湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第25節(2013年9月14日、土曜日)

 

この試合からは、三つのテーマをピックアップしました・・(FC東京vsレッズ、 3-2)

 

レビュー
 
 この試合からピックアップしたテーマは、三つ。

 一つ目は・・、ゲーム全体として、とても高質なサッカーを貫いたレッズ・・彼らは、正しい発展ベクトル上にいる・・というテーマ。

 二つ目は、ランコ・ポポヴィッチが魅せた、采配の妙・・要は、前半途中から、スリーバックをフォーバックに変えたことで、中盤でのドミネーション(趨勢)にポジティブな変化をもたらした・・というテーマ。

 そして最後が、言わずと知れた、セットプレーでの攻防。

 まず、レッズのサッカー。

 ミハイロ・ペトロヴィッチも胸を張っていたように、レッズは、いつものように、とても優れたサッカーを展開した。

 ハーフタイムには、ミハイロが、こんなコトを選手たちに語りかけたとか・・

 ・・非常にいいゲームが出来ている・・(東京にやられたのは!?)セットプレーの2発だけだ・・これから後半にかけて、決定機が何度もおとずれるから、ガマンしながら戦うこと・・運動量、規律、そして忍耐が後半のテーマだ・・

 いいね〜、ミハイロ。2-0でリードされていることなんて眼中にないかのような、選手に元気を与える語りかけだね。

 でも、レッズ選手たちにしても、良いサッカーが出来ていることは体感していたはずだから、そんなミハイロの言葉に納得し、本当の意味で勇気づけられたはず。

 とにかく、ボールの動きがいい。その方向にしても、リズムにしても。

 後方で、しっかりとボールをキープするレッズ。そして、前線が仕掛ける「前後の動き」に合わせてボールを動かし、タイミングを見計らって、「ズバッ!」というタテパスを入れるんだよ。

 そして、そのタテパスによって、スイッチが入るんだ。そう、唐突に、人とボールの動きが風雲急を告げちゃう。

 そんな緩急のメリハリが、とてもいい。だから、東京ディフェンスも、うまく、タテパスをカットできない(トラップの瞬間にも、効果的なアタックを仕掛けられない・・)。

 それには、興梠慎三を筆頭にした、タテパスを受けてからの「耐えるコントロール」が、とても力強く、絶妙なんだよ。

 味方は、「そこ」でボールがキープできると確信しているから、もちろん、どんどんとタテの(相手守備ブロックのウラに広がる!)スペースへ入り込んでいくんだ。

 それは、ボールがないところでの「タテのポジションチェンジ」とも言える。そして、「そこ」に、タイミングよくスルーパスが送り込まれる・・っちゅう具合。

 もちろん、「そこ」からは、個の勝負に持ち込んだり、決定的コンビネーションをブチかましたり。

 とにかく、組織コンビネーションと個の勝負が、とてもうまくバランスしている。

 そして彼らは、徹底的にサイドゾーンを(そのスペースを)攻略していく。

 サイドバックとサイドハーフ、はたまたボランチが、タテのポジションチェンジをどんどん仕掛けていくなかで、組織コンビネーションと個のドリブル勝負が、うまく組み合わされていく。

 そんな攻めは、先制ゴールを入れられてからの15分間くらいはつづいたですかね。

 そこでは、誰もが、レッズの同点ゴールは時間の問題・・と感じていたに違いない・・でも・・

 そう・・ここから、二つ目のテーマに入るわけだ。ランコ・ポポヴィッチの絶妙な采配。

 東京は、この数試合つづけてきたスリーバックでゲームに臨んだ。そして立ち上がりに、セットプレーから先制ゴールをブチ込んだ。

 そこから彼らが、ゲームをコントロールしようと、ちょっと「落ち着き」気味の心理になったのは当然の成りゆきだよね。でも、ちょっと落ち着きすぎてしまったかもしれない。

 先制ゴールを奪われたレッズが、ガンガンと押し上げていったわけだからね。

 そして東京が、「擬似の悪魔のサイクル」に陥ってしまうんだ。

 そう、最終ラインに5人のディフェンダーが下がることで、中盤が「薄く」なってしまったんだよ。世に言う、ファイブバック状態。そりゃ、全体的に「下がりすぎ」だろ〜〜っ!!

 そんなだから、ガンガンと積極的に押し上げてくるレッズに、中盤を制されてしまうのも道理だった。でも・・

 そう、ある時間帯から、東京の前への「勢い」が加速していったんだよ。

 「えっ・・やっと東京が押し上げることが出来はじめたじゃない・・」

 そんなことを、隣に座る、後藤健生さんに話し掛けた。そしたら・・

 「そうそう・・東京がシステムをいじったことが功を奏しているということじゃない・・」

 「えっ!?」と私。

 「ファイブバックになっちゃってたから、フォーバックに戻したと思うよ・・」と、後藤さん。

 「アッ・・ホントだ・・高橋秀人が、本来のボランチへ上がったね・・そうか、ランコも、なかなかやるね〜・・」

 そんなことを話し合っていたんですよ。私は、別なコトに気を取られていたから、ランコが、高橋秀人を「上げる」ことで、最終ラインをフォーバックにしたことに気付かなかった。フムフム・・

 そして、そこから、ゲームが、まさに動的に均衡していくんだ。

 そこからは、レッズも、そう簡単には、東京ディフェンスブロックの「穴スペース」を攻略できなくなった。

 それは、とても、とても興味深いグラウンド上の現象だったんだよ。

 そんなゲーム展開を観ながら、こんなことを思っていた。

 ・・そう、やっぱり中盤なんだよ・・そこでの攻守のせめぎ合いの内容によって、ゲームの流れの内実が、ホントに、ガラッと変わってしまうことだってあるんだ・・

 そりゃ、そうだ。それまで、相手最終ラインと前線との間の「隙間スペース」をうまく活用できていたレッズが、高橋秀人が、そのスペースをケアーしはじめたことで、おいそれと「そこ」を活用できなくなったわけだからね。

 そして最後のテーマがセットプレー。

 この試合でブチ込まれた5ゴールのうち、四つはセットプレーからだったわけだから。

 ランコが、こんなジョークを飛ばしていた。曰く・・

 ・・サッカーじゃ、アタマを使わなければいけないんだよ・・ということで、この試合じゃ、オレ達が挙げた3ゴールは、全て、アタマを使ったわけだからね・・

 そう、東京の3ゴールは、全てセットプレー。それも全てがヘディングだったんだ。

 そのシーンを見直している。そして思った。ツボにはまったら、どんなスーパーディフェンダーでも、防ぐのは容易じゃない。

 もちろん、キッカーが優秀であることが大前提だよ。それがあるからこそ、全力スプリントで走り込む攻める選手は、「あの、スボットだ〜っ!!」って、完璧に、ボールの軌跡をイメージできる。

 だからこそ、デイヴィッド・ベッカムとか、中村俊輔といった「キックの天才」がいるチームは強いんだよ。受ける方も、迷わず「走り込める」わけだからね。

 そうなったら、守る方は、もう、(手足を駆使して!?)出来るだけ身体を寄せる(相手の動きを抑え込む!?)しかない。

 要は、ボールがくるスポットを明確にイメージできている攻めの選手が、その選手をマークする相手ディフェンダーの「目を盗んで」爆発スタートを切るわけ だから、その動きに付いていき、身体を寄せ、そして相手よりも「良い体勢」でボールを競り合わなければならない・・っちゅうことなんだよ。

 もし、ボールの軌跡と到達スポットが「ツボにはまった」ら、そりゃ抑えるのは至難のワザっちゅうわけだ。

 だからこそディフェンダーと攻める選手は、身体全体をつかって(つかみ合いながら!?)相手から自由になろうとしたり、逆に、その攻める選手の動きを封じようとするわけだ。

 とにかく、この四つのセットプレーゴールを見れば、いかに守備が難しいかが分かろうってなもんじゃありませんか。フ〜〜・・

 ところで、最後の、平山相太の決勝ヘディングゴールだけれど、そこでは、ゾーンとマンマークを併用するレッズのセットプレー守備が、完全に綻(ほころ)んだね。

 ファーポストゾーンからニアポストゾーンへ走り込む(走り込みながら、味方のヴチチョヴィッチを突き飛ばしていた!)平山相太は、最後の瞬間には、完全にフリーになっていたわけだから。

 とにかく、この四つのセットプレーゴールシーンには、様々な意味の「学習機会」が詰め込まれているよね。フ〜〜・・

==============

 最後に「告知」です。

 実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。

 でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。

 そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。

 だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。

 でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。

 ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。

 一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

 そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

 とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

 ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

 もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

 まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]