜日)

 

レビュー
 
 「サスガに森下さん・・いつもながらに、良いチームを作ると感心させられました・・三試合を終わった時点で、まだ勝ちはありませんが、サッカーの内容からすれば、今シーズンのリーグ優勝に対する確信は、どんどん高まっていると思うのですが?」

 ジュビロ森下仁志監督に、そんな質問を投げた。それに対して森下さん。確信を込めた表情と口調で、「もちろんっ!」と即答だった。いいね・・

 とにかく、彼のコメントには、自信が満ちあふれていた。曰く・・

 ・・(負けたけれど)内容的には、しっかりとプレー出来ていた・・この試合でサッカーをプレーしていたのは自分たちだったと思う・・前半の内容は良かっ た・・あの流れで、もっとゴールが決められていたら・・だから、後半の立ち上がりで、ちょっと受けに入ったことが残念・・

 ・・我々は、10人になってからも、とても勇敢なサッカーを展開できた・・選手たちも、自信に満ちあふれていたと思う・・だから最後は、自然発生的に(!?)ツーバックで闘うことになったし、そこから惜しいチャンスも作った・・

 ・・とにかく、チャンスは作り出せていた・・(強い)マリノスが相手でも、これだけのサッカーが出来たことは自信につながる・・とにかく我々は、このサッカーを継続し、突き詰めていく・・

 森下仁志。とても優れたパーソナリティーだと思う。若く、ダイナミズムにあふれている。もちろんインテリジェンスも含めて・・

 とにかく、特に前半は、ジュビロの良さばかりが目立ったゲームだった。メモには、クロス攻撃からの危険なコノテーション(言外に含蓄される意味)に関する記述が並んでいたっけね。例えば・・

 ・・ジュビロの、人とボールが、広く、鋭く「動きつづける」仕掛けが、とても効果的・・この動きの意味合いは?・・たぶん、サイドゾーンを、より効果的に活用していくというイメージ?・・

 ・・とにかく、ジュビロは、とてもよくトレーニングされている・・ボールの支配は互角だけれど、実質的なチャンスメイクでは、ジュビロが圧倒・・

 ・・流れのなかからの駒野のクロス・・コーナーキックからの忠実な飛び込み・・クロスへのアクションの内容も抜群・・受ける方も、ここに来るっ!っちゅう、クロスに対する確信がある・・

 ・・その確信が、センターゾーンでの(クロスを効果的に受ける!)アクションを加速する・・とにかく、クロス攻撃に対するイメージが高質にシンクロしている・・などなど・・

 そう、前半は、素晴らしいサイド攻撃が目立ちに目立っていたんだよ。サイドゾーンへボールを「運ぶ」ことについて、そのプロセスイメージなど、チーム内で、とてもハイレベルにプレー内容がシンクロしている。

 もちろん、中央ゾーンで受けるチームメイトたちにしても、「ボールがないところでの動きのコンプレックス(組み合わせ)」から、どのように、クロスを ゴールに結びつけるか・・というテーマについて、共通のイメージをもっているし、何といっても、忠実に、実際のアクションに結びつけていることが素晴らし い。

 そんな風に、ジュビロのサッカーに感嘆していたのだけれど、先制ゴールを奪ったのはマリノスだった。もちろん、中村俊輔のセットプレー(コーナーキック)。

 実は、この試合では、中村俊輔の攻守にわたるプレー(ボールがないところでのハードワーク)を追いかけるつもりだった。でも、ジュビロのサッカーが、とても素敵だったことで、そちらに(も)気を取られてしまったという体たらくだったんだよ。

 とはいってもサ、中村俊輔のプレーも、大体は把握していたよ。例えば・・

 ・・チームメイトたちは、俊輔にボールをわたそうとする・・ということは、もちろんジュビロ守備も「そこ」を狙うよね・・でも俊輔の場合は、ヘタに「飛び込んだら」、そのまま置き去りされちゃうのは自明の理・・

 ・・だからジュビロ選手たちは、よほど良いタイミングで(身体をあずけながら!)アタックできる状況をのぞき、俊輔がボールを持っても飛び込んでいけない・・

 ・・だから、俊輔がボールを持ったほとんどのシーンでは、それが、とても素晴らしい「タメ」として機能するんだ・・もちろん、ボールの動きは止まり気味になるけれど、それで、周りの「足」の止まることがない・・「そこ」がすごいんだよ・・

 ・・もちろん「それ」は、中村俊輔に対する信頼の表れ・・

 ・・そして実際に、スパッ、スパッと、シンプルにボールを動かし、自身は、パス&ムーブで次のスペースへ移動しちゃつたりと、チームメイトたちが繰り出す、ボールがないところでの動きを、有効に活用しちゃうんだ・・

 ・・ちょっと表現するのは難しいけれど・・

 ・・彼がボールを持った状況では、そのゾーンは「静」だけど、周りは、どんどん「動のエネルギー」が放散されているんだよ・・だからこそ、俊輔のボールキープは、本物の「効果的なタメ」っちゅうことになる・・

 ・・そして、そこから、正確なロングパスや勝負パス(スルーパス)が供給される・・だから、「遠く」のチームメイトも、スペース・フリーランニングを怠らない・・そんな、「動き」のバックボーンにも、中村俊輔に対する信頼があるっていうわけさ・・

 そんな動きのメカニズムについて、マリノス樋口靖洋監督が、モビリティー・・なんていうキーワードをつかっていたね。

 もちろん、人とボールの動きの活性化・・という意味合いで使ったんだろうけれど、それによって、相手ディフェンスブロックを「振り回す」ってな意味もある。

 要は、いかに効果的に、スペースを作り出し、そこを攻略していくのかっちゅうテーマのことだね。

 あっと・・中村俊輔。

 彼の、攻守にわたるハードワークに「も」心血を注ぐプレー態度には、ホントに敬意を表するよ。

 何度彼が、ダイナミックなスライディングタックルで、ピンチを救ったボール奪取シーンを目撃したことか。そんなハードワークがあるからこそ、チームメイトも、彼についていく。彼のイメージを信頼し、言うことを聞く。

 思わず、その昔、まだ彼がレッジーナでプレーしていた当時のコラムを読み返す。そして、ある時点から、彼のプレー姿勢が、まさに「180度」好転したことを思い出していた。

 その「転換点」のモティベーションは、何だったんだろうか? 子供が生まれたから? さて〜〜・・

 そしてセルティックでの全盛期。

 攻守にわたる組織ハードワークに「も」心血を注ぐ『天才』中村俊輔だからこそ、今でも、セルティックの歴史に残る英雄の一人として語り継がれているのも当然の成りゆきだと思う。

 たぶん彼は、コーチとしても、とても良い仕事をするに違いない。まあ、そのときの布石としても、いまの彼のプレー姿勢は、おおいにポジティブだよね。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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