湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第10節(2013年5月6日、月曜日)

 

ランコ・ポポヴィッチの優れた采配・・その力強いパーソナリティーこそが、チーム発展の原動力!?・・(FC東京vsジュビロ、 2-2)

 

レビュー
 
 すごかったネ〜、FC東京。

 粘りに粘って、後半ロスタイムに、「2-2」となるドラマチックな同点ゴールをブチ込んだ。

 それは、ランコ・ポポヴィッチの優れた采配に因るところが大きかった。

 実は、私は、「2-0」とリードしていたジュビロの守備が、後半に入っても、とても落ち着いていたことで、安易にも、追いつくのは難しいかな・・なんてことを思っていたんですよ。

 それも、FC東京のダイナミズムが、後半になって大きくアップしたにもかかわらず・・

 ハーフタイムには、ランコ・ポポヴィッチが、こんな檄を飛ばしたとか。曰く・・

 ・・球際の競り合いをもっとしっかりやれっ!・・攻守の切り替えを早くっ!・・チーム全体の運動量をアップさせろ!・・全体をコンパクトに保って、もっと、もっとアグレッシブにプレーしてボールを奪い返せっ!・・等など・・

 たしかに後半は、相手にセカンドボールを拾われるシーンが減り、逆に、セカンドボールを奪ったところから、より頻繁にチャンスの流れを作りだせるようになったと「は」感じていた。

 とはいっても、ジュビロが魅せつづけていた集中力抜群のディフェンスは、とても安定していたんだよ。だからFC東京は、最終勝負を仕掛けるところまで、うまく攻め上がっていけない。

 そして、後半も10分が過ぎた頃には、徐々に、ゲームの雰囲気が「落ち着き」はじめてしまうんだ。そう、「動き」が出にくい停滞した空気が支配的になっていったんだよ。

 でも、そんな雰囲気を敏感に感じ取ったんだろうね、監督のランコ・ポポヴィッチが、そのモヤモヤした雰囲気をブチ破るんだ。

 まずランコは、残り30分というタイミングで、加賀健一とルーカスに代え、李忠成と石川直宏を同時に投入した。

 たしかに、その交替によって、ちょっとFC東京のリズムが活性化する雰囲気は出てきたと感じられた。でも、まだまだ、ゲームの流れが「大きく動く」気配はない。そこで、またまたランコが動くんだよ。

 後半26分に、渡辺千真に代えて、平山相太をグラウンドへ送り出したんだ。

 これで、FC東京の最前線は、まさに「フォー・トップ」なんていう感じになっちゃう。そう、平山相太、李忠成、石川直宏、そして東慶悟。

 また、その後方には、攻守にわたって、これ以上ないほど効果的な汗かきハードワークを魅せつづけていたスーパーボランチ米本拓司と、それまで攻撃ハーフとして気を吐いていた長谷川アーリアジャスールのコンビが入る。

 そして、本格的に「ゲームが動きはじめた」っちゅうわけさ。

 平山相太が登場した1分後には、その平山相太が、ドリブルで左サイドのゴールライン際まで持ち込み、彼の「大柄な!?」プレーイメージにはそぐわないほ ど繊細でスキルフルな「戻し気味のグラウンダークロス」を、ジュビロゴール前の(戻ったジュビロ守備ブロックの背後に出来た!)スペースへ送り込んじゃう んだ。

 その、素晴らしくスキルフルな「ラスト・グラウンダー・クロス」を、走り込んできた石川直宏が左足一閃・・ってな具合だった。これで、1-2。

 そして最後は、太田宏介のクロスボールを受けた李忠成が、冒頭の、後半ロスタイム同点弾を決めちゃう。これで、ドラマチックなストーリーが完遂した。

 とにかく、このエキサイティングな同点ドラマが、ランコ・ポポヴィッチによって(彼の采配で!)演出されたのは確かな事実だった・・ということが言いたかった。

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 そのランコ・ポポヴィッチだけれど、前半にジュビロに奪われた二つの失点に対しては、怒り心頭に発していたね。曰く・・

 ・・あのゴールシーンじゃ、選手たちが、アクションを起こすことなく、状況を観てしまった・・そう、ボールと状況のウォッチャーになってしまったん だ・・相手やボールに寄せたり、次のカバーリングポジションに入ったりするんじゃなく、とにかく呆然と状況に見入ってしまった・・

 ・・そんなシーンは、失点場面だけじゃなかった・・特に前半では、足を止めて状況に見入ってしまうシーンが目立ったんだよ・・それじゃ、セカンドボールを奪えないのも道理だ・・だから、ハーフタイムに、選手たちの目を醒まさせたというわけさ・・

 フムフム・・。だから、こんな質問をぶつけてみた。

 ・・ランコは正しいと思う・・たしかに、あの危急シーンで、選手たちは足を止めてボールや状況に見入ってしまっていた・・要は、集中力を欠いたというこ とだけれど・・負けを知らないアルディージャの守備陣が魅せる集中力からすれば、やはり大きな課題だと思う・・その、危急状態での集中力を高めるために は、どんなことが必要になると思う??・・

 例によって、ランコは、誠実に、そしてエネルギッシュに、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれたけれど、もしかしたら、そのときランコは、私の質問に対して、ちょっと「切れ気味だった」かもしれない。曰く・・

 ・・どのようにトレーニングするかって?・・それには、まず、それぞれの選手のパーソナリティーを知る必要があるよな・・それによって、集中力アップトレーニングの方向性や内容が決まってくると思うよ・・

 ・・ところで、いま、アルディージャのハナシを持ち出したよな・・一つ言っておきたいことがあるんだけれど、彼らと我々じゃ、目指すサッカーの方向性が まったく違うんだよ・・彼らは、守備を重視するサッカーを手掛けているよな・・それに対して我々は、攻撃的なサッカーを志向しているんだよ・・

 ・・それは、創造性や想像性が問われるだけじゃなく、最終ラインを高く保って全体をコンパクトにするような、リスクが伴う攻撃的サッカーなんだ・・

 ・・まあ、だから、たまには守備で集中力がダウンしてしまうこともある・・たしかに、チーム全体がコンパクトにまとまって積極的にプレーしているときは、効果的に集中プレスを掛けられるし、ボールがないところでのマークにしても、しっかりと把握できている・・

 ・・チームが全体的に機能しているときは、集中力も高みでキープし易いんだ・・でも逆に、チームが全体的に間延びしてしまったら大きな問題が生じる・・そんな状況で、1人が、相手ボールホルダーにプレスを仕掛けていっても、周りはついてこられないからな・・

 ・・そんなとき、全体的な集中力レベルがダウンすることが多いんだよ・・まあ、高い位置から、コンパクトに集中プレスをかけつづけたら、それは、疲労によって集中力がダウンしてしまうことだってあるだろうしな・・

 ・・だからこそ、ペース配分も含めたバランス感覚が大事になってくるんだ・・まあ、その優れたバランス感覚に基づいた集中力というテーマについちゃ、昨年から比べても大きく発展しているとは思うけれどね・・

 フ〜〜ッ・・

 ということで、ランコの「ボタン」を押してしまった筆者なのでした。

 とにかく、このコラムでは、FC東京が、とても素晴らしいプロコーチを指揮官にもっているということも言いたかった。

 その明るさと情熱、そしてメリハリの効いた強い指導力。ランコ・ポポヴィッチは、優れたパーソナリティーを秘めたプロコーチだと思うよ。

 あっ、そうそう・・。ランコは、こんなことも言ってたっけ。曰く・・

 ・・今日は、本当に勝ちたかった・・FC東京スタッフの塚田さんに子供が生まれたんだよ・・それを祝福する意味でもネ・・

 そう・・、こんな小さな言動一つとっても、彼の優れたパーソナリティー(リーダーシップ)が感じられるっちゅうわけさ。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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