湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第13節(2012年5月26日、土曜日)

 

今節は、2試合をレポートします・・(FRvsVE, FCTvsR)

 

レビュー
 
 はい、味スタに到着。でも試合開始まで1時間半もあるから、それまで、フロンターレ対ベガルタ戦のコラムを書くことにしました。

 等々力を出てからは、多摩川を越え、環八から甲州街道を経由した。とにかく、ものすごく込んでいたから疲れた。例によって、予想不可能な動きをする「週末ドライバー」をケアーしていたから、とても気を遣ったのですよ。フ〜〜・・

 ということで、フロンターレ対ベガルタだけれど、とてもドラマチックな幕切れになった(経過、結果については他のサイトをご参照アレ)。わたしは、ゲーム内容的には、引き分けがフェアな結果だと思っていたから、ちょっと複雑な気持ちにさせられた。

 それは、あんなに頑張っているベガルタなのに・・という思いが先に立ったからでした。でも、ちょっと間を置いてからは、まあ、風間八宏率いるフロンターレも日を追うごとに良くなっているし、「あのサッカー」がリーグで存在感を発揮することは貴重なコトだから、まあ、いいか・・なんて気持ちに落ち着いた。

 でも、やはり、ベガルタ選手たちのガンバリは賞賛に値するということは強調しておきたい。

 一人もサボらず、攻守にわたって(特にボールがないところで!)仕事を探しつづける。それが、リスキーであっても、大変なエネルギーが必要な汗かきの仕事でも・・アタマが下がる・・

 手倉森誠監督も、記者会見で、こんなニュアンスの内容をコメントしていたっけ。曰く・・

 ・・ケガ人などが多く出ているなか、そのマイナスを互いにカバーしようとする選手たちの意識の高さにアタマが下がる・・このチームは逞しい・・真面目で団結力がある・・そのガンバリで互角(以上の!?)闘いができた後半の内容を考えれば、負けなくてもいい試合だったとは思うのだが・・

 そう、私もそう思う。だから聞いた。

 ・・わたしは、中学校時代、2年間を仙台で過ごした・・だから、何となく分かる・・仙台市民の方々が、ベガルタを、心の底から誇りに思っていることが分かる・・もちろん手倉森さんのプロコーチとしてのウデが素晴らしいコトは言うまでもないが、仙台という町がチームを包み込んでいることも大事・・そんな市民の誇りの感情がチームに伝わることこそが最大のサポートだと思うのだが・・

 ・・そうですよね・・私も、そう思います・・今年の我々のキーワードは、「東北のシンボルになる!」というモノなんです・・東北の誇りになりたいってね・・そのためにも頑張っているわけです・・そう、一致団結して・・サッカーは一人では出来ない・・我々は、チームとして輝けることをしっかりと理解しています・・J2時代が長かったこともあるんでしょうが、J1で闘うようになってから、サポーターとの絆がより強くなってきているとも感じます・・そこには、郷土愛的な要素もあるのかもしれない・・

 手倉森誠さんと話すと、つい、このタイプの話題になってしまう。前回は、震災による団結心と、「サッカーで東北を元気にしよう!」というキーワードが出たっけネ。

 さて次は、風間八宏率いるフロンターレの「攻めのチーム戦術」というテーマに入りましょう。言葉で表現するのは簡単ではありませんが、とにかくチャレンジします。

 いつも書いているように(拙著をご参照アレ)攻撃の目的はシュートを打つことです。でも、そのための当面の目標イメージは、スペースを攻略することと表現できる。要は、フリーでボールをもつ選手を演出するということです。

 そのスペースが、相手守備ラインの背後(ウラの決定的スペース)だったら理想的。すぐに攻撃の目的を達成できる。でも、そこに至るのは、簡単じゃない。

 風間八宏は、その「当面の目標」を、基本的にはパスで達成しようとする。もちろん、ドリブルで相手を抜き去っても、決定的スペースを攻略したことになるけれど、基本的にはパスで決定的スペースを攻略しようというわけです。

 ただし、組織パスプレーだけでシュートへ至るのは希だし、突破ドリブルだけで相手守備ブロックを打ち破るのだって不可能に近い。まあ、ディエゴだったら、やっちゃうだろうけれど。そう・・「あの」ディエゴ・マラドーナのことだよ。あははっ・・

 要は、攻撃プロセスは、常に、組織パスと個人勝負プレーの効果的なミックスで成り立っているっちゅうことです。でも、風間八宏の場合は、あくまでもパスをメインツールに相手ディフェンスを崩していくというイメージだよね。

 そのパスだけれど、それには基本的に2種類しかない。「足許パス」と「スペースパス」。

 皆さんもご存じのように、パスの多くは足許パスです。とはいっても、まったく止まった状態で、その次に「何も起きない」ような、単なる逃げの横パスとかアリバイの意味合いが強い(逃げの)パスを出すのでは、ネガティブな「足許パス」という批判は免(まぬが)れない。

 ちょっとハナシが錯綜しはじめた。

 とにかく、フロンターレが目指しているのは、ダイレクトでもワントラップでも、しっかりとした『活きた』足許パスをつなぎつづけることで、相手ディフェンスの視線と意識、そしてアクションを引きつけて(要は、相手ディフェンスを振り回して!?)決定的スペースを攻略していこうというモノだと思うわけです。

 そして、最終勝負ゾーンで(ある程度フリーで)ボールをもったら、そこから必殺のドリブルシュートや必殺スルーパスをブチかましていくっちゅうわけです。

 いまは、ほとんどの「ウラ突き(ロング)スペースパス」は中村憲剛から供給されているけれど、今日のゲームでは、彼以外の選手も、ラストスルー(スペース)パスにトライしていたね。これは、とてもポジティブな傾向。風間八宏監督も、徐々に良くなっていることを実感しているようだ。

 これまでの「スペースパス」による仕掛けは、こんな感じ・・

 中村憲剛が、前を向いて、ある程度フリーでパスを受けられる状況にいるとなったら、最前線の(特に矢島卓郎)が例外なく爆発スタートを切るんですよ。もちろん事前のアイコンタクトもあるんだろうけれど、とにかく素晴らしい確率で、正確なロングスルー(スペース)パスが、相手守備ブロックのウラの決定的スペースへ供給され、フロンターレ選手(例えば矢島卓郎ね)のフリーランニングと、ピタリと合っちゃう。

 とにかく、そんな「フリーランニング」と「決定的スペースパス」の連動コンビネーションは、とても高い確率で成果を挙げていると思う。

 そこで、風間八宏監督に、こんなニュアンスの質問を投げかけた・・

 ・・風間さんが志向するサッカーについては、国際コーチ会議などでよくディスカッションされるから、ある程度は分かっているつもりです・・そこで質問です・・私は、そのサッカーで、もっとも重要なキーワードには、二つあると思っているんですよ・・一つは、足に瞬間接着剤でも付いているかのような正確なトラップ・・一発で、まさに寸分の狂いもないほど正確に、そして素早く足許に収まる優れたトラップ・・

 ・・そして、もう一つが、パス回しに確固たるリズムがあること・・そのリズムが確立しているからこそ、チームメイトたちにも動きが出てくる・・絶対にパスが出てくると確信できるからこそ、走る・・そのことについてコメントをいただけませんか?・・

 ・・おっしゃる通りです・・まだ安定していないけれど、どんどん良くなっていますよ・・もちろんボールの動き、パスのリズム、トラップ、アイコンタクトなどなど、まだ課題は山積みですがネ・・例えば中盤の選手が素早く前を向いてトラップできたら、周りが見えるし、味方とのアイコンタクトも容易になる・・

 ・・また例えばトラップですが・・そこでは、マークする相手のアタックアクションをしっかりとイメージできていることも重要ですよね・・わたしは、相手の勢いを大きくするなってよく言うのですが・・スパッと、まさにスムーズにボールを支配下に置けたら、マークする相手だって、そう簡単にはアタックを仕掛けられないでしょ・・私は、そんなキーワードを開発することも大事な仕事だと思っているのです・・また、パスで(ボールの動きで)相手の勢いを止める・・なんていう表現もありますしね・・例えば、前半立ち上がりの時間帯では、ブランメル選手たちは、積極的にボールを奪いにこなかったですよね・・それは、彼らが、そう簡単にはボールを奪い返せないという印象をもっていたからなんですよ・・

 風間八宏さんとは、機会を改めて、キーワード開発について話し合うことにしましょうかね。キーワードを開発するためには、サッカー現象のメカニズムを深く理解していなければならないわけだから・・。

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 さて、ものすごくハイレベルな緊張感が、最後までゲームを覆(おお)い尽くしていたエキサイティングマッチ、FC東京vs浦和レッズ。

 そこは、まさに極限の動的な均衡と呼ぶに相応しい雰囲気が支配されていた。誰もが、最後まで手に汗握って観戦していたに違いない。

 もちろんそれは、チカラのあるチーム同士の意地と意地が対峙したギリギリの勝負マッチだったから他ならない。

 優れた個のチカラをベースに、両チームとも優れた組織サッカーを展開する。だから、ちょっとした油断が致命傷になる。だからこそ、互いに、最高の集中力で「穴」をふさぐ。フムフム・・

 FC東京にしても、より積極的に攻め上がっていったとはいっても、後方の選手たちは、次、その次のディフェンスに備えて、これまた極限の集中力で、前後左右のポジショニングバランスをマネージしつづけていたのですよ。

 レッズだけれど、前節のエスパルス戦と同様に、まずしっかりと守備ブロックを安定させるというゲーム戦術で試合に入っていった。相手は、チカラのあるFC東京だし、彼らのホームスタジアムだから、まあ当然の選択だった。だから、見た目には、FC東京の「組織コンビネーションサッカー」がゲームを支配しているように映っていたのかもしれない。

 でも内実は、ちょっと違う。たしかにFC東京の仕掛けは、部分的には危険なニオイを放ってはいたけれど、それでも、レッズの守備ブロックを振り回して決定的スペースを攻略するという、本物のチャンスメイクまでいけないのですよ。

 逆に、時間の経過とともに、レッズが、攻め上がっていく時間帯が増えていく。

 ここでテーマだけれど、それは「攻撃の変化」。たしかにFC東京の組織コンビネーションサッカーは優れている。このことについては、いつも書いている通りです。でも、この試合では、そのコンビネーションサッカーが、うまく機能する場面は少なかったよね。

 レッズは、十分なスカウティングによってFC東京の「やり方」を研究し、対抗する手段(ゲーム戦術)を、練りに練っていたに違いない。そして、イメージトレーニングも用いながら、ゲーム戦術を選手たちに徹底させたということです。

 見た目にはよく分からなかったけれど、たしかにレッズ守備ブロックが、FC東京の攻めを意図的にコントロールしていたフシもある。

 そのように、うまくFC東京の攻めを受け止めたレッズは、ショート&ショートの組織コンビネーションだけじゃなく、例によって、ロングボールや効果的サイドチェンジも活用しながら(要は、攻めのゾーンや、攻め方のイメージ自体を変化させながら!)危険な攻めを繰り出していく。

 前半は、両チームの監督さんが認めていた通り、チャンスの量と質という視点で、レッズに一日の長があった。

 でも後半は、完璧に拮抗していくのです。そう、動的な均衡・・

 互いに、極限の集中力で次のディフェンスを準備しながら攻めを繰り出していく。もちろんチャンスとなったら、前後左右のポジショニングバランスを「積極的に」崩してまでも、決定的スペースを攻略する勝負プレーを仕掛けていく。

 そして互いに、何度か、決定的チャンスを作り出すのですよ。その都度、スタジアムがどよめき、悲鳴まで上がる。この緊張感。ホント、堪えられなかった。

 この試合については、先制ゴールや同点ゴールなども含め、明日ビデオを確認しながら書き足すつもりです。今日は、もう、ちょっと限界。思考に「広がり」がなくなってきていることを体感してます。ゴメンなさい。今日は、ここまで。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。