湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第27節(2012年9月29日、土曜日)

 

今節も2試合をレポートします・・(FC東京vsジュビロ、 2-1)(レイソルvsレッズ、 1-2)

 

レビュー
 
 本質で上回ること・・

 ジュビロの森下仁志監督が、ハーフタイムにそんな内容の指示を出したとか。良いね・・

 「そこで使われた本質という表現ですが、その意味合いには、闘う意志とか、積極的に(主体的に)仕事を探すことも含めた動きの量と質なども含まれますか?」

 「その通りです・・常に信念をもって行動していく・・そのことは、常日頃、選手に語りかけていることです・・それがしっかりと確立していれば、ギリギリ の勝負シーンでも、勇気をもってボールを動かせる(積極的なリスクチャレンジのラストパス!?)・・いまチームは、どんどんと発展していると思います・・ ただ、この試合でもそうでしたが、最後のシーンで、まだ執念が(強烈な意志とか集中力などが!?)足りない・・だから、最後の(シュートの!)瞬間にブ ロックされてしまったりする・・とにかく、遠いところを駆けつけてくれたサポーターに感謝するだけではなく、その方たちとも、選手たちの発展を体感しなが ら感動を分かち合いたい・・などなど・・」

 わたしの質問に、森下仁志監督が、そんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。良いね・・

 若き森下仁志さんは、優れたパーソナリティー(心理ダイナミズムやチャレンジ精神も含む!)とインテリジェンスが高い水準でバランスしている・・と感じる。

 そんな指揮官に率いられるジュビロだから、サッカーの内容が着実に進化&深化しつづけるのも道理。わたしも、彼らのハイレベルなサッカーは、いつも高く評価している。

 だから、この試合は大いに期待していた。そして実際に、素晴らしい攻防が繰り広げられた。ホント、面白かった。

 立ち上がりにおけるゲームの構図だけれど、アウェーのジュビロは、「まず」守備ブロックを安定させようとする姿勢でゲームに入ったのに対し、FC東京 は、前節(フロンターレ戦)で素晴らしい「入り」を魅せた前半のように、積極的に攻め上がっていく・・ってな感じだった。でも・・

 前半8分のコトでした。

 忠実なチェイス&チェックを繰り返す堅牢な守備ブロックによって、FC東京が繰り出す仕掛けの流れをことごとく抑え込みつづけていたジュビロが、必殺の カウンターを仕掛け(まあ、カウンターの流れの中で・・といった方が正確な表現かもしれないけれど・・)、右サイドから逆サイドへのラストクロスを送り込 んだのです。

 まあ、必殺のサイドチェンジ「ラスト・クロス」・・

 そのボールが、ファーサイドで待ち構えていた菅沼実にピタリと合っちゃうんだよ。あっ・・失礼! まさに、ジュビロがイメージする通りの決定的なカタチが演出された・・っちゅうことです。

 ゲームの流れからすればチト唐突ではあったけれど、ジュビロが目論(もくろ)んだとおりの最終勝負プロセスから、強烈なヘディング先制ゴールを奪ったっちゅうわけです。

 そして(その後)ジュビロは、8人で構成する守備ブロックをベースに、素晴らしくダイナミックなチェイス&チェックをブチかましながら効果的なボール奪取勝負を展開していくのです。

 前半のFC東京は、堅牢なジュビロ守備によって勢いを殺がれ、セットプレーとミドルシュート以外、まったくといっていいほどチャンスを作りだせなかった。

 でも後半は、そんな沈滞した前半とはまったく違う、まさに「動的な均衡」と呼ぶにふさわしい、エキサイティングな仕掛け合いが展開された。

 そんな「動的な均衡」は、FC東京のエジミウソンが同点ゴールを叩き込んだところから始まったとするのが正解ですかね。

 あっと・・その同点ゴールだけれど、それは、鋭いタテパスが、左サイドに開いていた石川直宏へわたり、そこから素晴らしい(ニアポスト勝負の!)クロスボールが送り込まれたことで生まれた。

 石川直宏は、ニアポストゾーンへ走り込んでくる(後半から登場した)ヴチチェヴィッチの動きに合わせて正確なラスト(トラバース)クロスを送り込んだのです。

 最初にボールに触り、ダイレクトでシュートを放つヴチチェヴィッチ。そして最後は、ジュビロGKが弾いた「こぼれ球」を、走り込んできたエジミウソンが蹴り込んだ。

 そして、ゲームが白熱していく。

 決して「ノーガード」の打ち合いじゃない。どのような表現が適当だろうか・・。とにかく、両チームともに、「攻守のバランス」を、ギリギリまで攻め「寄り」に偏らせていくのですよ。

 ちょっと抽象的な表現で分かり難い。要は、前線の攻撃カルテットを、守備的ハーフやサイドバックが、「より」積極的にサポートしていくようになった・・っちゅうことです。

 そんなエキサイティングな展開のなかで、どちらの方が「より明確な」イニシアチブを握っていたかって? どうだろうね〜・・。チャンスの流れを作り出すプロセスの「質」にしても、シュートチャンスの量と質にしても、わたしには「互角」のように見えた。

 FC東京では、特に、後半から登場したヴチチェヴィッチと、ケガの梶山陽平が交替したことで最終ラインから中盤へ上がった高橋秀人が、とても効果的なプレーを展開したと思う。

 ヴチチェヴィッチは、効果的なポストプレーだけじゃなく、組織的なコンビネーションにも、効果的に絡めていた。また、ドリブル勝負にも、何かを期待できるだけの「内容」があると感じた。

 また高橋秀人は、(ランコ・ポポヴィッチが言っていたように)中盤で、相手のチャンスの芽を摘むという役割を、とても効果的にこなしていたと思う。

 もちろんジュビロも、積極的に仕掛けていく。それがなければ、ゲームが、動的に均衡するはずがない。両チームともに、チャンスの流れでは、人数をかけて押し上げていくのですよ。

 ということで、積極的に押し上げていく両チームなのですよ。

 普通だったら、積極的に押し上げていく(攻撃に人数を掛けていく)という展開では、必然的に、次のディフェンスの人数が足りなくなるはずだよね。でも、 (ここが見所だったんですが・・)両チームともに、次の守備で、人数やポジショニングのバランスが、許容できないほど決定的に崩れるというところまでには 至らなかったのですよ。

 要は、両チームともに、素早く効果的な攻守の切り替えによって、最後まで攻守にわたって内容のある局面勝負を魅せつづけたということです。

 優れた意志を前面に押し出す、見所満点の闘い。観ている全ての人が、手に汗握る感動とともに、ゲームに見入っていたに違いない。そして最後は、ヴチチェヴィッチの決勝ゴール(アシストは、素晴らしいカタチでタテへ抜け出した渡辺千真!)によって決着がついた。

 さて、久しぶりのFC東京の勝利。

 このところ、天皇杯、リーグ戦と、立てつづけに信じられないカタチの負けを見せつけられていたから、心のなかで、ランコ・ポポヴィッチに「おめでとう!!」と呟(つぶや)いていた。

 また、素晴らしいサッカーを展開したジュビロにも(森下仁志監督に対しても!)、様々な意味合いを込めて、同様に「おめでとう」と呟いていた。

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 さて次は、レイソルvsレッズ。こちらも、エキサイティングな勝負マッチへと、時間を追うごとにゲームが成長していった。とても楽しめた。

 最後は、後半ロスタイム(!)にポポがブチかました、諦めを知らない「超ねばり」の全力スプリントが勝利をたぐり寄せた。

 ということでテーマだけれど、やはりここは何といっても、原口元気とポポの交替を取りあげざるを得ないよね。それによって、ゲームの流れが大きく変容したんだから。もちろん、レッズにとってポジティブなカタチに・・ネ。

 ミハイロ・ペトロヴィッチは、その交替の本当の理由について明言を避けた・・と思う。表面的には足首の状態が完全ではなかった・・なんてニュアンスのことを言っていたけれどネ。

 まあ、たしかに足首が万全な状態になかったコトもあったんだろうけれど、とにかく原口元気のプレーは散漫(自分勝手!?)だった。

 ポストプレーをやろうにも、まずポールをしっかりと止められない。何度、トラップのときにボールをはね上げてしまったことか(これじゃ相手にボールを奪われてしまうのも道理!)。

 それに、攻守にわたる汗かきプレーにも、チームメイトや観ている者を納得させられるだけの「量と質」が内包されていなかった。

 彼は、もっともっと積極的に、攻守にわたる「汗かき仕事」を探さなければいけない。

 また彼は、チームゲームとしてのサッカーが秘める、本質的な「互いに使い・使われるメカニズム」についても、もっと真剣に考えなければならないと思う。何といっても、彼は、ディエゴ・マラドーナじゃないんだから。

 たしかに、自分が得意のカタチでボールをもったら、他の誰にも真似できない、迫力あるスピーディーなドリブルをブチかませる。そしてそこから、ドリブルシュートまで決めちゃう。それは、それで、チームにとって、ものすごく価値のあるプレーだよね。

 でも、彼は、そんな価値ある個人勝負プレーを、どのくらいの頻度でブチかませるんだい?

 ディエゴ・マラドーナだったら、ボールに触ったら、少なくとも2回に1度は、決定的なカタチを「1人で!」作り出しちゃう。突破ドリブルにしても、決定的なパスにしても。それも、世界の舞台においてだぜ・・

 もし原口元気が、そのレベルの(相手にとって危険な!)個人プレーを、ものすごく高い頻度でブチかませるんだったら、誰も文句など言えない。もし本当に「そう」なのだとしたら、原口元気を中心にしたチーム作りをするのが正解だよね。

 監督さんにとっても、チームにとっても、そんな原口元気の「才能」によって、より大きな金儲けが出来るんだから文句などあるはずがない。率先して、原口元気が「良いカタチでボールを持てる」ように、汗かきハードワークに精進するでしょ。

 また監督さんにしても、原口元気がプレーし易いようにチーム戦術を組み直すだろうし、選手にも、原口元気の良さが出るように(汗かき!?)プレーさせるに違いない。

 でも、いまの原口元気の個人勝負プレーには、それほどの価値があるとは思えない。とにかく、それには大きな疑問符がつくよね。

 それに対して、原口元気と交替出場したポポ。

 彼は、自分の限界を良く知っている。だから、攻守にわたって、全力で「ハードワークを探し」つづける。まさに、本物の闘う意志。

 だからこそ、自らの意志で、得意のカタチに持ち込めるし、高い実効レベルで、勝負ドリブルや、自分がコアになったコンビネーションをブチかませる。

 そしてこのゲームでの彼は、そんなハードワークの集大成とも言えそうな全力スプリントによってヒーローに輝いた。

 原口元気は、もっともっと、攻守にわたるハードワークに精進しなければいけない。それは、彼が、素晴らしい才能に恵まれているからに他ならないんだよ。

 その才能を、もっともっと効果的に活かしていくためにも、攻守にわたる忠実なハードワークに磨きをかけることが必要なんだ。

 もし原口元気が、その「メカニズムと重要性」を心底体感して理解し、それに精進すれば、彼は、どんなチームにとっても、かけがえのないスーパースターになれるはず。

 この試合でヒーローになったポポがブチかました、攻守にわたるハードワークを、ベンチに下げられた原口元気は、どのような思いで観察していたのだろうか? 心底、彼が「そのあたりのメカニズムについて」、どのように考えているのかを聞いてみたい。

 自慢じゃないけれど、私は、ドイツ時代も、帰国してからも、多くの、「天才」と呼ばれる選手と対峙した経験がある。

 甘やかされ、意識と意志をアップさせられなければ、単なるボールプレイヤーとして、すぐに表舞台から消え失せる。それに対して、何らかのキッカケで、サッカーの本質的なメカニズムを体感し、理解した「天才」は、本物になる。

 もちろん、ディエゴ・マラドーナは、その限りに非ず。でも彼は、十年に一度出てくるかどうかという「大天才」だからね・・念のため。

 とにかく、原口元気が、本当の意味で、世界トップへ向けた「本物のブレイクスルー」を果たすことを期待して止みません。もちろん、ミハイロ・ペトロヴィッチと杉浦大輔さんのコンビにも大いに期待しますよ。

 あっと、このゲームで大活躍したGK加藤順大も、取りあげなければフェアじゃない。この試合での加藤順大は、少なくとも3本は「絶対的ピンチ」を防いだわけだからね。

 このところ寝不足がつづている。だから、今日のところは、こんな感じでキーボードを置くけれど、ゲームのなかで発生した、攻守の様々な「せめぎ合い」や「調整」など、気付いたら、また書き足すかもしれません。

 ということで、今はこんなところでご容赦アレ。

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 あっと、追伸・・というか、報告。

 来週の、レッズ対コンサドーレ戦。ラジオ文化放送で生中継することが決まったそうな。ということで、私が、その番組で解説することになりました。

 来週は、ラジオご持参で観戦を・・なんてネ。あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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