湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第3節(2012年3月24日、土曜日)

 

今節も2試合をレポート・・(COvsR、1-2)(RSvsSP、2-1)

 

レビュー
 
 まず、テレビ観戦したコンサドーレ対レッズ戦だけれど、今回「も」カメラワークが気に入らなかった。あれじゃ、ボールがないところでのせめぎ合いを十分に楽しめない。カメラ、本当に中途半端に寄り過ぎだぜ。

 ハイビジョンなんだから、カメラをもっと「引いても」全然ダイジョウブじゃないの? どうして、もっと「引かない」の? 何か避けられない理由でもあるの? わたしのようなテレビの素人には分からないコト? でもサ、テレビ中継の「コア」の目的と価値は変わらないんじゃないの? それとも・・??

 どうせ、アップにしなきゃ選手の顔なんて確認できないし、局面でのボールコントロールなど細かなプレーだって、カメラを引いても、しっかり楽しめるよ。

 特に、この試合では、レッズの永田充と阿部勇樹といった後方の選手が、決定的スペースを一挙に攻略しちゃう一発勝負ロング(ロビング)スルーパス「も」意識していたからね。

 デスポトビッチとか柏木陽介、この試合でリーグ戦デビューを果たした矢島慎也や両サイドハーフの面々が、マーク相手との駆け引きから(相手の視線を盗んで!)決定的スペースへ飛び出していくといった、ボールがないところでのドラマも観たかったんですよ。

 そんな一発ロングがあるからこそ、組織コンビネーション(パスサッカー)も効果的に機能させられる。はじめからショート&ショートでは、相手にリズムを掴まれてしまうからね。やはり、サッカーのキーワードは「変化」なんだよ。「ショート&ショート&ロング」ってなリズム。それがいい・・

 あっと・・試合。

 ということで、ちょっとモティベーションがダウンした状態で観戦していたから、どうも気合いが乗らず、グラウンド上の現象を「目で追いかけるだけ」になってしまうことが多くなってしまった。要は、一つひとつの現象に対する(そのバックボーン要素などに対する)瞬間的な「イメージの広がり」が出にくかったっちゅうことです。フ〜〜、面目ない・・

 とはいっても、レッズが順調に良くなっていることだけは、確かな事実でっせ。

 たしかに、人とボールの素早く大きな動き(まあ、走りの量と質のアップ!)と縦横無尽のポジションチェンジをベースに、至るところで数的に優位なカタチを作り出して相手ディフェンスを翻弄する・・というところまでは、まだまだだけれど、とにかく、観ているこちらにも、ミハイロ・ペトロヴィッチが推し進めているチーム作りベクトルの方向性が正しいことは誰の目にも明らかだった。

 そんな良くなっているプロセスで目立っているのは、阿部勇樹と鈴木啓太で組む守備的ハーフコンビ。特に阿部勇樹のゲームメイクセンスが光り輝いている。

 前述した一発ロング勝負パスだけではなく、効果的な仕掛けのタテパスを供給したり。もちろん守備でも、鈴木啓太と協力し、危ないゾーンやスポットにタイミングよく入り込んで素晴らしいカバーリング(ボール奪取勝負)を魅せたりする。

 ミハイロ・ペトロヴィッチがリードする「攻撃のチーム戦術」じゃ、この守備的ハーフコンビと、両サイドハーフ(スリーバックの両サイドバック)が、とても重要な役割を果たすと思うよ。もちろん、柏木陽介が抜群の存在感を発揮している「2列目のチャンスメイカー」もそうだけれど・・ね。

 とにかく、レッズのこれからが楽しみで仕方ありません。「次」はスタジアム観戦しまっせ。

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 さて次は、スタジアム観戦した、レイソル対エスパルス。とても、とてもエキサイティングでドラマチックな勝負マッチでした。

 まず、エキサイティング・・

 その代表は、何といっても、エスパルスがブチかましつづけたプレッシングサッカーだった。彼らは、ゲームの立ち上がりから、まさにフルパワーの協力プレスを仕掛けつづけるのですよ。昨シーズンのチャンピオンもタジタジ・・

 チェイス&チェックだけじゃなく、その周りで繰り広げられる協力プレスの輪、また忠実なマーキングやインターセプト狙いのアクション等など、そのレベルを超えた勢いに(レイソル選手だけじゃなく!)観ているこちらも、ちょっと度肝を抜かれた。

 エスパルス指揮官ゴトビさんは、学校を卒業したての若手が多く、彼らとベテランをうまく融合させている・・なんていうニュアンスのコメントをしていたっけ。私は、アグレッシブに闘いつづけるエスパルス選手を観ていて、ゴトビさんのストロング・ハンドを体感していた。

 ということで、前半は、エスパルスが完全にゲームのイニシアチブを握った。それだけじゃなく、先制ゴールまで決めちゃうんだよ。

 相手はレイソル守備ブロックだからね、流れのなかからは、そう簡単にチャンスは作り出せなかったけれど、それでも、押し込んでいるだけ、セットプレーの頻度はおのずと高くなるからね、それを、しっかりとゴールに結びつけた(フリーキックから、岩下敬輔の見事な流しヘッドが決まった〜!!)エスパルスに拍手です。

 次に、ドラマチック・・

 それは、もちろん、レイソルが演出した大逆転ドラマ・・

 後半のレイソルは、どんどんとペースアップしていった。ハーフタイムには、ネルシーニョ監督の強烈な檄が飛んだに違いない、後半のディフェンスは、まさに大変身を遂げていた。

 そう、いつも書いているように、守備こそが全てのスタートラインなのです。それが効果的に機能してはじめて自分たちのペースでプレー出来る。

 そんなレイソルは、後半も残り10分というタイミングから、セットプレーで次々と、同点ゴール、大逆転ゴールを決めちゃうのです。

 ということで、この試合で生まれた両チームの3ゴールは、その全てがセットプレーからということだった。ちょっと詰まらないね。でもさ、もちろん両チームともに、流れのなかからもチャンスのカタチは作り出していたよ。でも、その量と質という視点じゃ、やっぱりレイソルに軍配かな。

 でも、エスパルスがブチかましつづけた「抜群のハードワークサッカー」を考えれば、まあ、引き分けが妥当な結果だったかもしれないね。とにかく、それほど、エスパルスがブチかましたプレッシングサッカーは、見所満点だったのです。

 ということで、このコラム最後のテーマ。ハイテンポの(ダイナミックな)プレッシングサッカー・・

 ゴトビさんに聞いた。

 「本当に素晴らしくアトラクティブ(魅力的)でエキサイティングな(興奮させられる)サッカーを魅せていただいた・・でも、ゴトビさんもご存じのように、あのテンポのサッカーは、日本の夏場は出来ない・・そこで質問だが、両チームともに、全体的にペースが減退してこざるを得ない日本の夏場で、ゴトビさんのサッカーコンセプトのエッセンスを表現するために(高みで維持するために)もっとも大事なポイントは何だろうか?」

 「それは、経験だね・・たしかに夏場は全体的に(両チームともに)プレーのテンポは落ちる・・それでも、プレッシングサッカーの原則は、しっかりと維持できるはずだ・・要は、スピードを、経験をベースに、効果的にコントロールするということだね・・そこでは、ボールをしっかりとスピーディーに動かすことが、とても大事な要素になってくる(守備では、相手のボールの動きを抑制し、効率的に追い込んでいくことが大事!?)・・エスパルスは、盛夏でも、エキサイティングなショーを魅せられると思っているよ・・選手が歩いているようなサッカーじゃ、誰も観に来なくなるでしょ・・」

 アフシン・ゴトビさんは、あくまでも真摯に、そして余裕のユーモアセンスもミックスしながら、そんなニュアンスの内容をコメントしてくれました。

 さて、ということで、これからのエスパルスからも目が離せなくなった。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。