湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2005年5月14日、土曜日)

 

ジェフの魅力的サッカーというコンセプト・・心理的な悪魔のサイクルに陥っている東京・・(ジェフ対FC東京、2-1)

 

レビュー
 
 後半12分あたりでしたかネ、ジェフの右サイドハーフ水野からの鋭いラストクロスが決定的チャンスを演出しました。ここで注目に値する事実は、そのクロスに合わせたのが、守備的ハーフの佐藤勇人だったこと。基本的にはオールコート・マンマークのジェフだけれど、ココゾ!という状況では、継続的にタテのポジションチェンジが出てきていることを象徴するプレーだったというわけです。あっと・・その意味は、後方選手たちのオーバーラップ(最前線への飛び出し)が積極的にくり返されているということ。私は、これこそがジェフ成功のバックボーンだと思っているのですよ。

 ジェフ選手たちには、それぞれに明確なディフェンスタスク(守備での役割)が与えられています。「オマエは、アイツをしっかりとマークしつづける・・」というオールコート・マンマーク。でも彼らの場合、その守備が決して次の攻撃の足かせにならないことが凄い。次のマーキングを意識し過ぎることで「後ろ髪を引かれ」、タテのスペースへ飛び出していかなかったり・・パス&ムーブを怠ったり・・。ジェフ選手たちのプレーからは、そんな後ろ向きの姿勢など微塵も感じないのです。それが凄い。

 イビチャ・オシムさんは、常日頃こんな指示を出しているに違いない。ボールを奪い返したら、パス&ムーブも含め、チャンスがある者は誰でもタテへ抜け出して行け・・そこで流れに乗り遅れた者は次の守備に備えろ・・自分のマークを放り出してでも攻撃チャンスを掴み取れ・・その攻撃が何らかのフィニッシュまで行ければ、戻る時間は十分あるし、もしオマエがタテへ仕掛けていったら、オマエがマークしていた相手も戻ってくるものさ・・守備はすべてのスタートラインだけれど、それは目的ではなく手段にしか過ぎない・・とかネ。もちろん私は、実際の指示内容なんてまったく知らないけれど、たぶんそんな「感じ」なんじゃないですかネ。

 ということで私は、冒頭で紹介したシーンが、そんなイビチャ・オシムさんの日頃のイメージ構築作業の素晴らしいアウトプットだったと思っていたわけです。リスクチャレンジ姿勢こそが、発展のための唯一のリソース・・。

 今回は、マリオ・ハース(スーパー・マリオ!!)のプレー内容にも触れておくことにします。何せ彼の素晴らしいポストプレーもまた、ジェフが展開するダイナミックサッカーを支える重要ファクターの一つですからね。私はマリオのことを、「最前線におけるタテのポジションチェンジの演出家」なんて呼んじゃうことにします。とにかく彼がタテパスを受けたら、周りの味方の飛び出しエネルギーが倍増すると感じるのですよ。それほど彼のキープ力とタイミングの良いシンプルパスに対する信頼が厚い。もっと言えば、ジェフが魅せつづける素晴らしく「軽快なパスリズム」は、マリオの指揮による・・なんてことまで言えたりして。ジェフが展開しつづける人とボールの動きの素早くシンプルなリズム。それこそが、効果的な組織パスプレーのバックボーンなのだけれど、マリオの「シンプルな起点プレー」があればこそ、そのリズムがフィニッシュまで継続されるというわけです。

 ところで、残り20分でマリオと交代した林丈統。あれほどの才能に恵まれているのに、どうも惜しい。この試合でも、攻守にわたって、プレーが縮こまっていると感じました。例えば守備。最前線からのチェイスを仕掛けなければならない場面なのに、林は様子見で足を止めてしまっている。そのとき、そんな林の背後から追い越すように、(業を煮やした?!)羽生が全力チェイシングに入っていくなんていうシーンを何度も目撃しました。その直後から林も、そんな羽生の忠実な汗かきディフェンスに刺激されるかのように自らも積極ディフェンスに就いたけれど、どうも鈍い・・。また攻撃でも、チャンスでのスペースへの飛び出しタイミングが遅れ気味。要は、相手守備にとってあまり怖くない存在だということです。パスレシーブの動き(ボールがないところでの動き)を活性化することで、もっと「良いカタチ」でパスを受けられるようになるでしょう。そうすれば、彼のドリブル能力だって、いまの何倍も効果的に発揮できるようになるに違いない。だからこそ、惜しい・・。

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 ところで、久しぶりに観戦したFC東京。そのサッカー内容が悪化していることにビックリさせられました。とにかくリスクチャレンジ姿勢が極端に減退していると感じるのです。攻撃においても、守備においても。攻撃では、リスクへチャレンジしていくのではなく、安全な横パスに逃げるプレーが多いから、ジェフの積極ディフェンスに取り囲まれて高い位置でボールを失ってしまうなど、自らピンチを招いているとまで感じる。また守備にしても、狙いは定まっているのに、実際のボール奪取勝負では、どうも足が伸び切らない。

 原さんも苦悩の表情を浮かべていました。要は、心理的な悪魔のサイクルのクサリをいかに断ち切るかというテーマ。とにかくまず何らかの前向きな刺激を与え、縮こまったプレーから解放してあげなければいけません。「いまはちょっとキビシイ状況にあるけれど、必ず調子を取り戻して優勝戦線に戻ってくる・・彼らは、素晴らしいチカラを秘めたチームだ・・」。イビチャ・オシムさんが言っていました。私も同感です。とはいっても、現状の悪魔のサイクルはたしかにキビシイ。クサリは太そうです。

 とはいっても、後半の立ち上がりのサッカーには、シーズン当初のダイナミズムを感じました。サイドからの確信にあふれた仕掛け。人とボールの動きにしても、前半とはうって変わったエネルギーのほとばしりを感じたものです。それでもゴールを奪えず、逆にジェフの必殺カウンターを浴びてしまい、徐々に確信エネルギーが減退していく・・。

 私にも、彼らを解放するための具体的なアイデアは浮かんできません。まあでも、ここまできたら怖がっていても何も生まれないし、失うものばかりだという事実を選手たちも十分に体感していることでしょう。そろそろ吹っ切れるかな?? 原さんが繰り出す何らかのポジティブな刺激も含めて、彼らの再生プロセス(吹っ切れた解放プロセス)には大いなる興味を惹かれます。

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 最後にオシムさんの今日の一言を・・。ここでもまた、私なりの理解で表現します。それは、オシムさんの「Jリーグは興味深いリーグ・・実力伯仲の面白いリーグ・・」という発言に対して私が呈示した興味に答えて頂いたものです。私の質問は、「オシムさんもご存じのように、フットボールネーションでは、年間バジェットのランキングがそのままリーグの順位につながるといったケースが多いけれど、Jではまだそんなことはない・・たとえばオシムさんが指揮するジェフといった好例もあるわけですが・・?」というものでした。

 「ジェフはまだそこまでのパフォーマンスを示せているわけではない・・ところでリーグの順位についてだが、そこには、結果のためにやるのか、面白いサッカーを目指すのかという興味深いテーマがある・・たしかに結果も大事だけれど、私は、魅力的なサッカーを追い求める方がいいと思っている・・」。

 とにかく私は、これからもイビチャ・オシムさんを支持しつづけます。

 



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