湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第8節(2010年4月25日、日曜日)

 

「日頃の地道な(小さなコトを改善する)努力」・・「ゴールという刺激」などなど・・(BvsVE, 1-0)

 

レビュー
 
 「たしかに触られたけれど、それでも、かなり上手く競り合いに入れたことで効果的に邪魔はできたと思っている・・」

 いま、月曜日の朝、0430AMです。ちょっと、インスパイアーされて(霊感に触発されたように・・)目が覚め、昨日のゲームのことでアタマが一杯になってしまいました。ベルマーレ対ベガルタ。そして急に起き出し、コラムを書きはじめたという次第。

 実は昨日、帰宅してからキーボードに向かったのですが、どうもポイントが絞り込めずに、コラムをギブアップしてしまったのですよ。全体的なサッカーの質が、わたしの五感を刺激するほどのレベルになかったということなんだろうか・・。どうも上手くモティベーションをアップさせられなかった。

 それでも、テーマを絞り込めなかったという自戒で(こちらの発想が貧困だったという悔しさで)アタマが一杯になっていたから、そんなに深い眠りにつけなかった。そして、ハッと目が覚めた。

 そうだよな〜〜・・どんなレベルのサッカーでも、そこはサッカーなんだから、常に興味深いテーマがあるものなんだ・・例えば、次のゲームに備えた、意図(勝負イメージ)と意志を高める日頃の努力・・例えば、チームの全体的なモラルを高揚させ、その高みで安定させる努力・・その結果としてのグラウンド上の現象・・ゴールという無類の刺激・・などなど・・

 冒頭のベルマーレ反町康治コメントは、ベガルタの絶対的なセンターフォワード、長身でジャンプ力があり(足が速く)抜群のヘディングセンスを備えた中原貴之を、いかに抑えるかというテーマについてでした。反町康治監督は、こんなことも言っていた。

 「中原貴之のイメージを理解しないままに五分に競り合ったら、まあ、かなわない・・でも、彼が、ペナルティーエリアの外側の角ゾーンから、タイミングを見計らい、ペナルティーエリア中央ゾーンへ走り込んでヘディング勝負するというイメージしか持っていないことをはよく分かっていた・・彼は、ニアポストゾーンを活用するとか、勝負プロセスに変化をつけるのではなく、ヘディングに抜群の自信をもっているからこそ、その勝負イメージにこだわっている・・」

 反町監督がつづけます。「・・だからこちらは、それに集中した準備をしたのですよ・・もちろんベガルタの両サイドバックは積極的に押し上げてくる・・それに対して、守備的ハーフの千葉直樹と富田晋伍はほとんど上がらずに、両サイドバックのオーバーラップを支援する・・そして、オーバーラップした両サイドバックだけじゃなく、サイドへ流れた他の選手にしても、忠実に、中原貴之がこだわる勝負イメージをなぞるように、そのスポットを狙ってクロスを上げるというわけです・・だから我々も、そのスポットへのクロスに効果的に対応できるよう準備トレーニングを徹底した・・」

 フムフム・・。実は(正直に言いますが・・)わたしは、ベガルタのクロス攻撃に、ベルマーレ守備がうまく対処できていなかったのではないか・・という印象を持っていたのです。

 それには、立ち上がりのセットプレーで、ベルマーレ守備が、ベガルタ選手をまったくフリーでヘディングさせてしまったというシーンが、あまりにも目立ってしまったことがあった。だから・・何だベルマーレ守備は、うまく準備(明確なイメージ構築と徹底)ができていなかったんじゃないか・・なんていう悪イメージを持ってしまったのですよ。

 その後も、相手のクロス攻撃によって何度も危ないシーンがつづく・・そして私の「悪イメージ」も強化されていく・・。「やっぱり全体的なサッカーの質ではベガルタの方が上だな・・結局は、勝ち点が、その事実を裏付けているということか・・局面の勝負だけじゃなく、全体的なゲームの流れでも、あきらかにベガルタの方がイニシアチブを握っているしな・・」なんてネ・・

 でも実際は、わたしの事実誤認だったようです。たしかにクロスを上げられ、ペナルティーエリア中央ゾーンで中原貴之に「ボールに触られる」シーンが続出した。そして私は、「何だ・・ベルマーレ守備は、やられっぱなしじゃないか・・準備(ゲーム戦術)不足だな・・」なんてことを安易に考えていた・・「フ〜〜ッ・・スミマセンね、反町さん・・」。

 要は、たしかに、狙ったスポットへクロスボールを上げられ、そこで中原貴之に、「ボールに触られ」はしたけれど、それでも十分な体勢で、可能性の高いヘディングシュートをブチかまされるという状況は「十分に防げていた」ということです。ナルホド、ナルホド・・

 そして、(ちょっと凝り固まってしまった!?)私の感覚からすれば「唐突」な決勝ゴールが生まれるわけです。後半20分の阿部吉朗のヘディングシュート。でも実際には、そのゴールにしても、ベルマーレが積み重ねているに違いない「日常の努力の結晶」だったということなんだろうね。

 そして思った・・。「そうだよな〜〜、読売サッカークラブ時代も、とても小さなテーマを、日頃から粘り強く突き詰めていくことで、可能性を高める努力を積み重ねていたよな〜〜・・後で考えてみたら、そんな地道な努力こそが原動力だった・・決して、ジョージ与那城とラモス瑠偉の天賦の才「だけ」が当時のリーグや天皇杯の優勝のバックボーンじゃなかった・・」などなど・・

 そしてベルマーレが、そのゴールをキッカケに、完璧に解放されていくのですよ。私の目には、攻守にわたるダイナミズムが、何倍にも増幅し、サッカーの質が数段高まったと感じられた。「そう・・ゴールに勝る刺激はありませんからネ〜〜・・」と、反町康治監督。

 それこそが、ベルマーレ本来のダイナミックサッカー。それを観ていて、「そうそう・・それだったよな〜〜・・」なんて、忘れかけていた感覚が甦ってきたモノです。

 ベルマーレを追いかけるライター仲間の川端康生さんも、「このところ、良くなっていますよ・・もちろん浮き沈みはありますが、先日のジュビロ戦でも、とても良いサッカーで、内容的には勝ってもおかしくないゲームでした(ホームでの引き分け)・・」なんて言っていた。フムフム・・

 このコラムのテーマは、日頃の、地道で小さな努力の積み重ねこそが成功の原動力・・ということでした。

 そして、そんな「地道な」コラムのトリを飾るのが、ベルマーレ中盤守備の「重心」田村雄三。

 「田村は、本当に素晴らしい仕事をしてくれた・・彼の、中盤での効果的なボール奪取や、そこからの(地道な!?)組み立て作業が、この勝利の(隠れた!?)立役者だった・・」という反町康治監督のコメントが耳に心地よく響いていた。わたしも、田村雄三の実効あるパフォーマンスに舌鼓を打っていたのです。本当に素晴らしい選手です。

 たしかに「素材」的には限界のあるベルマーレ。それでも、反町康治監督と、右腕の?貴裁(チョウ・キジェ)コーチのコンビは、よい仕事をしていると思う。これからも、出来るかぎりフォローしよう。

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 お知らせですが、きたる5月3日の月曜日。NPO法人横浜スポーツコミュニケーションズ(ヨココム)が主催する「湯浅健二の独演会」が、昨年につづいて開催されることになりました。テーマは「岡田ジャパン」・・まあ、「日本人はなぜシュートを打たないのか?」っちゅうテーマにも入っていかざるを得ない!? さて・・。詳しくは「こちら」を参照してください。

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 ところで、三年ぶりに新刊を上梓しました。4月14日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定したらしい。フムフム・・。タイトルは『サッカー戦術の仕組み』。池田書店です。この新刊については「こちら」をご参照ください。

 



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