湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第1節(2003年8月17日、日曜日)

後半は、見違えるほど持ち直したジェフ・・この変身が、この試合での一番の見所でした・・ヴィッセル対ジェフ(0-1)

レビュー

 フムフム・・やはり期待値が高いから、ジェフのサッカーに対する落胆も大きいということか・・。前半の展開を見ていて、そんなことを考えていました。まあ、そんな書き方をすると、「期待するのは勝手だけれど、ウチには、まだまだそのバックボーンは備わっていない・・そのことは見ていれば分かるじゃないか」なんて、イビチャ・オシムに言われてしまうのでしょうがネ・・。

 もちろんジェフに対する期待のコアは、ファーストステージで彼らが魅せつづけた、攻守にわたる「組織ハーモニー」。要は、誰でも最前線に絡んでいくし、誰でも最終ラインまで戻って守備をするという、全員守備、全員攻撃のダイナミックサッカーです。イビチャは、その理想型を「トータルサッカー」と呼んでいるようです。もちろんイビチャ自らが何度も語っているように、トータルサッカーは目標であり、到達できるものではない・・。だからそれは、あくまでも方向性を示唆する「発想」というわけですが、それでも観ている方にとって、「それ」に近づいている(目指すベクトル上にある)サッカーに対しては胸躍りますからネ。でも、この試合の前半では・・。

 たしかに全体としては、ジェフの方が「比較的」良いサッカーをやっているし、「比較的」多くのチャンスを作り出してはいる・・それでも、あくまでも比較の問題であり、選手たちのプレー姿勢に、ファーストステージで魅せていた高質な発想は感じられない・・というのが、前半でのグラウンド上の現実だったのです。

 ファーストステージ最終節と同じように、チェ・ヨンスの不在が響いている?! まあ、それもあるでしょうが、別な見方をすれば、攻撃のイメージリーダーとしての「二列目のサンドロ」がいないとも言えそうです(サンドロは最前線)。彼は、前後のポジションチェンジの演出家とも言えますからネ。彼が二列目にいることで、人とボールの前後の動きが活性化すると思うのです。

 ジェフのサッカーが「落ち込んでしまった」キッカケになったのは、聞くところによると、ジュビロとの大一番に引き分け、ファーストステージ優勝が目の前に迫ってきた段階で対戦したエスパルス戦だったとか。私もビデオで観ましたが、たしかにその試合でのジェフ選手たちは「金縛り」状態でした。逆に、失うものが何もないエスパルスは、今シーズン最高のゲームを披露した。そのグラウンド上の現象には、ジェフ選手たちを落ち込ませ、自信を喪失させるに十分な「心理・精神的なネガティブコンテンツ」が詰め込まれていたというわけです。だから、次のファーストステージ最終節(対レッズ・・私も前日に帰国して観戦!)での出来がものすごく悪く、その悪い流れをこの試合でも引きずっていた・・。

 とにかく前半のジェフは、後方からの「追い越しフリーランニング」が見られない・・パス&ムーブも鈍い・・全体的なボールのないところでの動きが緩慢だから、どうしてもボールの動きも停滞気味になってしまい、各選手の単独勝負アクションばかりが目立ってしまう(各ステーションにかかる時間が長い)・・等々、まったくリズムをつかめないのです。まあ、「早い段階で人を掴む」という基本的発想の組織ディフェンスだけはしっかりと維持されてはいますが、それでも受け身姿勢がアリアリですから、(次の最前線への飛び出しを強烈に意識した)前での勝負・・なんていう積極ディフェンスは、まったくといっていいほど見られない・・。これは重傷だな・・エスパルス戦での自信喪失が本当に大きかったということか・・イビチャは、どのくらい素早く、心理・精神的な部分のリカバリーを達成できるだろう・・それも、これからのジェフを観察するうえでの見所の一つだな・・。前半のジェフのサッカーを観ながら、そんなことを思っていました。

 でも後半は、ゆっくりと、ジェフサッカーが回復基調に乗りはじめます。そのことは、右サイドバック坂本の長い距離のオーバーラップとか、佐藤勇人の、最前線を追い越してしまう決定的フリーランニング、はたまた、最終ラインのミリノビッチが、50メートルはあろうかという長いフリーランニングを仕掛け、最後は決定的クロスを上げるところまでいってしまう等といったダイナミックプレーに如実に現れていました。そして、そんなリスクチャレンジの仕掛けプレーが、連鎖反応的に仲間を覚醒していく・・。

 そしてゲームは、後半も20を過ぎるあたりから、もう完全にジェフがペースを握るという展開になっていくのです。まあここでは、大変身を遂げたジェフのハイペースサッカー現象を一つひとつ取り上げることはしませんが、とにかく前述したネガティブ現象が、(より積極的でダイナミックになった、早めに人を掴むマンマーク中盤ディフェンスを基盤にして)すべて好転したといっても過言ではない回復具合でしたよ。

 もちろんそれには、前述のリスクチャレンジ仕掛けプレーなどが覚醒の刺激になったのでしょうが、それだけではなく、「ゲーム戦術的な変更」も功を奏した感があります。その代表が、守備的ハーフの佐藤勇人を上げたこと。まあ、ジェフのダイナミックサッカーの源泉は、何といっても「全員に深く浸透した守備意識」ですからネ。ちょっと、基本ポジションのイメージを「いじる」だけで、選手たちのアクティビティーを高揚させるための大いなる刺激になるということでしょう。

 「佐藤が上がり気味にプレーする?!・・よし、もっと上下に動きまわらなければ(攻守の切り換えを早くしなければ)バランスが崩れるぞ・・あっ、うまく機能してきた・・ヴィッセルも、オレたちの勢いに呑み込まれて、心理的な悪魔のサイクルに入って足が止まり気味になってしまっている・・ここがチャンスだ、次のディフェンスを基盤にもっと押し込んでいくぞ・・」ってな具合で、選手たちの攻守にわたるダイナミズムが格段に向上したのです(運動量が、倍に増えた)。もちろん、闇雲に走るのではなく、攻守にわたる互いの仕掛けイメージが「有機的に連鎖するランニング」。それも、互いの「守備意識に対する信頼が高い」から、後ろ髪を引かれることがない。そんな後半のジェフのサッカーを観ながら、自分自身で考え出した「サッカーは有機的なプレー連鎖の集合体」というキーコンセプトを反芻していましたよ。いや、素晴らしい・・。

 それでも、ジェフの攻守にわたるダイナミックサッカーが機能しはじめたからこそ、チェ・ヨンスの不在がより目立つようになったと感じられるシーンもありました。要は、中盤から前線にかけたゾーンでは相手を凌駕しているのに、最後の仕掛けコンテンツが単調で稚拙なのですよ。もちろん、うまくクロスを上げられる状況に入れば、林が挙げた決勝ゴールのように(右サイドで素早いタテパスを受けた羽生からの、これまた素早いタイミングでのトラバース・クロスに、林がニアポストスペースへ突っ込んでシュート!)決定的チャンスを作り出せますがネ。

 要は、最終勝負シーンでの「人とボールの前後の動き」が十分ではない・・ということです。もちろんチェ・ヨンスの、異文化で活躍する「心理パワー」に支えられたゴール決定力も含めてですが・・(チェの決定力があるからこそ、そこに相手が引きつけられる傾向が強くなり、その周りにスペースができ、それを後方からの追い越しフリーランニングで突いていく・・等々)。

 それにしてもジェフはよく勝った。まさに粘勝。次節からは、出場停止が解けたエースが復帰します。さてセカンドステージも、ヴェルディーの復活プロセスも含めて、またまた楽しみになってきたじゃありませんか。

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 高原直泰と稲本潤一については、明日(月曜日)にレポートする予定ですので・・。



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