湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第4節(2003年4月20日、日曜日)

大分トリニータもいいチームですよ・・マリノス対トリニータ(1-0)

レビュー

 いや、本当にいいですよ、トリニータは。

 何がいいかって? もちろん中盤ディフェンス・・というか、全員の守備意識がハイレベルに安定していると表現した方がいいでしょう。相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する忠実で素早いチェック。それも、可能ならば、前線から戻った選手もプレスを狙っている。また、次、その次と、ディフェンスの網を縮めていき、マリノスの仕掛けの芽を早い段階で摘み取ってしまう。もちろんボールがないところでの忠実マークは言わずもがな。そんなプレーが、有機的に連鎖するのです。大分、小林監督の優れた「ウデ」を感じます。

 逆にマリノスは、相手を甘く見てグラウンドに出てきたという印象が残ります。そのイージーな姿勢もまた、中盤ディフェンス(守備意識のレベル)に如実に現れてくるというわけです。だからゲーム立ち上がりでトリニータがペースを握ったのも道理でした。

 1本、2本と大きなチャンスを作り出すトリニータ。ただ、そんなピンチが刺激になったマリノスも覚醒しはじめ、ペースを上げていく・・それでも、有機的なプレー連鎖の集合体であるサッカーでは、立ち上がりの気抜けマインドを、チーム全体に改善させるのには時間がかかる・・だから、攻守にわたって、どうも互いのイメージがうまく連鎖しない中途半端なプレーに終始してしまう・・逆にトリニータは、シンプルにパスをつなぎながら、ボールがないところでの動きを効果的に活用する・・そんなプレーリズムもまた、選手たちのイメージのなかで有機的に連鎖している・・。

 後半も、そんなペースで試合がはじまります。まあ互角。それでも徐々に、マリノスの攻守にわたるプレーが噛み合い、ゲームを支配しはじめます。それでもトリニータが展開する、中盤ラインと最終ラインがイメージの糸でむすばれているような連鎖ディフェンスは衰えず、マリノスの「タテ志向」の攻めをギリギリのところで受け止めつづけます。

 マリノスの、強化されたタテへの意識ですが、徐々にそのなかにも、展開パスに対する意識もミックスされるようになっていると感じます。タテへ、タテへ・・では、その単調なリズムを相手ディフェンスに読まれてしまいますからネ。そこに、イメージ的なクッションとなる横パスなどが入ることで、彼らのタテへの勢いに変化を演出することができるというわけです。もちろん、そんな展開パスをミックスするようになったことで、昨年のような無為なポゼッションサッカーのイメージに逆戻りしてしまっては元も子もないのですが、いまのマリノスでは、岡田武史という強い歯止めが効いていますからね。

 その歯止めは、特に奥のプレー姿勢に大きな変化をもたらしているようです。先日の日本代表の試合でも、攻守にわたって良い仕事をしていました。キャプテンマークを巻き、イメチェンを果たしつつある奥。やはり、サッカー選手が発展するための究極のベースは、身体や技術、はたまた戦術的な能力ではなく、意識ということです。

 この試合唯一のゴールは、後半21分。フリーキックから、中澤がヘッドで決めました。それは、それは凄いヘディングシュートでしたよ。まさに、身体中で粘り切ったヘッド。体勢的には追いつかないボールに対し(良い体勢で、ボールを正面で捉えられない)、身体を伸ばし切るだけではなく、その身体全体をボールの軌道に合わせるように空中で「運んで」何とかリーチし、なおかつキッチリとヘディングでシュートを決める。いや、脱帽です。

 後半残りの20分間は、完全にマリノスのペースになっていきます。とはいっても、大分が心理的な悪魔のサイクルに落ち込んでしまうようなことはありません。そんな積極マインドは、多くの選手が攻め上がっていく途中、変なカタチでボールを奪い返されてピンチを迎えても変わらない(そんな状況で危険なカウンターを食らったら、どうしても選手たちのマインドが受け身方向へ振れてしまうものなのですが・・)。最後までチャレンジをつづけ、チャンスの芽を作り出すトリニータ。そんな積極サッカーにシンパシーを感じていた湯浅なのですが、ただどうも、チャンスになったときの勝負パスの正確性がいただけない。

 最終勝負を仕掛けていく状況。そこでの、クロスやスルーパスなど、勝負パスの精度に(いろいろな種類のキックの内容に)マリノスとの差が見え隠れするのです。まあこれは技術的な課題ですから、反復トレーニングで解決していくしかありません。「単体テクニック」としてのキックを向上させるためには、シンプルな形式の練習をくり返すのが、もっとも効果的なのです。まあ、そこでの雰囲気が単調なものになってしまい、選手たちのモティベーションが下がり気味になってしまうのは世界共通なのですが、だからこそ監督・コーチのウデが試されるというわけです。目的・目標意識(イメージ)の高揚・・。

 とにかく、攻守にわたって高質なプレーを展開した梅田や、どんな相手に対しても、最前線で起点を作り出せるチカラを感じさせた高松など、「良い選手」を擁する大分トリニータ。今後も注目していきましょう。



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