湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第28節(2010年11月10日、水曜日)

 

プロコーチが対峙する様々な現実というテーマ!?・・(BvsAR, 1-3)

 

レビュー
 
 どうしようかな〜・・

 愛車のオートバイで高速道路を飛ばしながら(あっ・・いや・・安定した巡航速度ですよ!!)、コラムを書こうかどうか、ちょっと迷っていました。でも、あまりにも風が心地よかったこともあって(!?)やっぱり、短くまとめることにした。

 中心テーマは、ベルマーレ。もちろん、立派な実力サッカーを展開したアルディージャと、イケメン鈴木淳監督には、心から拍手をおくっていたけれど、やっぱり、テーマとしては反町ベルマーレに惹かれるのですよ。

 アルディージャだけれど、とにかく、組織的な役割イメージが、とてもうまく整理され、機能していると感じた。要は、両サイドバックと、イ・チョンス&ラファエルのツートップによる、才能の迸(ほとばし)りプレーを、金澤慎と李浩の守備的ハーフコンビ、そして藤本主税と金久保順のサイドハーフコンビが、本当にうまくバックアップしていたと感じたのです。

 両サイドバックは、自分のサイドからガンガン押し上げていく(オーバーラップしていく)わけだけれど、ラファエルとイ・チョンスの二人は、四方八方に、とても大きなラディウス(行動半径)で自由自在にプレーする。それも、シンプルな組織パスと個人勝負プレーが、とても高質にバランスしているから、その実効レベルは高い。そんな二人が演出する仕掛けプレーの流れに、両サイドバックも(もちろん藤本と金久保も絡んでいくけれど)、後ろ髪ひかれることなくガンガン乗っていくというわけです(守備的ハーフコンビとサイドハーフコンビがサポートしているからネ!)。

 またイ・チョンスは、守備にも貢献するし(鈴木淳監督の弁)、両サイドバックにしても、激しく前後に動きつづけるから、アルディージャが繰り出す、攻守にわたってハイレベルな組織サッカーが、とてもダイナミックに機能しつづける。いいね・・

 そんな強敵に対して、反町監督は、かなり練り込んだ「ゲーム戦術(ゲームプラン)」で対抗していった。要は、基本的に、アルディージャの良さを「抑制する方向」のプレーイメージでゲームに臨んだということです。

 スリーバック(ファイブバック)を基調に、守備的ハーフの田村雄三が、ラファエルのマークを強く意識することで、彼にフリーでプレーさせないことが、そのゲーム戦術の基本だったかな。

 ということで、ゲーム戦術を主体にするサッカーだから、相手からボールを奪い返した後の攻撃では、「人数と、仕掛けの勢い」が十分ではなくなるのも道理。まあ・・仕方ない。でもネ、たしかに次の攻撃のダイナミズムは最高レベルじゃなかったけれど、全体的なゲームの流れは、反町康治監督がイメージしたとおり、とてもうまくコントロール出来ていた。「あの」金久保のスーパーフリーキックによる先制ゴールが決まるまでは・・。前半16分のことでした。フ〜〜・・

 それだけじゃなく、その後も、「ゲーム戦術という忍耐」を重ねながら、プラン通りの「効果的な勝負サッカー」を継続していた(反町監督の弁・・正しい見立てだと思う・・)ベルマーレだったけれど、前半32分には、ラファエルに、ベルマーレ選手の足に当たってコースが変わるラッキーな中距離シュートを決められてしまうのです。

 そしてベルマーレが完全に解放される。後半の彼らは、もう失うモノが何もないというフッ切れたダイナミック(攻撃)サッカーを展開した。それは、それで、迫力満点の仕掛けだった。でも・・

 「一度仕掛けの流れに乗ったら、シュートも含め、何らかのフィニッシュまで行ってしまうアルディージャ・・それに対して我々は、仕掛けの流れを上手くフィニッシュまで持っていけない・・そして、中途半端なところでボールを奪われ、カウンターを喰らってしまう・・そのカウンターシーンでも、軽やかに全力スプリントでサポートに駆け上がるアルディージャに比べ、必死に戻るベルマーレ選手は、アゴが上がってしまっている・・」

 反町監督の弁だけれど、まあ・・確かに、『一人で勝負を決められるレベルの個の才能』という視点も含めた「チーム力」に差があることは確かな事実かもしれないね。

 もちろんベルマーレだって、全員のプレーダイナミズム(意志のパワー)が、攻守にわたって効果的にリンクすれば、どんな相手だってタジタジにしてしまうようなスーパー攻撃サッカーを魅せられるだろうけれど、でも、そんな(プレイヤー個々のチカラが、爆発的なシナジー効果=相乗効果=を発揮するような!?)スーパー組織サッカーは、いつも実現できるわけじゃない。逆に、少しでも、ほんのちょっとでも「プレーのバランス」や「意志のシナジー」が噛み合わなくなったら、相手の反攻エネルギーを受け止めることが出来ずに自滅してしまう・・

 たしかに、(僅差でチカラが劣る!?)ベルマーレでも、解放された(魅力的な)攻撃サッカーを展開できないことはない。でも、それを前面に押し出すことには、他のチームと比べて、やはり、より大きなリスクが伴う・・というのは確かな事実だと思う筆者なのであります(反町さんも!?)。

 ということで、忍耐力が求められる「ゲーム戦術」を徹底するのが、内容と結果の『ベルマーレ的な理想バランス』を高みで安定させるために、もっとも現実的な方法であることは論をまたないわけだけれど、実際に(前述したように!)このゲームの序盤は、そのゲーム戦術が、とても上手く機能していた。選手たちも、そのことを体感し、確信レベルをより深めていったに違いない。でも結局は、神様に翻弄されて・・

 このコラムで言いたかったのは、個の能力を単純加算した総合力で劣るチームが、より強い相手に抗していく場合、そのチームの監督は、サッカーの内容と結果を、いかに現実的に、そのチームなりに(!)バランスさせるのか(どのような目標イメージをもたせるのか)という難しいテーマと対峙しなければならないということです。

 だからこそ監督は、そのような「忍耐サッカー」でも、選手たちが「最高の気持ちで、とことん楽しめる」ように、様々な価値を付加することで(そのサッカーに取り組むことの価値と意義に気付かせることで!?)選手をモティベートできなければならないのですよ。まあ・・結果が大きく影響することも含め、難しい仕事ではあるよね。

 例えば、「ゲーム戦術が主導する現実サッカー」とか、フッ切れた「プレッシング(攻撃)サッカー」等々、それらを、それぞれのチーム事情や設定目標イメージに応じて、「内容と結果の現実的なバランス」を探っていく・・ってな表現ができるかもしれない。

 そう・・岡田ジャパン。そこには、シロ寄りのグレーか・・クロ寄りのグレーか・・ ってなテーマもあったよね(これについては、後藤健生さんとのワールドカップ「生」対談本をご参照あれ!)。

 とにかく、ゲームを観ながら、自分の体感も含め、現場のプロコーチが取り組んでいかなければならない「様々な現実」に思いを馳せていた筆者でした。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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