湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第10節(2006年4月29日、土曜日)

 

クレバーな戦術で互角の勝負を挑んできたアルディージャ・・また小野伸二へのメッセージも・・(レッズ対アルディージャ、2-0)

 

レビュー
 
 「レッズの良さはディフェンスにある・・最終ラインはとにかく強く安定している・・」。試合後の三浦監督が、そう分析していました。まあ・・そういうことだよね。レッズの場合はその攻撃力に注目が集まるけれど、いまのレッズの成績のベースが安定した守備ブロックにあることは確かな事実なのです。

 そんな三浦監督に対して、「強いレッズの守備を崩し切れなかった要因は?」という質問が飛びました。それに対し、即座に、「最終攻撃ゾーン(最後の1/3エリア)に入ったところでの仕掛けの変化や個のチカラが足りなかった・・」と反応する三浦さん。そして付け加えるように、「決定力という視点で、レッズにワシントンというストライカーがいることは大きい」とも・・。

 この試合は、まさに互角の展開という内容になりました。そんな、戦術的にもフィフティーのゲーム展開になった場合、やはり最後は、個のチカラが「勝負を分ける現象的な僅差」を形作るということです。ワシントン・・。まあ、この試合では、運も大きく作用したしね。ツキに見放されたアルディージャ・・つのツキを引き寄せたレッズ・・。この日のアルディージャは、攻守にわたるクレバーなゲーム戦術がうまく機能していたし、レッズが抱える個のチカラを十分に抑えられていたから、そのバッドラックのシーンが目立ちに目立ってしまったということかもしれませんね。

 それにしても、優れたディフェンダーとして素晴らしく安定したプレーを魅せるだけじゃなく、チームのリーダーとしても抜群の存在感を発揮しているアルディージャのトニーニョは、サッカーの神様の気まぐれに翻弄されちゃいましたよね。何せ、ボールをカットする寸前に、そのボールがイレギュラーしてトニーニョの足を飛び越しちゃったんだからね。そして、その「こぼれ球」を拾い、トニーニョの追走もうまくブロックしながらキッチリとシュートを決めたワシントンも、決定力の権化としてのオーラを強烈に放散する。サッカーは何が起きるか分からない・・。

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 さてここからは、小野伸二に対する前向きな批評ということになります。スタートポイントは、例によって、「やれば出来るのに・・やらない・・やろうとする積極的な意志がみえてこない・・」という現象。「やる」とは、もちろん、攻守にわたる真の目的(攻撃ではシュートを打つことであり守備ではボールを奪い返すこと)を達成するために、汗かきやリスキープレーも含め、効果のある仕事を探しつづける積極的なプレー姿勢のこと。

 この評価基準で、わたしは、小野伸二のプレー内容にちょっと落胆していました。ケガがまだ十分に癒えていない?! いやいや、わたしが対象にしているのは、あくまでも「意志の表現」だからね。「やる意志」が明確に見えなかったこと自体を問題にしているのですよ。何せ、あれほどの天賦の才に恵まれ、ボールと状況のデヴァイダー(divider)としての能力は折り紙付きの小野伸二だからね・・。

 まず何といっても、絶対的な運動量が明らかに不足している。それだけではなく、攻撃でも守備でも、その目的を「直接的に」達成できるような状況で「しか」全力ダッシュ(全力アクション)を繰り出していかないということも目立つ。

 要は、攻撃でも守備でも、自分が決定的スペースでパスを受けたり、自分が直接ボール奪取に関われるシーンで「しか」全力アクションを起こそうとしないということです。たしかに前半では、2-3回は、素晴らしいインターセプトシーンや仕掛けたタックルが成功したシーンがありました。また、彼がボールを持ったことでチーム内の雰囲気が落ち着いたというシーンもあったし、何度か見事な中距離シュートも放ちました。それはそれで素晴らしかった。それでも、全体としてみた場合、チェイス&チェックに代表される守備の起点プレーはほとんどなかったし、ボールがないところで走り込む相手選手をマークするというプレーもなかった。彼よりも前線にいる長谷部が(小野を追い越してまで)全力でマーキングに戻っているにもかかわらず・・。また攻撃でも、味方にスペースを作り出すような、ボールがないところでの積極的な動きが目立つこともありませんでした。

 またこの試合では、仕掛けの起点として小野がうまく機能できていなかったことも落胆させられる現象でした。横パスを出し、そして足を止めた状態で、「もう一度オレにボールを戻せ!」という態度。でもボールを持つチームメイトたちは、足許パスを要求する小野を「無視して」自分で仕掛けていく・・。そんなシーンが目立っていたのですよ。そして、その仕掛けの流れに乗り遅れた小野は、そのまま足を止め、まさに無為な様子見状態に陥ってしまう。そんな小野は見たくない。

 小野の絶対的なベースは、何といっても組織プレーなのですよ。何せ、ドリブルで相手守備ブロックをズタズタに切り裂けるわけじゃないんだからね。また守備でも、まだまだボール奪取勝負プレーに課題を抱えていることも確かな事実。だから、常に味方とのイメージをシンクロさせ、プレーを有機的に連鎖させなければ(味方と有意義に協力しなければ・・味方のサポートがなければ)、彼の良さが活かされることはないのです。

 もちろん、そんな組織プレーの流れを、彼自身が積極的にドライブしていかなければならないわけだけれど、そのための絶対条件が、汗かきも含む、攻守にわたるボールがないところでの実効ある組織プレーだということが言いたい湯浅だったのです。そんな自己犠牲プレー(それこそが自己主張!)を前面に押し出せないのだから、周りのチームメイトたちが、組織プレーのリーダーとして小野伸二を探すこともないというメカニズム。頭脳明晰な小野伸二のことだから、「勘違い」するなんてことはあり得ないと思うけれど・・。

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 ちょっと「告知」ですが、5月5日のこどもの日、湯浅が、NHKラジオに出演することになりました。番組のタイトルは、「いっぱい話そう! ワールドカップ2006」というのだそうです。時間は、1300時から1600時までの三時間だってサ・・。

 番組は「三部構成」になっていて、わたしが出演するのは「第二部と第三部」ですが、第一部も、サッカー世界潮流と題して、「J」での監督経験がある原博実さんと川勝良一さんがゲストだから面白そうだよね。第二部は「開催国ドイツのいま」。ゲストは、わたしと、ドイツ人ジャーナリスト、ハンス・ギュンター=クラウトさん。ドイツ在住の方々に電話インタビューもします。そこから、具体的にワールドカップでの戦い(特にF組での戦い方)というテーマに入っていく。ゲストは、引きつづきの湯浅とクラウトさんに加え、元日本代表の三浦泰年さんも入ってくるっちゅうわけです。

 そして最後に「司会者」。言わずと知れた「山本浩さん」が、例によって、ジェネラルコーディネーターとして番組全体を取り仕切ります。また山本さんの相方は、サッカー女子日本代表の主将をつとめた「野田朱美さん」。

 山本浩さんの「突っ込み」は厳しいですからね、いまから楽しみです。

 



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