湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第7節(2011年4月23日、土曜日)

 

「アントラーズ潰し」のゲーム戦術がツボにはまった!?・・(AvsM, 0-3)

 

感慨深かったですね、本当に・・。久しぶりに再開した「Jリーグ」。わたしのなかでも、様々な「思い」が交錯していました。

 元気を「与えたい」なんて、ちょっと高飛車な印象も残る姿勢ではなく、誰もが、キックオフ前の黙祷の際には、どんなカタチであれ、被災者の方々に、自分の「素直な思い」が届けばいいな〜・・と願っていたに違いありません。

 わたしは、黙祷しながら、与えられた日常を、誠実に、そして謙虚に、”足る”と”恥”をしっかりと意識し(知り)ながら、精一杯に生きるぞ・・と、再び心に誓っていました。

 ということで試合レポートに入っていきますが、この試合でのメインテーマは、やっぱり、マリノスが展開した素晴らしいディフェンス・・ってなことになるんだろうね。

 何か、わたしの脳内スクリーンでは、数日前に国立競技場で行われたアジアチャンピオンズリーグ、アントラーズ対スウォン(水原三星)のゲーム内容とダブっていましたよ。強化守備をベースに、カウンターやセットプレーによる「蜂の一刺し」をイメージする相手との対峙・・。その試合については「こちらのコラム」を参照して下さい。

 そのゲームを参考にしたのかもしれないけれど、この試合でのマリノスの守備も、まさに「見事っ!」の一言でした。

 決して受け身に下がるのではなく(たしかに低い位置に守備ブロックを構えてはいたけれど・・)あくまでも、次の攻撃を明確にイメージしながら仕掛けていく積極的なボール奪取アタック(有機的に連鎖する守備コンビネーション!)という、とても効果的なディフェンス姿勢だった。フムフム・・

 そんな、マリノスの「徹底した」組織ディフェンスに対し、前半のアントラーズは、まったくといっていいほど手が出なかった(まあ・・偶発的なミドルシュートシーンはあったけれど・・)。

 また、大迫勇也と本山雅志が登場した後半でも、たしかに、人とボールがより活発に動きつづける組織コンビネーションの機能性はアップしたけれど、結局は、マリノス守備ブロックを振り回すまでには至らなかった(決定的スペースを攻略できなかった)。

 「後半に本山が登場してくることは分かっていた・・(マリノス中盤守備の要である)谷口とは、マークの絞り込みなど、本山に対する効果的な抑制ディフェンスについて話し合っていた・・」とも話していたマリノス木村和司監督だけれど、記者会見の冒頭では、こんな威勢のいいコメントをしていた。

 「ワシらは全タイトルを狙っているんじゃ〜〜・・そのためには、どうしてもアントラーズを叩かなゃイカン・・とにかく、この試合は、とことん勝ちにこだわったんじゃ〜〜・・そんなワシの思いが乗り移ったんかいの〜〜・・選手たちは、最後まで、したたかに闘って勝ち切ってくれたんじゃ〜〜・・」

 言い回しだけれど、ちょっと脚色し過ぎたかもしれない。まあ、ニュアンス的には正しいはずだから、彼が怒るとは思えないけれど・・あははっ・・

 そんなカズシ監督の言葉に、大住良之さんが、こんな興味深い質問をした。

 「守備ブロックの位置取りですが・・全体的に、ちょっと下がり気味だったという印象が残っています・・それには、何らかの意図があったのでしょうか?」

 「ありました・・それは、アントラーズが、ロングボールをうまく使って最前線に(最終ラインの背後に広がる決定的スペースに!?)クサビを打ち込み、そこから崩していくという仕掛けに長けているからなんですよ・・」

 フムフム・・。とても考え尽くされたゲーム戦術だったし、それが、まさにピタリとツボにはまったということだね。

 ところで木村和司監督が、コメントのなかで使った「したたかに・・」という表現。

 「それ」は、決して楽してカネを儲けよう・・なんていう意味合いではなく、あくまでも、考えながらクレバーにプレーするというニュアンスだろうね。

 たしかにクレバーに立ち回ったマリノス選手だけれど、そのバックボーンに忠実な汗かきプレーがあったことは言うまでもありませんよね。

 彼らは、互いのポジショニングバランスをしっかりと維持するなかで、チェイス&チェックや、最終勝負プロセスでのタイトマーク(ボールとは逆サイドでの決定的フリーランニングや、パス&ムーブの動きなども、ことごとくマークされていた!)はたまた効果的なカバーリングや協力プレスへの集散といった「汗かきプレー」を忠実に実行していたのですよ。

 そんな「忠実な汗かきプレー」が、とても効果的に実行されつづけていたからこそ、「したたかに」ゲームを勝ち切ることが出来た・・っちゅうことです。

 たしかに、アントラーズが仕掛けの起点(=決定的ゾーンで、ある程度フリーでボールを持つ選手)を作り出すようなシーンは、本当に数えるほどしかなかったよね。要は、アントラーズが、マリノス守備ブロックがイメージできている「仕掛けプロセス」ばかりを繰り返していた・・っちゅうことですかね。
 いつも書いているように、強化守備の相手と対峙するときは、相手が度肝を抜かれるような(そのことで守備ブロックのポジショニングバランスが乱れるような!)攻撃「も」仕掛けていかなければなりません。

 どんどんアーリークロスを「放り込ん」だり、ガンガンとロングシュートをブチかましたり・・。相手が予想だにしなかった「シンプルでアバウトな(低次元の!?)攻撃」も、たまには繰り出していくのですよ。

 そうすれば、相手守備ブロックも、「抑えなければならない相手攻撃イメージ」が増えることで、守備イメージの範囲も広げていかざるを得なくなる。そして流れのなかで組織バランスが崩れるシーンが増え、スペースや人数の少ないゾーンといった「守備ブロックの穴」も増えてくる。

 そんな攻撃の(仕掛けプロセスの)変化だけれど、人々に、美しく強いサッカーだと思われていた(フットボールネーションの)スーパーチームだって、たまにゃ、人々が(相手が)驚くような「アバウトな」を繰り出したりする。まあ、実力があるからこそ、意図的に、シンプルでアバウトな(低次元の!?)攻撃も仕掛けていけるということなんだろうけれど、わたしは、そんな「歴史に名を残した」スーパーチームを(その監督さんを)いくつも知っていまっせ。あははっ・・

 さて、アントラーズ。この試合では、オズワルド・オリヴェイラ監督がベンチ入りを禁じられたことで、試合後の記者会見も、奥野僚右コーチが壇上に座った。その彼が、こんなニュアンスのことを言っていた。

 「この試合でも(スウォンとのACLマッチでも・・)相手が守備を強化してくることは分かっていたし、我々はその対策を練っていた・・ただ結局は、そのバリエーション(イメージ)も含めて、考えていた対策をうまく機能させることが出来なかった・・」

 この2試合、アントラーズは、相手のゲーム戦術(ドツボ)にはまり込んでしまった感がある。もちろんこれからも「こんな感じのゲーム」がつづくことになるよね。とにかく、マルキーニョスの抜けた穴の充足(仕掛けイメージバリエーションの拡充!!)というニュアンスも含めた効果的な対策が待たれる・・ちゅうことのようです。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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