湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第10節(2006年4月30日、日曜日)

 

ちょっと教科書的なレポートになってしまった・・スミマセンね・・(アルビレックス対ガンバ、1-0)

 

レビュー
 
 この試合では、「守備の起点」の演出と、ボールがないところでの守備イメージというテーマを採り上げましょうか。ホームのアルビレックスが、なかなかの試合運びで強力なガンバに競り勝ったのですが、そのベースとなったのが、試合のなかで発展した守備コンテンツだったと思っている湯浅なのですよ。

 ここでいう守備の起点とは、チェイス&チェックによって相手ボールホルダーの「主体的アクション」を抑えられている状況・・なんて定義できますかネ。また、ボールがないところでの守備アクションは、例えば、守備の起点ポイントにサポート選手が急行することで協力プレス守備を展開したり、次のパスのインターセプトを狙ったり、ボールとは遠いゾーンでスペースへ走り込もうとする相手選手をしっかりとマークしたり等といったプレーに代表されます。ちょっと説明が簡単すぎるとは思うのですが・・スミマセン・・。

 とにかく立ち上がりのアルビレックス守備ブロックは、素晴らしいガンバの攻撃に振り回されつづけました。例えば前半6分のピンチ。右サイドからドリブルで突っかけていくガンバの突撃隊長フェルナンジーニョ・・そのアクションに視線とアクションが吸い寄せられてしまうアルビレックス守備ブロック・・次の瞬間、フェルナンジーニョは、後方から中央ゾーンを上がってきた二川へ横パスを出し、自身は、アルビレックスのゴール前ゾーンへ走り込む・・最初はその動き(パス&フリーランニング)をケアーしていたアルビレックス最終ラインのリーダー海本だったけれど、ボールを持った二川がうまいタメを演出したことで、今度は視線とアクションが「そこ」へ吸い付けられてしまう・・

 ・・そして二川は、右サイドを完璧にフリーでオーバーラップしてきたシジクレイへ、ベストタイミングの展開パスを出す・・この時点でアルビレックス守備ブロックの「守備イメージ」は完全に振り回されていた・・もちろんフェルナンジーニョは、まったくフリーで新潟ゴール前へ走り込んでいる・・そしてそこへ、シジクレイから、ダイレクトでの「最終勝負トラバースパス」が送り込まれたという次第・・

 ・・このシーンで、ゴールラインとほぼ平行に、ゴールキーパーの眼前に広がる決定的スペースを横切る「決定的トラバースパス」がフェルナンジーニョに合わなかったのは、まさにラッキーとしか言いようがない・・このゴールが決まっていたら、試合は、まさにガンバペースで終始したでしょうからね。まさに、命拾いをしたアルビレックス・・。

 その後の前半14分にも、同じようにボールがないところでのマークが甘くなったことで、マグノ・アウベスに、続けざまに決定的シュートを見舞われてしまうアルビレックス。これで少なくとも三回は「命を拾った」ことになる。この時点でわたしは、「この試合でのアルビレックスの守備ブロックじゃ、ガンバに何点ブチ込まれるか分かったモノじゃないな・・」なんて悲観したモノです。もちろんゲームが詰まらなくなってしまうという意味でね。ところが・・。

 ガンバ最前線に対するマークが甘くなったことの一番の要因は、アルビレックス中盤ディフェンスが、ガンバ攻撃の「流れ」をうまく抑制できていなかったこと。要は、仕掛けの起点となる相手ボールホルダーをキッチリと抑えられていなかったことで(そこにも意識が分散してしまったことで)、最前線でのマークも中途半端になってしまったということです。

 もちろんその背景には、強力なガンバ攻撃陣の仕掛けコンテンツがあったことは言うまでもありません。マグノ・アウベス、フェルナンジーニョ、二川が、まさにポジションなしといった具合にクルクルと入れ替わる。そんな「渦巻きのような」動きに、家長と加地の両サイドだけじゃなく、遠藤と橋本で組む守備的ハーフコンビの一人も効果的に参加してくる。そしてこの六人が、ボール(と人)を素早く、そして広く動かしつづけるなかで、危険なドリブル突破チャレンジやギリギリのタメも挿入しちゃう。「組織ブレーと個人プレー」が高みでバランスしたガンバの真骨頂といった仕掛けが素晴らしい機能性を魅せつづけていたということです。

 こりゃダメか・・なんて思っていたのだけれど、前半も20分を過ぎるあたりから、徐々にアルビレックス守備ブロックが安定しはじめ、それに応じて攻撃にも勢いが乗るようになっていくのです。そんなポジティブな変化のバックボーンが、中盤での「守備の起点の演出」がうまく機能しはじめたことと、その周りで展開される「ボールがないところでの守備アクション」の効果レベルが高揚したことだと思っているわけです。

 この現象については、決して「守備側」からだけで分析するわけにはいきません。その現象の背景には、もちろんガンバの攻撃の勢いが落ち着いてきた(≒ダイナミズムの減退)こともあるわけです。そして「ここ」が大事なのだけれど、その「落ち着き」の背景にも、アルビレックス守備ブロックの実効レベルの高揚があるのですよ。攻守にわたって、それぞれの影響因子がせめぎ合うサッカー。だからこそサッカーは、攻守にわたる、有機的なプレー連鎖の集合体・・なんてネ・・。

 そんな流れのなかで、中原が放った目の覚めるようなロングシュートで一点をリードしたアルビレックスの守備ブロックの機能性が、どんどんと高揚していく・・それに対して、ガンバの仕掛けコンテンツが、どんどんとミエミエになっていく・・。要は、アルビレックス守備が、ガンバ選手たちがイメージする「勝負所」を完璧に抑えはじめたということです。

 まあ・・ね・・、確かに、より多くの人数を守備ブロックに掛けたこともあるわけだけれど、わたしは、人数だけの問題じゃなく、しっかりとした守備イメージの浸透(守備でのイメージシンクロ・・勇気連鎖レベルの高揚)があったと思っているわけです。

 フェルナンジーニョやマグノ・アウベスがボールを持っても、(忠実に守備の起点を演出したアルビレックス選手が)安易に当たりにいかず、ウェイティングで味方のサポートを待つ。だから、ゲーム立ち上がりでは「効果的な仕掛けツール」として機能していた彼らのドリブルが、徐々に「単なるボールの停滞」という現象に成り下がっていく。そしてガンバ選手たちは、「仕掛けの起点イメージ」を奪われ、ボールがないところでのアクションに対するエネルギーが減退していく・・。

 本当に相対ゲームであるサッカーは面白いよね。ゲームの終盤では、仕掛けのリズムという視点で、ガンバ選手たちは心理的な悪魔のサイクルに落ち込んでいった・・なんてことまで言えそうです。

 それにしても、アルビレックスは見事に立ち直り、素晴らしく主体的なディフェンスの機能性を魅せつづけてくれました。アルビレックスにはしっかりとしたリーダーがいる・・?! 海本と寺川・・?? さて・・。

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 ちょっと「告知」ですが、5月5日のこどもの日、湯浅が、NHKラジオに出演することになりました。番組のタイトルは、「いっぱい話そう! ワールドカップ2006」というのだそうです。時間は、1300時から1600時までの三時間だってサ・・。

 番組は「三部構成」になっていて、わたしが出演するのは「第二部と第三部」ですが、第一部も、サッカー世界潮流と題して、「J」での監督経験がある原博実さんと川勝良一さんがゲストだから面白そうだよね。第二部は「開催国ドイツのいま」。ゲストは、わたしと、ドイツ人ジャーナリスト、ハンス・ギュンター=クラウトさん。ドイツ在住の方々に電話インタビューもします。そこから、具体的にワールドカップでの戦い(特にF組での戦い方)というテーマに入っていく。ゲストは、引きつづきの湯浅とクラウトさんに加え、元日本代表の三浦泰年さんも入ってくるっちゅうわけです。

 そして最後に「司会者」。言わずと知れた「山本浩さん」が、例によって、ジェネラルコーディネーターとして番組全体を取り仕切ります。また山本さんの相方は、サッカー女子日本代表の主将をつとめた「野田朱美さん」。

 山本浩さんの「突っ込み」は厳しいですからね、いまから楽しみです。

 



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