湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第27節(2011年9月25日、日曜日)

 

後半には、とても興味深いゲームの流れの変化があった・・(RSvsAR, 1-3)

 

レビュー
 
 いや・・ホント・・前半のゲーム展開は退屈の限りを尽くしたけれど、後半になって、とても内容の濃い勝負マッチへと成長していった。はるばる柏まで足を伸ばして、ホントに良かった。

 前半4分に、コーナーキックからアルディージャが挙げた先制ゴール。キム・ヨングォンがスリップヘッドで流したボールを、アルディージャの絶対的エース、ラファエルが、これぞ才能・・っちゅう、落ち着いたボレーで、レイソルゴールの右隅にズバッと決めた。まさに、目が覚めるような美しいゴールだった。

 こちらは、そんな「強烈な刺激」をブチかまされたレイソルが、ガンガン前へ仕掛けていくものとばかり思っていた。でも実際は、まさに鳴かず飛ばず・・ってな体たらくだったのですよ。そして、時差ボケに悩まされている筆者は、アクビを押し殺すことに苦労しつづける・・フ〜〜・・

 そんなジリ貧の前半の展開について、レイソルのネルシーニョ監督が、こんなコメントをしていた。

 「あのゴールで、アルディージャは落ち着いた・・それに対して我々は、攻守の切り替えが遅いことでペースアップできず、守備もおろそか、そして攻撃でも、各人がボールばかりを欲しがるような(怠惰な)プレーに終始した・・」

 ボールばかりを欲しがるプレー・・!? サスガにネルシーニョ監督。彼の言葉には、興味深いキーワードがテンコ盛りです。それについては、後でまとめることにしましょう。

 ハーフタイム。そこでネルシーニョが、(まあ、これも、ネルシーニョのキーワードの一つだけれど・・)選手に対し、「プレーを整理してゲームに入っていけ!」と指示したそうな。フムフム・・

 そして後半。立ち上がりはそうでもなかったけれど(後半10分には、U22代表でも活躍した東慶悟のアシストから、再びラファエルに落ち着きはらった追加ゴールを決められちゃったりして・・)、それでも時間の経過とともに、レイソルのプレーが、徐々に、そして目に見えて改善していった。

 そのプロセスでは、何といっても、人とボールの動きが活性化したことが大きい。

 前出の、「ボールばかり欲しがるプレー」というネルシーニョのキーワードだけれど、要は、動かずに足許パスばかりを要求するという(自分勝手な)後ろ向きのプレーのことだろうね。そんな「動き」のないサッカーだから、(次の人とボールの動きを正確に予測できる)アルディージャ守備の餌食になるのも当然だぜ。

 ところでアルディージャ。彼らは、本当に素晴らしいディフェンスを展開しましたよ。鈴木淳監督のプロコーチとしてのウデを感じる。忠実でダイナミック、そして粘り強いチェイス&チェックのアクションに、周りの協力ディフェンス作業が、まさに有機的に連鎖しつづける。

 だから、小気味よいほどの正確さで相手の「動き」を追い込み、狙い通りにボールを奪い返してしまう。そして、ボールを奪いかえした次の瞬間には、ラファエルを中心に、必殺のカウンターを繰り出していくのですよ。

 とにかく、この試合でのアルディージャは、まさに「強いチーム」だったね。相手のネルシーニョ監督も賞賛を惜しまなかった。グッドルーザーとしてのフェアな態度・・いいね・・

 でも、レイソルのレアンドロ・ドミンゲスが「追いかけゴール」を決めた後半17分ころには、前述したように、レイソルのサッカーの質が、どんどんアップしていったのですよ。

 人とボールが、シンプルに、そして軽快に動きつづける組織サッカー。そんなレイソルの「動き」に、今度はアルディージャ守備が翻弄されはじめるのです。

 それまでは、自分たちの「眼前」のみで、緩慢に展開していたレイソルのボールの動きが、急速にテンポアップしはじめたのが要因。その動きに(守備イメージが)追い付かなくなるアルディージャなのです。そして、サイドゾーンから効果的な仕掛けを繰り出され、そこから危険なクロスを送り込まれるようになっていくのです。

 こうなったらレイソルのモノ。そんな展開のなか、素早いタイミングで送り込まれた決定的なスルーパスが、アルディージャ守備のファールを誘い、彼らにPKが与えられちゃうんですよ。

 それは、見ている者すべてに、その後のレイソルが演出するに違いない大逆転ドラマを予感させるに十分な出来事ではありました。でも・・信じられないことが起こった。

 そう・・、レアンドロ・ドミンゲスのPKを、アルディージャGK北野貴之が、見事な横っ飛びで押さえてしまったのです。ホント、ビックリした。そして結局は、予感された「ゲームフローの大逆流」は起きず仕舞いということになってしまい、最後にはアルディージャにダメ押しの3点目(見事なカウンターゴール!)まで決められてしまうのです。

 たしかに後半のレイソルのサッカーは好転した。でも結局は、逆転ドラマを演出できるだけのパワーは内包されていなかったのかもしれない。タラレバだけれど、もし「あのPK」が決まっていたら、まったく違った展開になったに違いないけれどネ・・

 最後に、ネルシーニョのキーワードについても、誤解を恐れずに簡単にまとめちゃいましょう。

 例えば「断固たる決意・・」、例えば「プレーを整理する・・」、例えば「ボールばかりを欲しがるプレー姿勢・・」などなど・・

 それは、ネルシーニョとパートナーを組む優れたコミュニケーター(通訳)の公文栄次さんが作り出した表現でしょ。でも、言葉の響きにしても、ニュアンス的に、とても当を得ていると思う。

 例えば、断固たる決意・・。

 たぶん、シュートに代表されるリスキープレーにチャレンジしていくときの勇気だとか、苦しいときでも、最後の力をふり絞ってディフェンスに戻っていけるだけの強烈な意志とか、そんなニュアンスが込められていると思う。

 例えば、プレー(イメージ)を整理する・・。

 たぶん、ボールばかり欲しがるような自分勝手で後ろ向きな(まったく効果のない)プレーをしていることを自覚させ、それを、自ら考え工夫することで改善していく能動的な「イメージング作業」のことだと思う。要は、チーム戦術の絶対的なベースである組織サッカー(コレクティブサッカー)に対する意識と意志を喚起するプロセスということなんだろうね。

 だらしないのですが、コラムを書いている今でも、押し寄せる波のように襲ってくる睡魔に呑み込まれそうになる。歳なんだろうか・・。以前だったら、帰国した次の日には時差ボケなんて霧散していたモノなんだけれど・・あははっ・・

 あっと・・最後に・・もう一つ。

 素晴らしいサッカーを展開したアルディージャの鈴木淳監督に、こんなことを聞いてしまったのですよ。

 「今日のゲームですが、鈴木さんにとって、どんなイメージの勝利だったでしょうか? それを形容詞で表現していただけませんか? 例えば、完勝とか、粘り勝ちだとか・・」

 「それは、本来は皆さんの仕事ですよね・・難しい質問だな〜・・(そこでジッと考えてから・・)そうですね、良いゲーム・・ですかネ」

 鈴木さん、スミマセンでした。たしかにおっしゃる通り、形容詞は我々の仕事のコアの部分でした。でも私は、何としても、鈴木淳監督自身の印象ニュアンスを聞き出したかったのですよ。

 その甲斐あって、「良いゲーム」という表現を引き出せたから、私はとてもハッピーでした。

 それは、鈴木さんにとって、とても爽快な(自分のイメージした通りの!?)快勝だったということでしょ? 私がイメージするアルディージャのグッドゲームもまた、まさに、この試合のようなコンテンツなのですよ。

 ・・決して受け身ではなく、限りなくアクティブでダイナミック、そしてクリエイティブなボール奪取プロセス・・そして、そこから繰り出される、鋭利な刃物を連想させる(ラファエルとイ・チョンスがコアになった)危険なカウンター・・

 試合の成長プロセスを追いながら、この水曜日に「NACK5スタジアム」で行われるナビスコ第二戦のさいたまダービーが(第一戦はレッズが2-0で勝利!)とても待ち遠しくなりはじめたモノでした。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。