湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第23節(2006年9月17日、日曜日)

 

ものすごくスリリングな仕掛け合いだった・・堪能させてもらいましたよ・・(フロンターレ対ジュビロ、3-4)

 

レビュー
 
 ホントに面白いエキサイティングマッチでした。7点も入ったし、戦術的な見所も豊富だったからね。さて、どんなテーマに集中して書き出そうか・・

 まあ、最初は、ジュビロの「マンマーク」から入りましょうかね。彼らは、限りなく「マン・オリエンテッド」なディフェンスを展開したのですよ。フロンターレのマルコンは菊地がケアーし、今野は上田、またジュニーニョへのマークは鈴木が受け持ち、我那覇はキムといった具合。そして両サイドハーフの太田と福西が、フロンターレの守備的ハーフコンビ(先発は、谷口と原田)が上がってきたときには、最後までマークしつづけるというわけです。さて・・

 マン・オリエンテッド守備の場合、何といっても、相手の足を止めてしまうという心理的な効果が大きい。要は、いくらボールがないところで動いてもフリーになれないといった「劣勢誤認」を誘うことで(心理的な悪魔のサイクルに陥れてしまうことで!)、ボールがないところでのアクションを仕掛ける意欲を殺いでしまうということです。相手とのチカラの差がある場合は、本当に効果的なディフェンス戦術です。でも、相手はフロンターレだからね。

 とはいっても、フロンターレが先制ゴールを入れたことで(前半15分の我那覇の中距離キャノンシュート!)、このマン・オリエンテッド守備が効果的に機能しはじめたのも確かな事実でした。要は、ボールがないところでのアクションの量と質が減退したことで(先制ゴールによる落ち着き!)、どんどんとジュビロ守備の術中にはまっていくフロンターレだったということです。後方からのサポートがうまく機能しないから(注意深い押し上げ姿勢=落ち着き優先という心理!)、誰もフリーでボールを扱えないことで簡単にボールを失ってしまう。これでは、どんどんと(ボールがないところで)足が止まりはじめてしまうのも道理というわけです。

 とにかく前半は、福西の同点ゴールだけではなく、その他にも何本も絶対的チャンスを作り出すなど、完全にジュビロがゲームを牛耳っていたという内容でした。

 ところで、忠実でダイナミックなマン・オリエンテッド守備だけれど、指揮官が交代するまで調子を崩していたジュビロにとって、そのディフェンス戦術を採り入れることの「意義」は本当に大きいと感じていた湯浅でした。そのことによって、実効ある「守備意識」を、本当の意味で高揚させられるということです。とにかく、全てのスタートラインは守備にあり・・だからね。

 守備意識が高まれば、互いの信頼感も高揚する。ジュビロの選手は、決められた相手へのマンマークを基盤にしながらも、状況に応じて確実にマークを受け渡すなど、柔軟にプレーしていましたよ。「あうんの掛け声」を飛ばしながらネ。素晴らしいコンビネーションでした。誰でも必要に応じて全力ディフェンスに入ってくれることに対する相互信頼。それが高まれば、それまでの義務的な守備意識が、クリエイティブな「主体的」守備意識へと昇華させることができる。そして、それを基盤にできれば、ポジショニングバランス・オリエンテッドな守備も十分に機能させることができるというわけです。

 ところで試合後の記者会見。ジュビロ監督のアジウソンさんに、「マンマークを基盤にしているようだけれど、それは、次の段階へ進むための準備というニュアンスだろうか?」と質問してみました。それに対し、「この試合では(そのゲーム戦術として)、もっとも危険なジュニーニョを厳しくマークするという考え方で臨んだ・・まあ、試合に応じてマンマークやゾーンを柔軟に使い分ける・・」と答えていました。まあ、そういうことなんだろうネ??

 そんな、ジュビロのマンマーク守備をベースにした素晴らしいサッカーばかりが目立っていた前半だったけれど、後半は、ガラッと試合のコンテンツが変容していく。中村憲剛が入ったこともあって、フロンターレの攻めの勢いが何倍にも増幅したのです。

 後方からのサポートが厚くなり、素早いコンビネーションが機能しはじめるフロンターレ。マンマーク主体だから、もちろんスペースはどんどん発生してしまうけれど、基本的には、そこを使おうとする相手「まで」も、しっかりとマンマークしていれば問題ないのだけれどネ・・。後半立ち上がりに魅せたフロンターレのサポートには、レベルを超えた勢いがあったということです。

 そんなだから、フリーでパスを受けるフロンターレ選手がどんどんと出てきてしまい、そこを起点に素早いコンビネーションを仕掛けられてしまうといった具合なのです。これでは、ジュビロのマンマークが、どんどんと「ズレ」はじめてしまうのも道理。何せ、ワンツーとパス&ムーブで、どんどん後方からフリーな相手が出てきてしまうのだからね。そんな状況じゃ、自分のマークを放り出してでも危険な選手をチェックしなければならないのは言うまでもない。でも素早くパスをつながれ、結局は最初にマークを離した相手にボールが回されてきちゃったりしてネ。

 この後半立ち上がり5分間のサッカーこそが、フロンターレが「堂々たる優勝候補」であることの所以でした。でも、そんな圧倒的な流れのなかで、ジュニーニョが勝ち越しゴールを入れてしまうのですよ。後半6分のことです。

 そのとき、これは、前半のゲーム展開が繰り返されてしまうのか・・なんてことを思っていた湯浅でした。でもそこは、発展をつづけるフロンターレ。今度は、「ダイナミックな落ち着きサッカー」を展開してみせるのです。決して守りにはいるのではなく、攻守にわたって、積極的なプレーを展開し(リスクへもしっかりとチャレンジ!)何本もシュートチャンスを作り出すフロンターレってな具合。なかなかのモノだな・・なんて、感心させられたものです。でも・・。

 その後、ジュビロのカレン・ロバートが同点ゴールを叩き込んだところから(後半12分)、ゲームが、まさにスリリングという表現がピタリと当てはまるエキサイティングなモノへと変容していったのです。ホームゲームをモノにしたいフロンターレ。その後は、マギヌンまで投入し、勝負をかけてきた。そして、続けざまにシュートチャンスを作り出す。対するジュビロも負けじと前へ押し返していく。フ〜〜ッ。

 そのエキサイティングな仕掛け合いについては、解説の必要なんてないね。実際、私自身も心から堪能していたからね。

 それにしても中山ゴンは大したものだ。まだまだ切り札として機能できているんだからね。まあ、フロンターレのマルコンが上がったスペースを活用するというイメージで素晴らしい仕掛けプレーを披露したジュビロの太田とか、田中誠の素晴らしいカバーリングとか、部分的に「神様になった」川口能活とか(ハイボール処理も進歩している!)、ストライカーとしてどんどん存在感をアップさせている我那覇とか(ジュニーニョをうまく活用する消えるプレーなど)、いろいろとテーマはあるけれど、まあ、この試合については、こんなところにしておきましょう。ホントは短くまとめるつもりだったけれど、またまた冗長になってしまった。このところ、ポイントだけを整理することで、短くまとめようとトライしてはいるのだけれど・・。

 



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