湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第24節(2005年9月18日、日曜日)

 

エキサイティングなゲームを観ながら、いろいろなことにアタマを巡らせていた湯浅でした・・(サンフレッチェ対レッズ、3-4)

 

レビュー
 

それにしてもエキサイティングな勝負マッチになりました。様々な視点で両チームにとって大事なゲームだったから、できれば他の約束をキャンセルしてでも日帰りで広島まで駆けつけられたら(自分自身の学習機会としても)よかったのだろうけれど、結局は都合をつけることができなかった。ちょっと残念・・。

 まず、この試合のハイライトとなった、レッズが一点をリードして突入した最後の時間帯から入りましょう。というのも、そこでのレッズの集中力という視点で、明暗が相半ばしていたと感じられたからです。たしかに全体的には守備ブロックが振り回されるというシーンはなかったし(長谷部誠と鈴木啓太が展開した中盤での汗かきディフェンスに拍手!)、ボールを奪い返しても、余裕のあるボールキープで時間をかせいだり、ココゾの勝負所では人数をかけた仕掛けも魅せました。とはいっても、前田に打たれた二本の決定的シュートはいただけない。左足シュートという、前田の「オハコ体勢」に入っているにもかかわらずディフェンスの寄せが甘かったのですよ。また、やってはいけない中盤でのミスパスでカウンターを食らったりといった場面もありました。相手がマリノスやガンバ、はたまたジェフや調子が上がっているヴェルディといった強豪だったら、コトはそう簡単には収まらなかったに違いない・・。そこでのサッカーコンテンツにこそ、勝者メンタリティーのキーポイントが隠されていると思っていた湯浅だったのです。

 昨日のレポートのテーマは「サッカーという心理ゲーム」ということでした。心理的な状態によって選手たちの物理的パフォーマンスが揺動するのは当然なのですが、有機的なプレー連鎖の集合体であるサッカーの場合は、その心理メカニズムはちょっと複雑。要は、心理パワーに支えられた物理パフォーマンスは良いレベルにあったとしても、それを、実際の攻守にわたる実効プレー(≒リスク・チャレンジなど)に置き換えるための「自分主体の意志」の絡みも非常に重要なポイントになってくるということです。

 私は、心理的な状態と意志コンテンツを、ケースバイケースで分けて考えるようにしています。要は、「攻守にわたるリスキーな勝負へ行かなくても」、それがミスとして目立たないのもサッカーだということです。もちろんプロは「それ」が分かるから、事後的に、その事実と対峙しなければなりません。サッカー監督の仕事は、そこで、しっかりとした(チームのマジョリティーが納得できるような)判断を下し、必要ならば罰(チームにとっての刺激!)を与えなければならないということです。それが、誰かにとっての「大きな不満」として残ったとしてもネ・・。チームは、常に何らかの不満を抱えているものだし、それをポジティブなダイナミズムとしてうまく活用できることも、監督のウデなのですよ。人間心理のダークサイドパワーをも有効に活用できなければプロではない・・ということです。

 スミマセン・・ちょっと脱線が過ぎたかも・・。試合ですが、観られた誰もが認識していたように、レッズの方が「選手個々のチカラを単純加算したチーム総合力」という視点では確実に上でしょう。でもその差は、まさに僅差。サンフレッチェは、小野監督の下、めきめきとチカラを付けているいると感じます。要は、基本に忠実なサッカー・・。攻守にわたる基本プレーを、集中力を切らさずにしっかりと実行しつづけることで(その基本プレーの目指すレベルへ常に近づこうと努力することで!)、確実にサッカーもレベルアップするということです。守備では、チェイス&チェックを守備の起点とする「有機連鎖コンテンツ」は非常に高いレベルにある。それこそが、チームの戦術レベルを如実に表している。まあ「そこ」でもレッズに一日の長はあったけれど・・。ただ攻撃が、どうも「組織方向へ偏り過ぎている」と感じる。それが、前述した「個のチカラ」ということです。しっかりと人とボールを動かしつづけ、サイドゾーンをうまく活用して、クロス&ピンポイント勝負をイメージする・・。サンフレッチェが作り出した後半立ち上がりのビッグチャンスと同点ゴールは、まさに「それ」でした。あっと・・「4-3」となる追い掛けゴールもまた、サイドからの鋭いグラウンダークロスに依るものでしたよね。その最終勝負については、サンフレッチェ選手たちのイメージは確実にシンクロしているということです。でも、やはり組織的な仕掛けプロセスに偏り過ぎていると感じるのですよ。でも彼らの場合は、そんな「変化ファクターの足りないところ」を、レベルを超えた「戦術的な忠実サッカー」で補っているということです。それもまたサッカーの王道なのです。

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 このコラムでは、やはり田中達也にスポットを当てなければフェアじゃないでしょう。ホンモノへ向けて脱皮をつづけている田中達也。シンプルな組織プレーと、ここぞの個人勝負のハイレベルなバランスが素晴らしい。特に、これぞ自分主体の勝負マインド(パスを呼び込むフリーランニング!)といえるボールがないところでのプレー意志が期待を増幅させてくれます。とにかく、組織でも個でも決定的な仕事ができる多面性ストライカーに成長していると感じますよ。その勝負マインドは、ボール絡みだけじゃなく、ボールがないところでも、明確な勝負イメージとなって彼の物理アクションを引っ張りつづけていたわけだけれど、それが先制ゴールにつながったのだから堪えられなかったでしょう(その前にも、何度も、抜け出しからのチャンスメイクを魅せつづけていた!)。

 ポンテも、試合直後のインタビューで、「達也の(ボールがないところでの)活発な動きがあったからプレーし易かった・・」と述べていましたよ。田中達也の場合は、「状況的な不安定さ」はありませんからね、パスを出す方にしても、事前に明確な勝負イメージを描写できるというわけです。

 それにしてもレッズは、まだまだツキに恵まれている。リーグトップのガンバが敗れたことで、再びトップツーの後ろ姿が見えてきたのですからね。まあ、とはいっても、このチームには、ヴィッセル戦やトリニータ戦で見られたようなモティベーションのクラック(やる気のヒビ割れ)があるからネ・・。モティベーションレベルの安定には、(刺激の供給者としての!?)優れたチームリーダーが不可欠です。もちろんトゥーリオが中盤にいればいいのだろうけれど・・。山田暢久はどうなんだろうか・・鈴木啓太や長谷部誠はまだまだなのだろうか・・いっそのことポンテに心理的な牽引タスクを担わせるのも一考かもしれない・・そうすれば、攻守にわたる彼の活動コンテンツも増幅するだろうから一挙両得だし・・。最後の時間帯でのゲーム内容を観ながら、そんなことにもアタマを巡らせていた湯浅でした。これから繰り広げられるギリギリの優勝争いのことを考えたら、やはり強烈なパーソナリティーが必要だからネ・・。
 
 

 



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