湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第5節(2004年4月14日、水曜日)

 

まさに大どんでん返し・・この試合でも退場劇が転換点になりました・・(エスパルス対レッズ、4-3)

 

レビュー

 

 この試合のテーマは、発展するレッズの守備意識かな・・。前半のサッカー内容を観ながら、そんなことを考えていました。とにかくレッズのサッカーが素晴らしいの一言だったのです。

 縦横無尽に繰りひろげられるレッズ選手たちのポジションチェンジ。

 この試合では、右サイドの永井と山田コンビによるタテのポジションチェンジもうまく機能します。永井のディフェンスにも実効ある安定感が伴ってきている・・でも今度は、ちょっと下がりすぎの傾向が・・まあ、そんなトライをくり返しているうちに、サイドバックとしての最良の「バランス感覚」が培われていくのだろう・・とにかく永井が攻守にわたって発展しているのは確かだし、この試合では、山田をタテへ送り出すなんていうシーンまであった・・後半には、直接的な相手となる平岡のフリーランニングにウラを取られてしまったシーンがあったけれど、その次には、うまいポジショニング(ベストタイミングでのマーキングスタート!)で、平岡のタテへの飛び出しを抑えてしまった・・そんなプレーにも、永井の学習能力の高さを実感する・・ってな印象です。

 ちょっと永井のことを書き過ぎのように思いますが、とにかく、若者の、考えつづけ、工夫しつづける積極的なプレー姿勢ほど元気をもらえる現象はありませんから、こちらも気を入れて書いてしまったという次第。また彼のパートナーである山田暢久にしても、そんな永井のディフェンスに対する信頼度が少しは高まったようで、攻め上がり頻度は、かなり好転しました。そんなポジティブ現象は、左サイドのアレックス&鈴木啓太コンビも同じ。でもまあ、鈴木啓太は、中盤の底での穴埋め(バランシング)により徹していたという全体的な印象でしたが・・。

 それ以外でも、平川や坪井まで、最後尾から飛び出して攻撃に参加するなど、とにかく全員が、仕掛けのポジションチェンジを強烈に意識していると感じます。そんな積極プレーが出てくるようになった背景は、言うまでもなく、全員の高い守備意識と、それに関する相互信頼レベルの高揚。そしてレッズは、まさに自ら勝ち取ったと評価するにふさわしい素晴らしいゴールを決め(田中達也の2ゴール)順当なリードを奪うのですよ。

 とにかく楽しめた前半でした。そこでは、これ以上ないというほど出来の悪かったエスパルスが完全に心理的な悪魔のサイクルはまり込み、まったくその鎖を断ち切ることができなかったという見方もできるし、レッズの素晴らしいディフェンスがエスパルスを悪魔のサイクルに陥れ、そのチェーンを断ち切らせなかったという見方もできる。でもどちらが・・? まあ私は、レッズの出来の良さが、全てのスタートだったと思っています。

 そしてハーフタイム。もちろん私は、心理的なブレイクタイムをとった後半のエスパルスが、まったく別物チームになってグラウンドに戻ってくることは分かっていました。前半は、あまりにひどすぎましたからね。またそこには、アントニーニョというベテラン監督による「強烈な刺激」もあったに違いありません。だから私は、ホームのエスパルスが、後半は、まったく別のチームになってピッチに登場してくると確信していたというわけです。

 だからこそ逆に、2点をリードしたレッズのプレーコンテンツに興味をひかれる。要は、自分自身をどこまで律することができるのか・・というテーマで後半のレッズのプレーコンテンツを追いかけるつもりだったというわけです。でも・・

 後半9分のことです。セットプレーからのピンチでPKを取られただけではなく、その際に手を使ってボールをはたき落としたということで鈴木啓太が一発レッドを食らってしまうのです。

 その後、見事な太田のクロスからの同点ヘディングゴール(杉山)、アラウージョの逆転ゴール、これまた見事な太田のクロスからの追加ゴール(久保山)と、立てつづけに3ゴールを奪われ、気付いたら「4-2」ですからね。最後にレッズが、エメルソンのヘディングで「4-3」まで詰め寄ったけれど、そこでタイムアップ・・。まさに大どんでん返しというドラマチックなゲーム展開になってしまいました。

 私は、後半のプレーコンテンツを観ていて、こんなことを思っていました。レッズは、後半立ち上がりにエスパルスが魅せた抜群の勢いを余裕をもって受け止め、しっかりと組織的に押し返せていた・・そんなところにも、レッズのサッカーが正しいベクトル上に乗って発展しつづけていることが如実に感じられた・・でも鈴木啓太が退場になった直後は(追いかけゴールを決められた直後は)かなり守備ブロックが混乱し、エスパルスにチャンスを作り出されてしまう・・それは反省材料だったけれど、でもその後は、数的に優位なエスパルスが押し気味にゲームを進めたとはいえ、実質的な内容でひけをとっていたわけではない・・ただエスパルスの最終勝負シーンだけがツボにはまってしまった・・同点ゴールから逆転ゴールを決められた後のレッズは、守備ブロックを開いてでも攻め上がらざるを得なくなったし、エスパルスが特に中盤に人数をかけて守備ブロックを敷いていたから、そこをベースにカウンターを食らってしまうのも当然の成りゆきだった・・まあこれもサッカーだから仕方ない・・。

 ところで太田にヘディングで奪われたシーンで彼をマークしていたのはレッズの平川でした。たしかに難しい状況ではあったけれど、少なくても身体を預けるくらいまではしっかりとタイトにマークできていなければいけなかった・・。とにかく平川は、そのネガティブな現象を良い学習機会だったと捉えなければいけません。ミスや失敗は当たり前だし、同じようなミスや失敗はこれからも起きるでしょう。それは仕方ない。とはいっても、それを学習機会にしようとする努力を怠ることは、プロ選手として許されません。ここでいう学習とは、そのミスや失敗をしっかりと反芻し、コノテーション(言外に含蓄される意味)を明確に認識することで、それをくり返さない工夫をすることなのです。それこそが、本物の反省・・。

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 レッズにとっては残念な結果に終わってしまいました。前半の出来があまりにも素晴らしかったから、落胆の幅も大きかったですよね。それにしても、見事にツボにはまったエスパルスのゴールではありました。まあ、こんなこともあるさ・・。

 



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