湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第3節(2006年3月18日、土曜日)

 

内容的にもエスパルスの順当勝利でした・・それにしてもFC東京のポゼッションサッカーが心配・・(FC東京対エスパルス、0-1)・・またレッズについてもコメントアップ!・・(サンフレッチェ対レッズ、1-4)

 

レビュー
 
 さて、どのようなニュアンスのコメントにしようか・・。まあとにかく、組織としてしっかりとまとまった(互いの守備イメージが確実に連鎖しつづける)中盤と最終ラインの高質な守備を基盤に、攻撃となったら両サイドを素早く突いていくというイメージがピタリとはまった「アウェーの」エスパルスが、内容的にも順当な勝利を収めたというのが正当な評価だろうね。

 それにしても、FC東京の低落ぶりにはビックリさせられた。とにかく、攻守にわたってダイナミズムが感じられない。この「ダイナミズム」だけれど、主体的にプレーしようとする意志のパワーと、それがチーム内で連鎖することで生み出される組織的なシナジー(相乗効果)パワー・・なんていう定義はいかが?!

 たしかに立ち上がりには、右サイドを駆け上がる徳永からの絶妙クロスがササ・サルセードにピタリと合うなんていう「100%チャンス」はあったけれど、それ以外は、まさに泣かず飛ばず。後半リードされてからは、攻め上がっていったものの、エスパルスの強力守備ブロックのウラを突いていけず、結局は「ゴリ押し」の仕掛けを繰り返すばかりになってしまいます。もちろん、ゴリ押しでも、シュートチャンスを作れればいいけれど、そこに「ゴリ押し切るための意志パワー」がないんでは仕方ない。

 エスパルスが展開したサッカーは、良かったですよ。とにかく、(プレスが連鎖する)組織的なディフェンスを基盤に、チョ・ジェジンとマルキーニョスの能力を十二分に活かすというイメージで、サイドを効果的に活用して攻め上がっていくのです。グラウンド上の現象を観ていて、両チームの人数が「13対11」なんていうふうに感じられた時間帯もあったりして・・。それだけエスパルス選手たちが、攻守にわたって活発にプレーしていた(よく走っていた)ということです。

 攻守にわたり、選手たち個々が「戦術イメージ」を脳裏に描写する。そしてそれらがチームのなかで相互にカチッと連鎖する。そんな現象こそが、「基本に忠実なサッカー」という表現に集約されるんだろうね。まあ、シンプルな基本に忠実だからこそ、相互イメージが連鎖するとも言えるけれどネ・・。とにかく、長谷川監督は、本当に良い仕事をしていると思いますよ。

 FC東京のガーロ監督は、試合後の記者会見で、「相手の方が、テクニック、フィジカルなど、内容で上回っていた・・セカンドボールを、ことごとく相手に奪われてしまった・・前線からのプレスが強いエスパルスに対して、そのプレスをうまくかわし、しっかりとつないで仕掛けていくというイメージだったが・・」といったニュアンスのことを語っていました。そんな発言に対して、「相手の方が内容で上回っていたということですが、それは、とりもなおさず、FC東京の選手たちの(闘う)意志が低レベルだったからに他ならないのではありませんか・・?」なんていう質問がノドまで出かかっていた湯浅でした。スミマセン、実際に質問しなかったのに・・。

 とにかく私は、梶山陽平のプレー内容に、本当に怒り心頭に発していたのですよ。昨年までは、天から授かったポテンシャルを「フルに」発揮できそうな予感がしてきていたのに、それが、まさに「元の木阿弥」。ガーロ監督は「ポゼッション・サッカー」を志向しているとのこと。例の、相手のプレッシャー「かわし」ながらしっかりとボールをキープし、「ここぞ!」の瞬間に急激にテンポアップし(タテパスなどをキッカケに!)、ボールがないところの選手たちが爆発し(パスレシーブとサポートの動き)て相手守備ブロックのウラを突いていくという「イメージ」・・。才能に恵まれた選手たちにとっては、それほどの「逃げ場所」はありません。要は、才能があればあるほど、「言い訳スペース」が広がるっちゅうメカニズムなのですよ。

 そうそう、そうやって、才能ある若手選手たちを「勘違い」させ、潰してしまうんだよね。彼らにしてみたら、動かないで、足許パスをつないで「チャンスを狙えばいい」っちゅうイメージだよね。だから「パス&ムーブ」なんていう忠実な汗かきプレーは「ダサい」っちゅうことになる。もうこうなったら先は見えているよね。ホント、残念ですよ。

 ところで記者会見。エスパルスの長谷川監督に対しては質問しました。「たしかにエスパルスの組織的なディフェンスは素晴らしく機能していた・・その中心というか、完全なリーダーは伊東輝悦だったと思うのだが・・評価を聞かせて欲しい・・」。それに対して長谷川さんは、「その通り・・彼は中盤ディフェンスの完璧なリーダーです・・彼なしでは、いまのエスパルスのやり方は考えられない・・」と即座に応えてくれました。

 でも、質問にしては、確かにちょっと「語り過ぎ」。記者会見の後には、後藤健生さんとか、スポーツカメラマンの六川則夫さんから、異口同音に、「伊東輝悦の出来はどうだったか・・程度に抑えておけばよかったのに・・湯浅さんが、あんなふうに聞くモノだから、長谷川監督も、そうだ!その通りだ!・・っていうノリになってしまう・・」なんてことを言われた。たしかに、彼らのおっしゃる通り。「ホント、オレってインタビューは下手なんだよね・・何せ、自分で語っちゃうから・・」。

 人に話させる(話してもらう)のは難しいものです。その意味で、今日はよい学習機会になった・・。とにかく、脳内に描写された考え(イメージ)のコンテンツを全て言葉にするのではなく、短くまとめることで、相手が「そのテーマに乗れるスペース」を提供することをもっとトレーニングしなければと反省しきりの湯浅でした。

 さて、夕食を済ませてから、ビデオに録っておいた「サンフレッチェ対レッズ」をレポートします。ちょっと時間をください。では後で・・

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 ということで、サンフレッチェ対レッズ。ジニーニョが前半26分に退場させられたこともあったけれど、まあ、内容的にもレッズの完勝と評さざるを得ないゲームでしたね。

 レッズが展開する組織的な仕掛けプロセスが小気味よかった。まさに、人とボールが軽快に動きつづけた・・ってな具合。それは、しっかりと人数をかけて攻め上がれていたからに他なりません。人数をかけた仕掛け・・。もちろんそのバックボーンが、言わずと知れた「高い守備意識に対する互いの信頼関係」にあるというわけです。

 それともう一つ。レッズの組織プレーが高揚した背景に、今日の先発メンバーに「ドリブルに絶対的自信あり!」というタイプの選手がいなかったということもありそうですね。小野にしてもポンテにしても、はたまたワシントンにしても、スピードに難があるから、ドリブルで仕掛けていくシーンでは、その大部分が、相手を引きつけたラストパス狙い・・。もちろん長谷部とか両サイド(山田とアレックス)はいるけれど、長谷部は、チームとしての仕掛けリズムに「乗って」いたし、両サイドも、どちらかといったら、スペースでパスを受けるような「使われる」プレーを主体にしていたから、チーム全体として、それほどドリブル勝負が目立たなかったということなんだろうね。

 まあ、立ち上がりに何本か、山田がドリブル突破にチャレンジしていたけれどね。でも、うまく成功しなかったことで、そのチャレンジマインドが急速にしぼんでいったという「ネガティブな心理ムーブメント」もあったと思っていました。まさにそこに、サッカーは本物の心理ゲームであり、「勝負へいかなければ」ミスを犯すこともない(ミスが目立つこともない)というメカニズムのボールゲームだという真実があるわけです。そんな「心理揺動」と闘っていたに違いない山田には、何度失敗してでも、とにかくチャレンジ精神を前面に押し出さなければならない・・と言いたい湯浅でした。

 何せ、いまのレッズには、すべてのポジションに、高い緊張感のライバル関係が持ち込まれているんだからね。これからもギリギリの心理マネージメントがつづく。ギド・ブッフヴァルトのウデの見せ所というわけです。

 まあ、そんなわけで、試合を観ながら、「田中達也よ、早く復帰してこい!」なんて心のなかで呼びかけていましたよ。もちろん永井雄一郎もいる。彼には、このギリギリのライバル関係をステップアップの糧にして欲しいと心から願っている湯浅なのです。彼らが以前の存在感を発揮できるようなれば、レッズの仕掛けコンテンツに「大きな変化」が演出されるようになるだろうからね。

 攻撃におけるもっとも重要なコンセプトは「変化だ!」・・なんてネ。スミマセンね・・何度も、何度も、同じコトを繰り返して・・。でもネ、私は文章家になろうなんてつもりは毛頭ありませんからね。このホームページにしても、あくまでもサッカーコーチとして、自分の学習機会を広げるための「メモ」を残しているつもりなのですよ。そこには、(僭越ながら・・)サッカー文化を振興させるための「ナルホド情報」の提供という意味合いもあるけれどね。もちろん、人類史上最高のパワーを秘めた異文化接点としてのサッカーを語り合うためのネタ情報という意味合いでもネ。まあ、それについては、またの機会に。

 さて小野伸二。徐々に「持ち味」を発揮しはじめていると感じますよ。レベルを超えた、ボールや「状況」のデバイダー(divider=分配人)としてね。要点をわきまえた守備での「穴埋め作業」・・ボールがないところでの全力マーキング・・この頃は、ボール奪取勝負での実効レベルも向上していると感じられる・・また攻撃での素晴らしいボールコントロール力とキープ力・・ボールの展開力・・それだけではなく、しっかりと勝負所のスペースへ入り込んだり、自ら勝負パスを送り込んだり(正確なロングパスやダイレクトパスが見所!)決定的なシュートを放ったりといった、タイミングの良い、リスクチャレンジあふれる最終勝負も魅せる・・そして、長谷部を「上がらせる」タテのポジションチェンジの演出家・・。なかなかのものじゃありませんか。

 この日のプレーを観て、小野伸二に対するこれまでの心配が霧散しましたよ。彼も「また」、一人で(自らが主体になったリスクチャレンジプレーで!?)勝負を決められるようなタイプ(マラドーナ!)じゃないという事実をしっかりと認識しているということです。自ら、味方との組織プレーを必要としていることをしっかりと自覚している・・だからこそ組織プレーをリードしようとする・・。

 最後に、レッズの「スリーバック」について、ちょっとだけ。

 基本的には、フォーバック(≒ツーバック)の方が、原則的な意味で中盤に一人増やせるから、よりバランスの取れた、より攻撃的な基本ポジショニング(選手の基本的な配置)だとは思うけれど、レッズがやっている「タイプ」のスリーバックの場合、両サイドバックがより攻撃的なだけではなく(ギド・ブッフヴァルトは、サイドハーフというイメージの方が強い?!・・ドイツでは、ハーフが、最終ラインを追い越してまでも最終勝負シーンでの守備に就くのは当然だから、彼にとってはサイドハーフが、サイドバック的な仕事をこなすのも当然だというイメージがあるのだろう・・だから平気で永井雄一郎や田中達也をサイドで使う・・)、また最後尾の人数が「余っている」と判断した場合、トゥーリオも上がってくる・・その代わりに、前気味のリベロとして抜群の機能性を魅せつづける鈴木啓太がいる・・ってな具合なんだろうね。

 もちろん「スリーバック」でも、やり方(選手たちの戦術イメージ)によっては、ものすごく攻撃的なサッカーを展開できますからね、アルゼンチンやレッズのようにネ。要は、選手たちのイメージ次第だというわけです。最終ラインに人数が「余りすぎる」という無駄さえマネージできれば、スリーバックでもファイブバックでも、何でも大丈夫ということです。理想型は、ポジションなしのサッカーだからネ。これについては、以前「サッカー批評」で発表したコラムを参照してください。

 



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