湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第1節(2012年3月11日、日曜日)

 

レベルを超えた「勢い」を最後までブチかましつづけたマリノス・・(RSvsM、3-3)

 

レビュー
 
 「マリノスの3点目だが、その同点ゴールについては、彼らの(絶対に同点にしてやるぞっ!という・・)強い気持ちを称(たた)えたい・・」

 レイソル、ネルシーニョ監督の素敵な言葉でした。You can be also a good loser...

もちろんレイソルは負けたわけじゃないけれど、後述するように、勝負の流れは完全にレイソルに傾いていたわけだから・・。あの時点じゃ、誰もが、レイソルの勝利を信じて疑わなかったはず。でも最後の瞬間、確信していた成功の果実が、スルッと手の平から滑り落ちた・・。

 そんな落胆は呑み込み、フェアに闘い、成果を挙げた相手を称えることができる。それこそが、グッドルーザーたる所以なのだと思う筆者でした。

 あっと、またまた前段が長くなりそうな感じに・・

 ということで、「ドラマチックなゲーム展開」を地でいくようなエキサイティングマッチへと成長していったこのゲームについては、流れを追いながら、ランダムにポイントを列挙することで、もっとも大事なテーマを抽出しようと思う。

 ・・マリノス樋口靖洋監督が、記者会見でこんなことを言っていた・・曰く・・コンパクトな守備を基盤に粘り強い勝負を仕掛けていくつもりだった・・でも実際には、オープンな試合になってしまった・・

 ・・オープンゲームとは(もちろんノーガードの打ち合いではなく)、まあ、リスキー要素の方が目立つ、フッ切れた仕掛け合いというニュアンスでしょうね・・たしかに「後のこと」にも気を遣うけれど、でも最後は「エイヤッで、行っちゃう!」ような、積極的に仕掛け合うエキサイティングマッチ・・

 ・・まあ、ゲーム開始2分でレイソルに先制ゴールをブチ込まれちゃ、マリノスだって黙っているわけにゃいかない・・「失点」という強烈な刺激によって、マリノスがフッ切れ、ガンガン「行きはじめ」ちゃうのですよ・・そう、後ろ髪を引かれないリスクチャレンジのオンパレード・・

 ・・この時間帯・・マリノスの攻撃の勢いは、恐ろしいほどに底なしだと感じられた・・

 ・・「あの」堅牢なレイソル守備ブロックが、何度もウラを攻略されちゃったからね・・ドリブル勝負で置き去りにしちゃったり、一発ロングでウラの決定的スペースを攻略されちゃったり・・もちろん決定的フリーランニングとパスの見事なコンビネーションだよ・・

 ・・そして、レイソルが先制ゴールを挙げた数分後には、マリノスが同点ゴールをブチ込んでしまうのです・・でも逆に、「失点」という刺激によって、レイソルにも火がついちゃう・・ガンガンと仕掛け合う両チーム・・観ているこちらは、時間を忘れた・・

 ・・そんなゲーム展開のなか、前半11分には、見事なカウンターから、田中順也がグラウンダーシュートをブチ込み、再びレイソルがリードを奪っちゃう・・

 ・・そして、その失点によって、マリノスの勢いが、より一層フッ切れ、増幅される・・フ〜ッ・・

 ・・とはいっても、徐々に、ゲームの全体的な流れに「落ち着き」が出てくるのですよ・・ハイペースの仕掛け合いは、そう長くつづけられるモノじゃないからね・・

 ・・そこでは、ホームのレイソルが主導権を握りはじめていった・・堅牢なディフェンスが落ち着きを取り戻し、それをベースに、しっかりとゲームをコントロールしはじめたのですよ・・でもネ・・

 ・・そんな流れのなかで、唐突に、マリノスの齋藤学が、素晴らしいドリブル突破から左足を振り抜いたのです・・まさにワールドクラスのキャノンシュート!!・・彼の左足から放たれたシュートは、レイソルゴールの左サイドネットに突き刺さっていった・・その大迫力ゴールに、誰もが息を呑んだ・・これで「2-2」の同点・・でもネ・・

 ・・そう、その4分後の後半18分には、レアンドロ・ドミンゲスが、見事なミドルシュートを決めちゃうんだよ・・

 ・・中盤の深い位置からドリブルをはじめたレアンドロ・ドミンゲス・・どんどんと中央ゾーンを突き進み、最後はヴァイタルエリアまで迫っちゃう・・でも、マリノス守備の誰一人として、レアンドロの突進を止めようとしない・・

 ・・この瞬間、レアンドロ・ドミンゲスには余裕ができた・・マリノスGKのポジショニングを正確に把握する余裕ができた・・そして次の瞬間、右足アウトサイド一閃・・そして、30メートルはあろうかというミドルシュートが、見事に、マリノスゴールの右上隅に吸い込まれていった・・これで、再びレイソルが「3-2」のリードを奪う・・でもネ・・

 ・・そう、タイムアップ寸前、マリノスの谷口博之が劇的な同点ゴールを叩き込むのですよ・・ネルシーニョ監督が言う、気持ちの入ったゴール・・ライナー性のクロスをニアポストで合わせた見事なヘディングシュートは、レイソルゴールの逆サイドネットに吸い込まれていった・・

 ・・ちょっとゲームの流ればかりを「追いかけてしまった」感がある・・あまりにもドラマチックな展開だったから、まあ、いいでしょ・・

 ・・ということで、そんなドラマチックなゲーム展開を追いながら注目したポイント・・

 ・・それは、レイソルが全体的にゲームを支配している(誰もがレイソルの勝利を確信するようなゲーム展開へと落ち着いていった!?)にもかかわらず、たまに繰り出すマリノス攻撃の勢いと危険度が、全く衰えを見せず、強固なレイソル守備ブロックを崩しつづけたというポイントです・・

 ・・普通の流れだったら、レイソルの安定したゲームコントロールに、相手チームは「めげ気味」になって勢いを失ってしまうものです・・でもマリノスは違った・・彼らのフッ切れた攻撃は、まだまだ、それなりの危険度を高みで維持していたのですよ・・

 ・・マリノスの超特急(小兵)トリオ、小野裕二、大黒将志、齋藤学が、言わずと知れた中村俊輔の指揮の下、両サイドから、はたまた中央ゾーンから、まさにフッ切れた勝負を挑んでいく・・ドリブル勝負でも、パスレシーブの走り込みでも・・

 ・・その迫力プレーには、ネルシーニョがいう強い気持ちが充ち満ちていた・・そして実際に、何度もレイソル守備ブロックのウラを攻略し、ゴールチャンスを作り出した・・

 ちょっとディスカッションが矛盾しているように感じられるかもしれない。

 何せ、堅牢な守備ブロックが高みで安定しはじめ、それを基盤にゲームを効果的にコントロールしはじめたレイソル・・なんて書いたわけだからね。

 でも、だからこそ、強烈な意志を前面に押し出すダイナミックで危険なマリノスの攻めが目立ちに目立っていた・・ということの「方」を強調したかった筆者だったのかもしれない。

 エッ・・!? それは、レイソル守備ブロックが不安定だった(バタついていた)ことを意味するのであり、マリノスの攻撃が特段に危険だったわけじゃない・・って!?

 そこなんだな〜、ポイントは。サッカーでは、常に、攻撃と守備の「表裏バランス」をベースに評価しなければいけないわけだからね。

 とにかくここでは、マリノスが、とても堅牢な(高い機能性を回復した!)レイソル守備ブロックを何度か崩し切るほどの「勢い」を最後の最後までキープしつづけた・・という捉え方をしようと思っている筆者なのですよ。

 まあ・・、不確実な要素が満載された本物のチーム(ボール)ゲームであるサッカーは、本物の心理ゲームでもあるというコトが言いたかったのかもしれない。

 何か、舌足らず。また明日にでも読み返して加筆するかもしれません。ということで、ご容赦アレ・・

===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。