湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第4節(2003年4月19日、土曜日)

二試合目のゲーム内容に勇気づけられました・・レッズ対パープルサンガ(2-0)&FC東京対グランパス(1-1)

レビュー

 鉄は熱いうちに打て・・。でも、熱くない鉄は、やっぱり打てない!

 ということで、単車で移動すれば鉄が加熱されるかもしれないと、駒場から、次の会場の「味の素スタジアム」へスタートした湯浅だったのです。ところが、ものすごく混んでいる首都高速道路。もちろんクルマの間をすり抜けていくのですが、それでも気を遣ってしまうから、どうも「加熱」が進まない・・。そのうちに、あのゲーム内容じゃ仕方ない・・という結論に達した次第。

 サッカーマガジンによれば、レッズ選手たちが「規範を超えるぞ・・」なんていうニュアンスの発言をしていたとか。「第一節のアントラーズ戦で、エメルソンが交代になった後に展開したサッカーのイメージをもう一度・・」ということらしいのですが、でも結局は・・。

 開始0分でのエメルソンの先制スーパーゴールはレベルを超えていました。もちろん、その直前に「2対1」の状況から置き去りにされたパープル守備陣は反省しなければいけませんがね。2対1なのだから、一人がちょっと仕掛け、エメルソンのボールコントロールが乱れたところをもう一人がかっさらうのが常道なのに、実際には、エメルソンをチェックしたパープルの二人のディフェンダーは、単に様子見で(どちらも仕掛けていかずに)付いていくだけ。まあキックオフ直後ということで、慎重にというマインドだったんでしょうがね・・。彼らの経験不足を露呈した瞬間でした。まあその後は、かなりうまくエメルソンを抑えてはいましたが・・。

 それにしてもエメルソンは凄いね。チェックにきたパープルの二人が間合いを詰めてこなかったことで、ちょっとタメ、そして勝負のカット(切り返し)からドリブルで突破し、目の覚めるようなキャノンシュートを決めてしまったのですから。まさに、「レッズが抱える諸刃の剣」。あんなシーンを見せつけられたら、周りの味方は、彼がホールを持ったら「どうぞ・・」っちゅうことになってしまう。でも大局的に見たら、スペースへのサポートの勢いが殺がれてしまうなど、それが選手たちの「仕掛けマインド」にとってマイナス要因になってしまうことも確かな事実です。だから、エメルソンという天賦の才は、レッズにとっての諸刃の剣というわけです。もちろんその背景には、ハンス・オフトの指示もあるんでしょうがネ。

 エメルソンにしても、その後の展開のように、ほとんどチャンスを作り出せない(得意のカタチでボールを持てない)のではフラストレーションがたまるでしょう。もっと味方のサポートを活用することで(周りも、サポートの動きをベースにした活発なボールの動きをイメージすることで)、エメルソンの才能が何倍も活かされるのに・・。まあそれも、チーム戦術なのだから仕方ない。「ヤツがボールをもったら邪魔するな・・」。

 「チーム戦術を超えたプレーをしたい・・」というレッズ選手たちの決意は、結局この試合でもまったく感じられませんでした。あっと・・、クリエイティブなルール(チーム&ゲーム戦術)破りの意味は、監督が決めるゲーム&チーム戦術を「基本的には」守りながらも(その仕事をこなしながらも)、意識は、常に「次のリスクチャレンジのチャンス」を狙いつづけている・・ということです。でもレッズ選手たちの意識は、次のマンマークばかりに吸い寄せられてしまっていた?!

 後半の12分に挙げたレッズ追加ゴールも、右サイドからのエメルソンのドリブル突破がキッカケになりました。エメルソンからのクロスは逆サイドまで飛んでしまったのですが、それを相手との競り合い勝って奪った長谷部から、ベストタイミングで押し上げた鈴木啓太にピタリと合うファウンデーションパスが送り込まれたのです。二列目スペースからの素晴らしい中距離シュートが見事に決まったという追加ゴール。この試合での鈴木啓太は、二本のシュートを打ちました。前の三人以外の選手がシュートを放ったのは、セットプレーで上がってきた室井のヘディングだけですから、この鈴木のシュート二本というのは、攻撃イメージの広がりという意味で今後につながるかも・・。

 まあ、内容的には何も変わらない(変われない?!)レッズでしたが、勝ち点「3」をゲットしたことだけはポジティブ。その「心理的な余裕」が次の発展プロセス(柔軟でクリエイティブなルール破り)のキッカケになれば・・なんてことを思っていた湯浅でした。何といってもこのままでは、選手たちのプレーイメージがマイナス方向へ振れてしまう可能性の方が大きいですからね。

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 さてパープルサンガ。例によって、ハイレベルな連鎖サッカーを展開していました。全体的なサッカーの内容では、完全にレッズを凌駕していた。ゲルト・エンゲルスは、本当に良い仕事をしています。それでもこの試合では、エースの黒部が欠場。その「穴」が、殊の外大きかった。代わりに出場したのは田原だったのですが、もう完全に「最前線のフタ」になってしまって・・。

 レアル・マドリーの場合は、ロナウドのフタが開きはじめていますし、彼の単独ドリブル勝負はレベルを超えていますから、この試合での田原のプレーに同じ比喩を使うのは気が引けるんですがネ。

 前半は、まったくといっていいほどチャンスを作り出せないパープルサンガでしたが、後半になって「フタ」がいなくなってからは、勢いが倍加していきました。とはいっても、そこはレッズのオールコートマンマーク守備。おいそれとは突破できない(ボールがないところで相手マークを振り切れない・・振り切っても、そこにタイミングのよいパスが送られてこない)。それでも、特に松井は存在感を主張していましたよ。オールコートでマンマークに付いたのが、「あの」坪井でしたからね。そのハードマークを受け止めながら、何度かチャンスメイクの起点になったし、自身も惜しいシュートを放ちました。

 この試合では、鈴木慎吾と山田暢久が対決したのですが、やはり山田の方が一枚上手だとせざるを得ないようです。でも逆に山田も、攻撃で決定的な仕事はできませんでしたが・・。まあ、ボールがないところでダッシュしてもパスがこないから、結局は詰まった状態でのドリブル勝負しかないという例によってのパターンでしたから・・。

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 さて、FC東京vs名古屋グランパスエイト。

 これぞサッカー!! 試合を見はじめてすぐに感じましたよ。タテのポジションチェンジや活発なボールの動きなど、両チームともに仕掛け合うエキサイティングマッチになったのです。両チームともに、最後は自由にプレーせざるを得ないというコンセプトを基盤にした自分主体のダイナミックサッカーを展開しているということです。

 守備は、フォーバック(FC東京)とスリーバック(グランパス)ですが、東京の場合、浅利が、どちらかといえば前気味のスイーパーとして機能していますから、まあイメージとして似通っている・・。とにかくデイフェンスの基本的なやりかた(発想)は、両チームともにアクティブそのものです。

 もちろんポジショニングバランス・オリエンテッド守備。そして、その時点で参加できる者は、例外なくボール奪取アクションに絡んでいくのです。相手にボールを奪われた次の瞬間にはディフェンスに転じ、臨機応変にポジショニングをとって互いのバランスを取ります。そしてそれをベースに、相手ボールホルダーのプレー(ボールの動き)を正確に判断したポジショニングバランスのブレイク(マンマークへの移行)や協力プレスを仕掛けていく。何度も、二列目から飛び出していく相手を、その時点で担当する選手がキッチリとマークをつづけるシーンを目撃しました。当たり前ではあります。でも、そんな自分主体の忠実プレーに対する自分主体のマインドが、チーム全体に浸透しているプレーを見るのは心地よいものです。

 それこそが「考えつづけるディフェンス」であり、選手のプレーイメージを発展させるチーム守備戦術だというわけです。もちろん(読みが外れた)ミスはあるし、たまにはウラを取られたりする。それでも、選手たち自身が、自分主体の判断で仲間のミスをどんどんとバックアップしてしまう。いや、見ていてホッとさせられたものです。

 また攻撃でも、両チームともに「行き」ます。ハイレベルな発想に裏打ちされた組織ディフェンスを崩していこうとするリスクチャレンジのオンパレード。またまた、ホッ・・。

 まあ、全体的な攻撃の内容では、東京に分がありますかね。ケリー、石川といった爆発力のある選手を擁していますからね。もちろんグランパスのウェズレイやヴァスティッチ、はたまた藤本もいいのですが、どうも、「個のダイナミズム」では東京に分があると感じるのですよ。それが、ケリーや石川に代表されるドリブル突破や、アマラオをポストにしたコンビネーションベースなど、仕掛けの質の差となって現れている・・。(前半に限れば!)個のチカラで優っていると感じさせるFC東京。また彼らには、高質にイメージがシンクロしたカウンターという武器もありますからネ。

 総合力が同等のチーム同士の対戦では、最後の決定的な仕事の「質(実効レベル)」を決めるのは、やはり「個のクオリティー」・・というわけです。

 先制ゴールは前半36分。石川が爆発しました。右サイドでボールをもった石川。この状況で、彼の前にある右サイドの決定的スペースへ向けてケリーが決定的フリーランニングを仕掛けます。そのことで、ボールを持つ石川と正対していた古賀が引き寄せられる。

 ただ石川は、ケリーへパスを出すのではなく(オフサイドになると判断した?!)瞬間的に中央ゾーンへ切り返し、アタックにきたパナディッチをものともせずにドリブルで突き進んでキャノンシュートを放ったというわけです。GKの正面でしたが、ドロップするシュートに楢崎が届かず、バーを直撃したボールが、楢崎に当たってゴールへと吸いこまれていったという素晴らしい先制ゴールでした。

 さて後半。もちろんグランパスが攻め上がり、FC東京がカウンターをイメージするという展開になります。ゲームの流れとしては、FC東京の「オハコ」じゃありませんか。さて・・なんて思っていたら、グランパスの勢いの増幅レベルは想像を超えていました。藤本、ウェズレイ、はたまた酒井と交代した原竜太たちの爆発力も倍増してしまって。そして東京が、その勢いに呑み込まれはじめてしまう・・。

 そしてやりました。グランパスの中村直志。この試合でも守備的ハーフとして抜群の貢献度を魅せていた中村が(中盤での忠実チェックやいんーせぷとだけではなく、何度、ボールがないところでの忠実マークを目撃したことか!)、相手のクリアボールを拾って右足一閃。20メートルはありましたかね、打たれたボールは、見事に、東京ゴールの右上角へ飛び込んでいきました。

 1-1。そしてゲームは、どんどんとヒートアップしていく。本当に来てよかった。玄人好みの応援合戦も素晴らしかったですよ。何度、「隠れたファインプレー」に対する声援を聞いたことか。観客の皆さんもまた、このエキサイティングゲームを心から楽しんでいたということです。あ〜〜、面白かった。



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