湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第6節(2006年4月2日、日曜日)

 

シャムスカ監督は、良い仕事をしている・・(トリニータ対ジュビロ、1-2)

 

レビュー
 
 本当にトリニータのシャムスカ監督は良い仕事をしているよね・・。埼玉スタジアムから帰宅し、録画しておいたトリニータ対ジュビロ戦をみはじめたとき、すぐにそんな思いが脳裏をよぎったものです。

 試合開始のホイッスルが吹かれた次の瞬間から、トリニータ選手たちが躍動をはじめます。誰一人として足を止める者はいない。守備となったら、前線から全力でもどり、ボールの周りにプレスの輪を演出してしまう。もちろんチェイス&チェックアクションも忠実でダイナミックだし、その「守備の起点」を活用した周りのディフェンス内容も素晴らしい。そしてボールを奪い返したら、鋭いカウンターを繰り出していくだけじゃなく、組み立てでも、チャンスを見いだした誰もが、積極的にスペースへ飛び出していくのです。とにかく、ボールがないところでのアクションの量と質では、トリニータがリーグトップクラスであることは間違いありません。

 2005年の途中からトリニータの監督に就任し、そこからトリニータの躍進をリードしつづけたブラジル人のシャムスカ監督。そのコンセプトは、言わずと知れた、攻守にわたる組織プレーです。トリニータの選手たちは、例外なく、自らの意志で「仕事」を探しつづけていると感じさせてくれます。その仕事がいかに辛いモノだったとしても・・。

 特筆なのは、そんなダイナミックサッカーが継続的に発展しつづけていること。それは、とりもなおさず、シャムスカ監督が、選手たちを納得させ、発展へ向けて常にモティベートできていることの証です。シャムスカ監督は、そのことについて、こんな言い回しをしたとか・・。「成功の秘訣は、選手たちとしっかりと話し合うこと・・民主的なやり方がいい・・だから選手たちは、先発でも、ベンチスタートでも、常にチームの構想に入っていると感じてくれている・・我々はチームワークに重点を置いているから、試合に向けたトレーニングや戦術アイデアを出してもらうのは大歓迎・・」等々。

 いやホント、面白いね。ブラジルという究極の個(エゴ)の世界だからこそ、シャムスカさんのような「組織プレーコンセプト」を選手たちに納得させ、全力で取り組ませられるコーチが成功を収めるということなんだろうね。ちなみにシャムスカさんは、大学の体育学部出身で、プロ(選手)の経験はないそうな・・。私は、大いなるシンパシーを感じますよ。

 選手の「基本的な能力クオリティー」では目立ったモノを備えているわけではないトリニータだけれど、選手たちの攻守にわたるガンバリによって、組織プレーの「質」ではリーグトップクラスに君臨している。とはいっても、やはり勝負(結果)となるとハナシは別。そこが見所なんですよ。

 リーグでは、ほとんどのチームが、トリニータよりも優れた個人能力を有する選手たちを抱えています。だから、もし相手の「組織的な」プレーコンテンツが、トリニータのそれと同等の場合、どうしても勝負では不利な状況に立たされることになる。組織的な戦術プレーレベルが同等の場合、最後は「個のチカラ」で差がついてしまう(勝負を決められてしまう)・・というのが現実なのです。

 でも、攻守にわたる組織プレーを、常に最高の状態で機能させるのは容易なことじゃない。強豪チームでも、ゲームのなかで組織プレーの機能性が減退してしまうような時間帯も多いのですよ。そこがトリニータの狙い目。彼らは、自分たちの能力に限界があると自覚しているし、組織プレーこそが自分たちの生命線だと強く意識しているから、最初から最後まで、組織サッカーのコンテンツが、ある一定レベルを下回ることがない。そんな、忍耐ベースの組織サッカーだからこそ、相手の組織プレーコンテンツの減退というチャンスを見逃さず、その「ほつれ」を効果的に突いていけるというわけです。逆の見方をすれば、忍耐力では絶対に負けないことで、最後は「粘りの勝利」を収めるといったゲームも多いトリニータなのです。

 このジュビロ戦でも、終始ペースを握り、同点ゴールまで奪ったトリニータだったけれど、結局ジュビロにワンチャンスを決められて惜敗。まあ・・仕方ない。

 



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