湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第8節(2007年4月29日、日曜日)

 

いろいろと見所豊富な勝負マッチでした・・(アントラーズ対レッズ、0-1)

 

レビュー
 
 さて、何からスタートしようかな・・。まあ、まず何といっても、アントラーズが良くなっているという事実からコラムに入っていくべきですよね。

 アントラーズについては、たしか第二節のガンバ戦(アントラーズのホームゲーム)を鹿島まで観にいったと記憶しています。そのときは、所用でレポートできなかったからコラム倉庫には入っていないけれど、たしかに観に行った。そして、そのときアントラーズが展開したチグハグなサッカーに落胆したことも覚えている。また、テレビで観戦した第一節のフロンターレ戦でも、ゲーム立ち上がりでの抜群の勢いが、時間の経過とともに大きく落ち込んでいったというネガティブな印象もあった。

 それ以降は、アントラーズの変化プロセスをしっかりと観察する機会はなかったけれど、この試合で展開したサッカー内容は、彼らが着実に復調していることを認識させてくれました。

 なかなか良かったですよ、本山、野田、そしてマルキーニョス。もちろん、彼らが絡む仕掛けが目立っていたのも、グラウンド全面で展開する実効ディフェンスがあったからこそ。忠実なチェイス&チェック(守備の起点プレー)からインターセプト狙いや協力プレスまで、それらの守備プレーがうまく有機的に連鎖しつづけるのですよ。

 前半の(レッズの創造性リーダーであるポンテのミスからはじまった)絶対的カウンターチャンスや後半に二度つづけてポストを叩いた決定機、またいくつかのセットプレーチャンスなど、そのうちの一つでも決まっていれば、ゲームの流れはガラッと変わっていたでしょう。

 そのことについてオリヴェイラ監督は、「決定力と呼ばれているものは、簡単に克服できるような代物じゃない・・まあ、それもサッカーの厳しいところでもあり、面白いところでもある・・いくつかあったチャンスを決めていれば、レッズが(決勝ゴール後に)展開したと同じようにゲームをコントロールできたはず・・後半の最後の時間帯では勝負の流れがアントラーズへ向かったわけだが、そこで作り出したチャンスを決められなかったのも痛かった・・」など、なかなか味のあるコメントを出していましたよ。

 また、「試合に負けたわけだけれど、次のゲームへ臨むうえでの課題は?」と聞かれたオリヴェイラさんは、「チームは良くなっている・・だから、その流れを維持することが大事だ・・もちろん小さなところの修正は必要・・それは、個人的なアドバイスなどで対応していく・・とにかく今は、良い流れが途切れないようにすることが重要だ・・」という確信のコメントをくれました。わたしも、まさにその通りだと感じていた次第。

 さてレッズ。ワシントンがいない。それはポジティブにもネガティブにも影響を与えていたと思っています。

 ポジティブなところは、まず何といっても、(ワシントンの代役としてトップセンターに入った)永井のプレーに動きが出てきていることもあって、レッズの攻めに、動きのダイナミズムが見られるようになったということ。要は、人とボールがよりダイナミックに動きはじめたということです。そのことで、両サイド(山田暢久と長谷部誠)と、阿部勇樹、小野伸二、ポンテで組むハーフトリオ(まあ阿部は守備的ではあるけれど・・)が、なかなか味のあるポジションチェンジを繰り広げたのですよ。

 左サイドは、小野伸二と長谷部誠がペアを組むことが多く、右サイドは、山田暢久がオーバーラップした後を、基本的には堀之内や阿部勇樹がバックアップしていた。とはいっても、それは一例に過ぎず、そんな相互カバーリングに対する意識が、上記したミッドフィールダーだけではなく、中盤の底で抜群の実効プレーを展開する鈴木啓太や、もちろんトゥーリオも巻き込んで、縦横無尽の活発ポジションチェンジとしてグラウンド上に現出するのです。結局そんなダイナミズムが決勝ゴールを生み出したのだから堪えられないよね。後半11分のことでした。

 左サイドを抜群の勢いでオーバーラップしていく鈴木啓太・・そこへ、軽やかにボールをコントロールした小野伸二からタテパスが通る・・そこからの啓太のボールコントロールは見応え十分だった・・アントラーズの二人の選手を、スパッ、スバッという切り返しで翻弄しながら「創造的なタメ」を演出する・・そしてそこから、余裕をもって、逆サイドの山田への正確なサイドチェンジパスを決める・・

 ・・そのプレーは、まさに、鈴木啓太が秘める創造性キャパシティーの高さの証明だった・・そのサイドチェンジパスを、これまた歯切れよくスパッとトラップする山田暢久・・そして、ズバッとタテのスペースへ持ち上がり、最後は、ゴール前ゾーンの「二列目スペース」への正確な「戻り気味グラウンダークロス」を決める・・それが、走り込んできたポンテにピタリと合う素晴らしいコンビネーションゴールだった・・。

 このシーンでは、鈴木啓太と山田暢久が主役を演じた後方からの二つのオーバーラップが功を奏したわけだけれど、私は、そんなタテのポジションチェンジが出てきたことも、ワシントン不在からの反動効果だったと感じていたのです。

 とはいっても、ワシントンがいなかったことで、最前線のターゲットが「薄く」なったことも確かな事実。もちろん永井雄一郎も、後方からのズバッという足許タテパスをしっかりとコントロールして展開してはいたけれど(優れたポストプレー!)、でもやっぱりワシントンの重厚なポストプレーとは一味違う。またワシントンがいなかったことで、ゴールを陥れる怖さが落ちたことも確かな事実でした。

 組織的な仕掛けは、よりダイナミックに機能するようになったけれど、肝心のシュートシーンでの実質的な危険レベルでは・・っな具合ですかネ。まあ、難しいね・・。

 阿部勇樹は守備的ハーフを務めたわけだけれど、どんどん良くなっていると感じますよ。守備はもちろんのこと、攻撃への積極性も、どんどん高揚していると感じる。ズバッというアタックを仕掛けてボールを奪い返し(彼のボール奪取能力は超一流!)、そのままワンツーで最前線まで抜け出して行ったり、シャドーストライカーのように、ボールから離れたゾーンから、スッと決定的スペースへ抜け出したり。また、ヘディングも抜群に強いから、セットプレーでも威力を発揮する。やはり阿部は、素晴らしい補強でした。

 そして、このコラムで「トリ」を取るのが、言わずと知れた鈴木啓太。攻守にわたって、本当に素晴らしいプレーを展開しました。

 決勝ゴールのシーンは言わずもがなだけれど、中盤の後方から確実な展開パスを供給したり、前が詰まったときには、すぐさまバックアップポジションに入ってパスを受け、次のクリエイティブな展開のコアになったりと、ゲームメイクでも目立った働きをしていました。

 でも私は、この試合での鈴木のベストシーンは、アントラーズが押し込んできた後半最後の数分間に魅せた、右サイドでの冷静でダイナミックなボール奪取勝負だったと思っています。

 相手のドリブルに飛び込まず、我慢しながらコースを限定し(相手を追い込み)、最後は、爆発的なスライディングタックルでボールを蹴り出したシーン。また、トップスピードに乗ったドリブルを仕掛けてくる相手のアクションを冷静に見極め、最後は、両足を「閉じて」スパッとボールを奪い返してしまったシーン。

 そこでは、まさに、その二つのボール奪取によって、アントラーズが仕掛けの出鼻をくじかれたのですよ。また、ゴール前で一度はね返したボールを相手に拾われた状況での鈴木の冷静なプレーも印象的だった。

 その相手ボールホルダーへ全力で「寄り」、スッ、スッと間合いを詰めながら、最後は、相手の切り返しを読んでボールを奪い返してしまうのですよ。そんなシーンは、それ以外にも何度も目撃しました。

 素晴らしい中盤の(物理的な)リーダーじゃありませんか。とにかく啓太には、口でも態度でも(要は、心理・精神的に!)味方を鼓舞できるような「本物のリーダーシップ」を発揮できるようになることを期待しますよ。いまの彼は、トゥーリオも含む全てのチームメイトに、十分にレスペクトされる存在なのです。

 



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