湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第7節(2012年4月21日、土曜日)

 

ゲームの構図が決まってからの攻防が興味深かった・・(ARvsR、1-0)

 

レビュー
 
 「オレには見えていたよ・・アベとツボイがうまくスペースをカバーできていない・・ヒラカワのカバーリングも遅れている・・それじゃ、ヤツらのウラの決定的スペースへ、ヒガシとチョに走り込まれてしまう・・ってね」

 記者会見で、ミハイロ・ペトロヴィッチが、そんなニュアンスの内容をコメントしていた。

 そう、チョ・ヨンチョルが叩き込んだアルディージャの先制ゴールシーン。ホントに見事な、ウラの決定的スペースの攻略。美し過ぎる「ウラ取り」コンビネーション。思わず拍手が出た。

 また、アルディージャの追加ゴールシーン(ラファエルのキャノンヘッドゴール!)でも、同じく、レッズの右サイドがブチ破られた。

 シンプルに、下平匠へボールを預け、忠実なパス&ムーブでウラの決定的スペースへ抜け出していくチョ・ヨンチョル。その瞬間、本来チョ・ヨンチョルをマークすべきだった平川忠亮は、パスを受ける下平匠のチェックへ向かってしまった(同時に、柏木陽介も寄っていってしまった!)。

 チョ・ヨンチョルは、完璧にフリーで決定的スペースへ抜け出していく。そのゾーンには、坪井慶介や鈴木啓太もいたけれど、いかんせん、距離が遠すぎる。そして、まったくフリーでタテパスを受けたチョ・ヨンチョルは、完璧な「余裕」をもって、センターゾーンで待ち構えるラファエルをイメージした「高速クロス」を送り込んだ・・っちゅう次第。

 この二つともに、本当に素晴らしいゴールだった。賞賛に値する。そして、ゲームの構図が、完璧に決まった。それが、二つ目のテーマ。

 ・・失うモノがなくなったことで、後ろ髪を引かれないフッ切れた攻撃を仕掛けつづけるレッズ・・それに対し、守備を固め(8人のブロック!)、ラファエル、チョ・ヨンチョル、そして東慶悟の「才能トリオ」が繰り出す鋭いカウンターに懸けるアルディージャ・・

 わたしは、目を凝らしていた。このような厳しい状況で、レッズが、どのような攻撃を仕掛けていくのかに(選手たちがシェアする仕掛けイメージに)全神経を集中していた。

 ・・レッズは、強化されたアルディージャ守備ブロックを、どのように崩していくのか・・彼らは、意図的に、仕掛けの変化を繰り出していけるのか・・そこでは誰が、イニシアチブ(リーダーシップ)を発揮して変化を演出していくのか・・それとも、基本的なやり方を変えずに(あくまでもレッズが志向する組織コンビネーションで)仕掛けていくのか・・

 ということで結論だけれど、結局レッズは、最後まで「自分たちのやり方」にこだわりつづけたということですかね。

 わたしが思っていた攻撃(仕掛け)の変化の可能性だけれど、その主なところは、ミドルシュートとか、アーリークロス(ハイボール)を放り込み、そのこぼれ球を狙うとか・・そんな、どちらかといったら「アバウト」な仕掛けのことです。

 もちろん勝負ドリブルをブチかますやり方もあるだろうけれど(後半には原口元気も投入されたしね!)、でも、あれほど選手の「密度」が高くちゃ、うまく抜け出せるはずがないし、逆に「高い位置で」ボールを失う危険性も増してしまう。そうなったら、アルディージャに必殺カウンターのチャンスを与えてしまうのは道理。実際に、何度か冷や汗をかかされた。さて・・

 ということで、2点をリードされてから(ゲームの構図がカチッと決まってから!)タイムアップまで、レッズは自分たちのやり方を押し通した・・というテーマだけれど・・。

 「構図」が決まった初期の(その時間帯の)レッズは、まったくウラを突いていけず、シュートチャンスを作り出せそうな雰囲気さえ醸(かも)し出すことができなかった。そんな沈滞した仕掛けの流れを観ながら、ちょっとフラストレーションが溜まった。

 でも、(ちょっと驚かされたのだけれど・・)時間の経過とともに、レッズの仕掛けの実効レベルがアップしていったのですよ。

 たしかに簡単にゃ決定的スペースを攻略できない。でも、忠実な人とボールの動きを「粘り強く」繰り返すことで、徐々にアルディージャ守備ブロックを振り回せるようになっていったと感じたのです。そのデベロップメント(ゲーム展開の変容・・)は、とてもエキサイティングな体感だったね。

 そして、ポポの爆発フリーランニングにスルーパスを合わせるカタチで二つのシュートチャンスを作り出しただけじゃなく(アルディージャGKが素晴らしいセービング!)、柏木陽介や梅崎司の決定的なフリーシュート、はたまた(ロスタイムには)阿部勇樹のキャノンシュートも飛び出した。

 また、柏木陽介やポポが、何度か強引なミドルシュートもブチかました。でもそれは、どちらかといったら偶発的なチャンスだったけれどネ・・。

 グループ戦術としてミドルシュートを「打たせる意図」があった場合、そのイメージでボールを動かすだろうから、必然的に可能性は高まるよね。例えば、ボールを動かして相手守備を押し込みながら、最後はバックパスを出して、後方の味方にダイレクト・ミドルシュートをさせる・・とかネ。

 でも、柏木陽介やポポのミドルシュートは、どちらかといったら、強引な偶発チャンスだったということです。

 それだったら、もっともっと「強引なゴリ押しミドルシュート」をブチかましてもよかったのに・・なんてことを思ってしまうけれど、まあ、そんなコトをしたら、良い組織コンビネーションの「イメージ連鎖」が分断しちゃうだろうから・・。彼らも、そんな「微妙なイメージ連鎖メカニズム」をよく理解しているということなんでしょう。

 アッと、またまた脱線。ということで「ハナシ」を戻すけれど、要は、デスポトビッチも入ったのだから、アバウトでもいいから、もっと強引な仕掛けをブチかましたってよかったのではないかと思っている筆者なのですよ。

 自分たちのやり方を押し通しても「あれほど」のチャンスを作り出せたのだから、もし、少しでも「強引なアバウト変化」を挿入することが出来たら、「自分たちのやり方」でも、もっともっとチャンスメイクの可能性をアップさせられたに違いないと思うわけなのです。

 ちょっと微妙なテーマだったけれど、やっぱり攻撃の絶対的なコンセプトは、変化にあり・・なのです。

 スミマセン、レッズ分析に偏ってしまって・・。

 ということで、最後に、とても良いサッカーを展開しているアルディージャについて、鈴木淳監督に、こんな質問をぶつけてみた。

 「この試合で、アルディージャをスタジアム観戦するのは2回目になります・・もちろんビデオでも観ているのですが、とても良いサッカーをやっているアルディージャにしては、思うように勝ち点を伸ばすことが出来ていないという印象が強いのですが・・??」

 それに対して鈴木さんは、例によって真摯に、次のようなニュアンスの内容をコメントしてくれた。

 「これまでのゲームでは、攻めのときに人数を多くかけ過ぎてしまう傾向が強すぎたと思う・・それでは前後の人数バランスが悪化してしまう・・そのことで、ボールを失ってからカウンターを喰らって失点するケースが続いてしまった・・そのこともあって、レッズ戦に臨むにあたり、彼らのカウンターをしっかりとケアーできるように準備を進めてきた・・その意味で今日の勝ちは、ゲーム戦術がうまく機能したとも言えるかもしれない・・(前に人数を掛けていくような!?)攻撃的なサッカーが出来るに越したことはないが、それで点を入れられなかったら負けてしまう・・我々のテーマは、攻守のバランスを、いかに上手くマネージしていくかというコトだと思う・・」

 それにしても、レッズと対峙したときのアルディージャには、いつも特別なダイナミズムが「みなぎる」と感じるのは私だけじゃないに違いありません。

===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。