湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第14節(2003年11月22日、土曜日)

 

両ゲームともに、これ以上ないとうエキサイティングな展開になりました・・ジュビロ対ガンバ(2-1)、FC東京対ヴェルディー(1-1)

 

レビュー
 
 いま、調布の味の素スタジアムの記者控え室でジュビロ対ガンバの試合をみはじめたところです。この試合が終わったら、すぐにFC東京対ヴェルディーがはじまります。グランパス対レッズ戦、ベガルタ対マリノス戦は後でビデオで確認しましょう。明日の日曜日は、もちろんジェフ対トリニータの観戦。もちろんアントラーズ戦もビデオで確認するつもり。まさに完璧の優勝戦線トレース(自分が描いたストーリーの確認作業)っちゅうところです。

 さてジュビロ対ガンバ・・。

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 アリャリャッ! 立ち上がり前半14分に、早々とジュビロがリードされてしまった・・。それにしても見事なガンバの先制ゴールじゃありませんか。演出したのは、ゲーム全般にわたってアクティブプレーを披露した遠藤保仁。

 その遠藤が、センターゾーンの二列目で横パスを受ける。遠藤は、その前の段階で、マグロンへタテパスを出し、すかさずパス&ムーブで二列目へ上がっていたのです。そんな彼のアクティブなリスクチャレンジマインドがガンバ攻撃を引っ張っていたといっても過言ではありません。

 さて横パスを受けた遠藤保仁。その瞬間、右サイドトップに張っていた吉原と最終勝負のイメージがシンクロする・・次の瞬間吉原が爆発した・・その弾丸スタートのタイミングも秀逸だった・・またそこでは、飛び出す吉原をマークしなければならなかったジヴコヴィッチが完全にボールウォッチャーになってしまったというマーキングミスもあったし、横にいた山西(?)のカバーリングが遅れた(マークの受けわたしが機能しなかった)ということもあった・・また遠藤からのラストスルーパスが、チェックにきたジュビロディフェンダーの「股間」を抜けるというシーンもあった・・もちろんそれは遠藤が意図するところだった・・等々、まあゴールが生まれるまでには、攻守にわたる様々なプレーが絡み合うという「5秒間のドラマ」があるっちゅうことです。

 さてゲームの流れ。たしかに全体的には(ホームの)ジュビロがボールをキープしてはいるものの、どうもうまくガンバ守備ブロックを崩していけない・・。対するガンバですが、私は、そのサッカーには吹っ切れた勢いがある・・というか、攻守にわたって、彼らのサッカーの質は決して悪くないと思っていました。まあ、優勝するためにはとにかく「行く」しかないというガンバだから、攻守にわたるリスクチャレンジ姿勢がより積極的になっているということなんでしょうネ。その絶対的なベースは、忠実でダイナミックな(クリエイティブな)中盤守備ということなんですが、そこで、遠藤保仁のプレーが目立っていたというわけです。彼は本当にいいですよ。目立つということは、常に勝負所に絡み(常に勝負所を狙っている!)、そしてディフェンス勝負シーンで良いプレーができているということです。もちろんそんな守備での好調プレーが、次の攻撃でポジティブに影響していることは言うまでもありません。だから彼が「起点」になった仕掛けが目立っていた・・。

 とはいっても(ガンバが一点リードしたにもかかわず!)全体的なゲームの流れは、一進一退という雰囲気で推移していました(まあ、ジュビロが攻めあぐんでいるという表現の方が適当かも・・)。それが、後半3分に西が退場になってから、それまで沈滞していた全体的なゲームエネルギーが急にはじけたのです。

 一点リードされている状況で、右サイドの「必殺仕掛け人」である西までも退場になってしまう・・。こうなったらジュビロも「仕掛けていく」しかない・・だからゲーム内容も大きく活性化していった・・といったところでした。

 そこで私は、好調なプレーを展開しつづけていたガンバの「反応」に目を凝らしていました。そして、「あっ・・やっぱりプレー姿勢が受け身になりはじめている・・」なんて感じていたのです。もちろん、ガンガン押し上げてくるジュビロに対し、まず守備ブロックを安定させるという守備重視イメージで臨むのは自然の流れですが、どうもガンバのプレー姿勢に、それ以上に「消極(受け身)マインド」が目立ちはじめたと感じたのです。明らかにそれは、次のカウンターをイメージしながら、相手の攻撃をしっかりと受け止めようという「積極的な安定マインド」とは違う。ガンバの選手たちが、「相手は一人足りなくなったから、楽に守りきれるだろう・・」っていう、イージーなマインドになったということです。それこそがワナなのに・・。

 私は、相手が一人足りなくなった(自チームが数的に優位になった)状態でのプレー姿勢に、そのチームの「体質的な側面」が見えてくると思っています。要は、その有利な状況が「よしチャンスだ・・ここから守備でも攻撃でも相手を凌駕するぞ!」という攻撃的なモティベーションアップにつながるのか、「これで余裕を持てるぞ・・落ち着いて安全プレーを心がけよう」という、どちらかというと後ろ向きの安定志向心理状態(余裕という落とし穴!)になるのか・・。サッカーでは、(受け身の)安定志向になった瞬間に、チーム全体のエネルギーが地に落ちてしまいますからネ。不確実性要素がてんこ盛りだからこそ、サッカーはホンモノの心理ゲーム・・。

 とにかく西が退場になってからのガンバは、安全・確実に守り切ろうとする「受け身の安定志向プレーイメージ」に引っ張られ、どんどんとダイナミズムを失っていきました。これでは、攻守にわたって選手たちの足が止まり気味になってしまうのも道理。「余裕」という落とし穴に完全にはまりこんでしまったガンバ・・。

 具体的な現象は、こんな感じですかネ。人数はいるけれど守りのイメージが明確ではないから(互いの守備プレーが有機的に連鎖しないことで相手を追い込めないから!)、どうしてもズルズルと下がって受け身の守備になってしまう・・またボールを奪い返しても、どのように展開し仕掛けていくのかというイメージを描写できないから(互いのイメージがうまくシンクロしないから)、どうしてもボールの動きが停滞してしてしまうことで、仕方なしの安全パスをカットされてしまうというシーンが続出してしまう・・そしてボールを奪い返しても、チームの前進エネルギーを増幅させることができずに心理的な悪魔のサイクルにはまり込んでしまう攻守に中途半端なガンバ・・ってな具合。とにかく、ジュビロの西が退場になってからのガンバのプレー姿勢(ダイナミズム)の後退は見所(学習コンテンツ)満載でした。

 そして抜け目のないジュビロが、そんなガンバの「心理的な虚」を巧みに突いてドラマチックな逆転劇を完成させてしまったというわけです。

 勝者のメンタリティー?! まあ、そういうことなんでしょう。「あの時点」からは完全に心理ゲームの様相を呈していましたから・・。とにかく抜け目のないジュビロが魅せた、見事なゲーム運びでした。

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 さて次に、それはそれはエキサイティングな仕掛け合いになったFC東京対ヴェルディーを短くまとめましょう。この試合を見にきた観客の皆さんは、本当に得をした・・。

 両チームともに「負けたり引き分けたら、その時点でシーズンが終わってしまう・・」ということで、ゲームの立ち上がりからギリギリの仕掛け合いを展開します。守備にしても、受け身に守るというのではなく、あくまでも、なるべく早く、高い位置でボールを奪い返そうという積極姿勢を前面に押し出すのです。そしてボールを奪い返したら、自分たちの持ち味を十分に出して仕掛けていく・・。「それこそ本来あるべきプロサッカーの姿だ!」なんて思っていましたよ。

 そんなエキサイティングな仕掛け合いなのですが、その内容には(傾向には)大きな違いがあります。例によって、活発にショート(安全)パスをつなぎながら相手守備を誘い出し、コンビネーションやドリブルを駆使した急激なテンポアップで中央スペースを(ペナルティーエリア幅の逆サイドスペースも含む?!)突いていくというイメージのヴェルディーに対し、FC東京は、これまた例によっての人数をかけたアクティブな守備(攻守の切り換えが抜群に早い忠実ディフェンス・・その守備意識こそが彼らの攻撃のイメージ基盤になっている!)から、ボールを奪い返したら、シンプルにサイドへ展開し、ドリブル勝負やコンビネーションを駆使してクロス攻撃をしかけていく・・。

 両チームともに、そんなチーム戦術の徹底度が群を抜いて高かったし、心理的な空白がほとんどなく、全員が常に自分主体でアクションをつづけていたから、攻めがうまく機能したということです。だから両チームともに多くのシュートチャンスを作り出した。まさに、両チームも持ち味がうまく発揮されたエキサイティングな仕掛け合い・・。

 それでも、両チームの仕掛けイメージを考えれば、シュートへ至るプロセスでの実効レベルではFC東京に軍配が上がるのは当然です。やはり主流は、サイド攻撃なのですよ。だから、現代サッカーでもっとも激しい攻防が繰りひろげられるのが「ペナルティーエリアの角ゾーン」というわけです。実際に、シュート数、枠内シュート数ともに、FC東京が完全に凌駕していました。枠内シュート数では、東京の「10本」に対し、ヴェルディーは「4本」。フムフム・・。

 とにかく特に後半にはいってからは、「どうしてゴールにならないのだろう・・」というシーンのオンパレードでした。それも両チームともに・・(もちろん東京の方が二倍以上の決定機があったわけですが・・)。そして時間だけが刻々と過ぎていきました。

 そんな展開ですからね、観ている方が「これはもうゴールは入らない・・」と思いはじめるのも道理ですよ。「サッカーの神様は、この試合をドローに決めた・・」ってな具合。それでもゴールが決まってしまうのです。それも二つも・・。

 先制ゴールは、まさに東京が意図するイメージ通りのクロス攻撃。後半30分のことです。左サイドでボールを持ち込んだケリーが、ファーサイドでフリーになっていた阿部にピタリと合うスーパークロスを送り込んだのです。とにかく素晴らしいヘディングゴールでした。私は、「これで決まったな・・」なんて思っていたわけですが、終了直前に、今度はヴェルディーが同点ゴールをたたき込んでしまうのですよ。これまたヴェルディーらしく、サイドを起点に中央ゾーンへ持ち込んだヴェルディーの飯尾が、振り向きざまの右足シュートを、東京ゴールの左隅へ打ち込んだゴール。フ〜〜ッ!!

 とにかく素晴らしくエキサイティングな一戦でした。それにしても、両チームとも、何本決定的チャンスを作り出し、そして外したんだろう・・。

 見終わってから、年間に一体何ゲーム、こんなハイテンションの(両チームともに全力を出し尽くした)エキサイティングゲームを観戦できるのだろう・・なんてことを考えていました。ヴェルディー選手たちのプレー姿勢にしても、このゲームに限っては、斜に構えるという雰囲気はあまり感じませんでしたしね。さて・・。

 



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