湯浅健二の「J」ワンポイント


2012年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第10節(2012年5月6日、日曜日)

 

サッカーは、ホンモノの意志のスポーツ・・(JUvsR、2-2)

 

レビュー
 
 前半は、ホントにどうなることかと心配がつのった。レッズは、かなり重傷の「心理的な悪魔のサイクル」に落ち込んでいたんですよ。そう、失敗やミスをしたくないという後ろ向きの心理・・

 たぶんレッズは、強いジュビロのホームゲームということで、まずは安定したカタチでゲームに入っていこうとしたんだろうね。そう、まずゲーム戦術を優先する・・

 まあ・・、しっかりと安定した守備ブロックをベースに、次の攻撃では、ポポ、マルシオ、そして柏木陽介で組む前戦トリオに、両サイドバックと守備的ハーフコンビのなかで(まあ、槙野智章も含めて・・)、状況とタイミングでチャンスを得た者が、交替に押し上げていく・・というイメージ。

 もちろん、その攻撃をカウンター気味に仕掛けていけたら理想的。

 もちろんそれは、ジュビロ守備陣が、自軍ゴールを向いて戻るという「流れに乗って」決定的スペースを突いて攻め切る・・ジュビロ守備陣に、ディフェンス組織を整える余裕を与えず攻め切っちゃう・・ってなイメージだね。

 でも、前半のレッズは、攻守の切り替えが遅い、遅い。そして、ボールを奪いかえしても、サポートの人数が足りない・・

 そんなレッズだから、攻守にわたって、どんどん鈍重に落ち込んでいってしまうのも道理。まあ、守備はそこそこ機能してたけれど、次の攻撃は目も当てられなかった。そして徐々に、守備での集中力も、「見えないところで」減退へ転じていったと感じた。

 もちろん「その現象」については、ジュビロの攻守の切り替えが強烈に忠実で鋭かったことも、その要因として挙げなきゃフェアじゃない。とにかくジュビロがブチかましたチェイス&チェック(積極プレッシング)は、少なくともレッズの「2倍」は勢いがあった・・なんていう印象を残すほど忠実で積極的だった。

 相手のボールを前戦から「追いかけ、追い詰める」という意味合いのチェイス&チェックだけれど、やっぱりそれは、良いサッカーの絶対的な前提なんだよ。相手のボールを奪いかえす守備こそが、サッカーにおける全てのスタートラインという意味も含めてネ。

 もちろん「最初のチェイス&チェック」でボールを奪い返せるなんていうケースは希。でも「そんな忠実アクション」が、味方にボール奪取のチャンスを作り出す。だから、それは、全てのプレーの基本中の基本であり、次のボール奪取プロセスや、その次の攻撃をも活性化する。それは、世界サッカーの常識・・

 チェイス&チェックは、味方のボール奪取プロセス(連動する守備アクション)を活性化するだけではなく、積極的にプレスを仕掛けていく(汗かきアクションを増幅させる)ことによって、次の攻撃での、ボールがないところでのサポートのアクションの量と質も、格段にアップしていくものなんだ。そう、世界の常識・・

 その、大事な大事な「忠実チェイス&チェック」の量と質で、前半のジュビロとレッズでは、明確な差があった。それじゃ、レッズが、効果的にボールを奪い返せるはずがない。また攻撃でも、(人数を掛けて!)勢いを高揚させられるはずがない。

 あっと・・ちょっと前半に偏り過ぎた。とにかく前半のゲーム内容には、それだけフラストレーションがたまったんだよ。

 もちろん、ミハイロ・ペトロヴィッチも例外じゃなかったはず。彼のハーフタイムの指示だけれど、そのもっとも大事な部分が、闘う姿勢と、局面での(特にディフェンスでの)競り合いについてだったらしい。

 そして後半、沈滞していたレッズのサッカーが、明らかなイメチェンを果たす。

 そのイメチェンのバックボーンもまた、ディフェンスにあった。そう、チェイス&チェックの量と質が、(もちろん前半と比べてだけれど・・)アップしたのですよ。そう、闘う意志の高揚・・

 そしてゲームが、ダイナミックに成長していった。

 レッズが、逆転し、ジュビロが同点に追い付く。そしてその後は、互いに何度か、積極的に仕掛け合い、せめぎ合うなかでエキサイティングなチャンスも演出した。

 まあ、全体的なゲーム内容からすれば、フェアな引き分けだったとすることに異論をはさむ方はいないでしょ。でも私は、レッズが、持てるチカラを120パーセント発揮しなかった(出来なかった)こと・・自分たちのチカラを限界まで絞りだそうとチャレンジしなかったこと(特に前半!)に、ちょっと落胆していました。

  「そのこと」を、もっとも切実に「体感」したのはプレイヤー諸君だろうから、彼らには(野田紘史の、ビデオで見直す反省のイメージトレーニングも含めて!)この試合を、貴重な学習機会として活用できることを願って止みません。

 このコラムで私が言いたかったことの骨子は、イレギュラーするボールを足で扱うサッカーが、限りなく自由な、意志のスポーツであるということなんだよ。

 サッカーでは、リスクにチャレンジしていかなければ(自分からボールを奪いにいったり、攻撃では、積極的にサポートへ急行したりスペースへ飛び出していったり・・等といった勝負プレーにチャレンジしていかなければ)、決してミスを冒すことはない。でも、それじゃ、何も生み出すことは出来ないし、達成感もゼロでしょ。いや・・マイナスかも・・

 かれこれ30年以上前にドイツへサッカー留学していた当時、友人のプロコーチに、こんなことを言われたことがある。

 それは、プロコーチ養成コースで、紅白マッチをしていたときのこと。私は、前方のスペースへ飛び出してパスを受けなければいけないところを、相手のマークに張り付いてしまった。ミスや失敗が怖かった・・

 そのとき、その(強烈パーソナリティーの)友人に言われた。

 「サッカーは自由なボールゲームだよな・・でも、リスクにチャレンジしない者は、自ら、自由を手にする権利を放棄したっちゅうことなんだゾ・・」

 フ〜〜・・。そう、サッカーは、ホンモノの意志のスポーツ・・なのです。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。