湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第11節(2003年10月26日、日曜日)

 

レッズは、たまに彼ら自身が魅せる「吹っ切れた覚醒サッカー」をもっと志向しなければ・・レッズ対レイソル(1-1)

 

レビュー
 
 キックオフの直前までマリノス対セレッソをテレビ観戦していました(前半終了まで)。佐藤由紀彦が退場になったマリノスに対し、大久保の二ゴールでセレッソが「2-1」とリードしているところまで確認してスタンドの記者席へ向かったという次第。

 気になる・・とにかくこれでレッズがトップに躍り出る可能性が出てきた・・相手はレイソルですしね(前節のヴェルディー戦での最低内容のゲームを見せられたことも、このニュアンスの背景にあり!)・・とはいっても、特に「J」の場合は、各チームのチカラの差なんてたかが知れているから(もちろん、昨年まで一クラスも二クラスも他チームのレベルから抜け出していたジュビロは別格!)、実際の試合の内容がどうなるかなんて誰にも分からないですけれどネ・・。

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 さて試合。

 予想されたとおり、立ち上がりの時間帯は「静的な拮抗状態」がつづきました。両チームともに守備ブロックを固めているし、攻めでリスクにチャレンジしないのだから、まあ当然の展開。レッズの場合は、「チーム&ゲーム戦術」としての守備ブロックの固定化という表現が適当でしょう。それ対してレイソルはゲーム戦術としての守備ブロック固め・・。

 レイソルは、中盤の底(守備的ハーフ)で、チームの重心として抜群のパフォーマンスを魅せつづける明神のパートナーとして、下平ではなく、萩村を入れました。要は、レッズの前の三人(山瀬、永井、エメルソン)に対して、よりタイトで確実なマンマークを付けるというゲーム戦術だということです(特に守備的ハーフにマンマーカータイプを入れたことの意図は明確・・)。

 レイソル首脳陣は、レッズの前の三人を抑えてしまえば、サイドバックを中心とする後方サポートもうまく機能しなくなるということを良く理解している・・?! まあ、そういうことでしょう。レッズの場合は、前でボールをしっかりとキープできたとき「だけ」(前線にボールが収まったことをしっかりと確認してから!)、サイドバックが前線へ絡んでいくという約束事がある・・?!

 まあ普通だったら、前が抑えられ気味になったら、後方からのバックアップを厚くすることで事態を打開していこうなんていうアイデアの広がりが見られるものですが、どうもレッズの場合は・・。何といってもレッズの場合は「前後分断の戦術偏重サッカー」ですから、どうも応用が効きにくいということなのでしょう。

 とはいっても、全体的なペースを掌握しているのはホームのレッズ。何度か決定的ゾーンへ進出するようなシーンを演出します。それでも、どうも最終勝負のパス精度や、ドリブル勝負に入っていく状況を好転させることがままならない。そんなでは、レイソルが敷く最後のディフェンスの壁を突き破れないのも道理です。

 それに対してレイソル。守備ブロックは、まあまあ上手く機能してはいるのですが、その後の攻めが、まったくといっていいほど実効レベルに達しない・・仕掛けの頻度自体が低いし、上がっていけても(人数をかけていないから)結局は単発で終わってしまう・・そう、前節のヴェルディー戦のように・・。

 それは、意を決したサポートの動きがほとんどないからに他なりません。前線でパスを受けても、誰もスペースへ上がっていかないから厚い攻撃を仕掛けていけずに簡単にボールを卯はなってしまうのです。リカルジーニョとかジュシエはどうしたんでしょう。前線で「起点」になれる選手がいないから押し上げにも勢いが乗ってこないというネガティブ・サイクルの原因は明白なのに・・。

 まあ前半はこんな感じで変化なく終わるんだろうな・・そう、いつものように・・なんて思っていたら、まさに唐突に決定的チャンスが作り出されました。レッズの核弾頭、エメルソン。そのとき息を呑みました。

 それは、まさに「レッズのツボ」とでもいえるような絶対的チャンス。エメルソンが右サイドを抜け出し、まさに「ツボ」のシュート体勢に入ったのです。でもシュートは僅かにポスト左側を外れてしまって・・。

 私は、その唐突チャンスを見ながら思ったものです。「そう・・これだよな・・ハンス・オフトがイメージしているゲーム展開は・・我慢と忍耐の先には、エメや田中(永井)のゴールによる勝利の美酒が待っている・・でも、そんな(イタリア的な)ツボをイメージしたサッカーばかりをやっていたら、チームとしての(また選手個々の)大きな発展は望めない・・だから、エメルソンのビッグチャンスは、それがまさに諸刃の剣だということを象徴していたと言えるのかも・・あれがあるから、チームとしての攻めが活性化しない・・選手たちも本物のブレイクスルーを達成できない・・まあそれでもレッズは、勝負強さだけは着実にアップさせているわけだからな・・」。

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 それでもこのところ、部分的にではありますが、レッズ選手たちが(チームとしてのレッズが)心理的に「解放」されたダイナミックサッカーを展開するというシーンが増えているのも確かなことです。でもそのためには、何か大きな「刺激」が必要なのかもしれない。例えば味方が退場させられて数的に不利な状態で戦わなければならなくなったり、相手にリードされ、もう点を取りに行くしかなくなったり・・。

 そのような厳しい状況に陥ったとき、レッズ選手たちは、がんじがらめの戦術的な約束事から徐々に解放されていく?! 要は、もう「やるっきゃない!」という吹っ切れざるを得ない状況に陥ったときのことです。そうなったときの(解放された)レッズは、それはそれは素晴らしくダイナミックなサッカーを展開するのですよ。例えば前節のFC東京戦では、後半の半ばを過ぎてから、覚醒したかのようにサッカー内容がブレイクしていったわけですが、そこでは後半早々に奪われた同点ゴールが大きな刺激になったというわけです。

 ということで、何らかの刺激によって解放されたときの「レッズの覚醒サッカー」は見所豊富なのですが、そのバックボーンが、全員に深く浸透した「本物の守備意識」だという事実を見逃してはいけません。いつも書いているように、それこそが、ハンス・オフトが為した最高の成果だと思うのですよ。もちろん、イタリア的ともいえる「勝負至上チーム戦術の徹底」が、これからどのような展開をみせていくのかというテーマについては、来週月曜日におこなわれる一発勝負のナビスコ決勝のゲーム内容も含めて、注意深く観察していかなければなりませんがネ。

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 さて後半の展開ですが、そこでもゲームは、前半に輪をかけた拮抗という雰囲気で推移します。

 そのなかでレイソルが、攻めの勢いを加速させていきました。徐々にチャンスを作り出せるようになっていったのです。たしかに、「中盤の底」によるゲームメイキングがうまく機能していないから(組み立てでも仕掛けでもタテにうまくボールが動かないから)どうしてもギゴチナイ感じの仕掛けになってしまうけれど、ベテランの加藤が交代出場してからの10分間は、攻め全体のダイナミズム(ボールと人の動きの活性化・・積極的な仕掛けマインド)が明確にアップしたと感じました。やはりサッカーは心理ゲームなのです。

 対するレッズですが、前半と同様に、どうも仕掛けが「単発・散発」という印象がぬぐえない。攻めでの「組織プレー」が十分ではないのです。要は、パスを回してボールを動かすために必要な後方からの押し上げ(攻めにかける人数)が足りない・・またボールがないところでの縦方向への仕掛けが消極的だから、タテのポジションチェンジも出てこない・・だから「変化に富んだ厚い攻め」を仕掛けていけない・・レイソル守備ブロックにしても、常に「前を向いて」、余裕をもって対処することができる・・ということです。この時間帯のレッズは、確実に、前述の「何らかの刺激」を必要としていたというわけです。でも、選手交代(永井と千島、山瀬と長谷部)にして、思ったほどの刺激にならないから、「吹っ切れた覚醒サッカー」も出てこない・・。

 ここまで見ていて、「田中達也の出場停止は本当に痛い・・」なんて思っていました。完璧な「ブレイクスルー」を果たした田中達也。その単独ドリブル勝負の危険度は天井知らずといった具合なのです。だから、「そこ」をケアーすることに意識を取られた相手守備ブロックの全体的な組織バランスをも崩すことができる。田中のドリブル勝負は、自身がシュートに入るだけではなく、決定的なクロスやスルーパスのキッカケになる状況も演出してしまいますからね。相手守備ブロックにとっては、エメルソンだけに集中できないという厄介なことになるわけです。頼もしいことこの上ない小兵ドリブラー。彼の場合は、チームが覚醒サッカー状態に入ったとしても、その流れに乗って実効レベルをアップさせてしまいますからネ。組織プレーでも、個人勝負でも・・。そんな田中の不在が本当に痛い・・なんて思っていた湯浅だったのです。

 それでもレッズは、最後の5分間、レイソルを押し込みつづけてチャンスを作り出します。何度もレイソルを、ゴール前に釘付け状態にするレッズ。でも私は、「これは、本物の覚醒サッカーじゃないな・・」って思っていました。

 たしかに全体的に押し上げ、こぼれ球もどんどんと拾いつづけるという圧倒的なペースに持ち込んではいるけれど、どうも二列目ラインと最前線ラインの選手たちが、「その二つのラインを維持しながら」パスを待つという態度で「構えて」しまっているから、相手守備ブロックを振り回すような決定的なボールの動きを演出できない・・だから、決定的なチャンスを作り出すところまではいけない・・。

 二列目の鈴木にしても内舘にしても、はたまた両サイドの山田や平川にしても、ボールがないところでタテの決定的スペースへ抜け出さず、互いの基本的なポジショニングバランスを維持しながら足許パス(横パス)を待つという姿勢なのです。これでは、「前向きで対処できる」レイソル守備ブロックを振り回せるはずがない。

 相手守備ブロックを振り回すことができるような「攻撃の変化」の演出は、ボールがないところでの勝負の動きとボールの動きが連動するコンビネーションが主体にならなければいけません(組織プレーが、攻撃の変化を演出するメインツール!)。それに対してレッズ選手たちは、ドリブルやタメなどの「個の勝負」による変化の演出を期待する姿勢がアリアリと感じられたというわけです。たしかに、エメルソンだけではなく、サイドからの山田や平川のドリブル勝負は効果的ですが、それだけでは・・。

 「スリーライン」という前後のポジショニングバランス維持に対する意識付けが強すぎるから、あんな危急状況でもタテのポジションチェンジが出てこなかった?! まあ・・そういうことなのかもしれません。それでも、本物の覚醒サッカー状態に入ったら、タテのポジションチェンジも含め、まさに攻撃の変化のオンパレードという状態になるから、一概にそうとも言えないと思ったりするのですがネ・・。

 まあそのポイントも含め、とにかくナビスコ決勝に注目しましょう。

 



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