湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第10節(2003年5月25日、日曜日)

レッズ選手たちのプレー姿勢に、明確な「変化の兆し」が・・マリノス対レッズ(0-1)

レビュー

 とっても退屈だった前半・・ゴールだけではなく、退場やケガなども含めてエキサイティングに変容した後半・・ってなゲーム展開でしたかネ。昨夜はあまり寝ていなかったもので、特に前半は、どうもアクビが・・。まあそれは、両チームともに守備ブロックを固めていたことで、攻撃に目立った変化が出てこなかったからでしょう。

 とはいっても、そんな前半でもチャンスはありました。まあ、回数と、チャンスが内包する「必然性」では、やはりマリノスに軍配が上がります。必然性・・それは、何といっても、後方からのサポートの動きがチャンスメイク(変化の演出)のコアになっていたことです。特に、守備的ハーフの遠藤が最前線を追い越していったらチャンスになる。松田も、最後方からタイミングのよい押し上げていく。もちろん彼が押し上げられるは、那須が忠実にカバーリングに入るからです。前半18分には、この松田&遠藤コンビが決定的チャンスを作り出します。後方から上げられたロングパスをヘディングで落とす松田。そのスペースには、まさに影武者という動きで遠藤がオーバーラップしてきていたというわけです。遠藤のダイレクトシュートは、キチンとヒットしませんでしたが、まさに「必然のチャンスメイク」でした。

 また前半28分には、誰にも気付かれずに(マンマークのレッズだからこその「穴」?!)最前線スペースへ飛び出した那須へのタテパスが決まり、まったくフリーになった那須から、清水へのラストパスが入る・・という決定的シーンもありました(惜しくも清水に合わず!)。要は、攻撃の変化を演出するためにもっとも重要なファクターがタテのポジションチェンジ(二人目、三人目の決定的フリーランニング!)ということです。意図のある仕掛け。だからこその「必然」のチャンスメイク。

 マリノスの前半は、たしかに内容ではレッズを上回っていました。それでも、全体的にはソリッドなゲームを展開しているにしても、後方からの押し上げに勢いが乗ってこないなど、どうも「必然パワー」が増幅していかない。その背景には、出場停止のドゥトラの不在と、攻撃のコアである奥が、鈴木啓太に抑え込まれていたことも含む、レッズの忠実なマンマーク戦術がありました。

 対するレッズ。ここのところレポートは書いていませんでしたが、彼らの試合はしっかりと観ていますよ。そして思っていました。山瀬がチームに組み込まれてから(出場回数ではなく、あくまでも戦術的な機能性の向上≒選手同士のプレーイメージシンクロレベルの高揚という意味でのチームへのインテグレート!)、ヤツらの攻めにも変化の兆しが感じられるようになっている・・。ゲームの立ち上がりでは、その変化が目立つことはありませんでしたが、前半も押し詰まった頃からは、徐々に目に見えてくるようになります。

 もちろん守備のやり方はまったく変わっていませんし、「前後分断オフェンス」の傾向もそのまま。ただ、仕掛けプロセスでのボールの動きが、徐々に活性化する傾向にある・・つまり、ボールがないところでの選手たちの動きも活性化している・・と感じられるのです。

 これまでのレッズの仕掛けは、ドリブル勝負しかありませんでしたからね。エメルソンが・・永井が・・。とにかくボールをもったら、相手守備ブロックの状況とは関係なく、とにかくタテへ、タテへとドリブル勝負を仕掛けていくばかり。ヨコや後ろにフリーな味方がバックアップに入っているのに・・。

 そこなんですよ、彼らの攻めの限界は(たしかにツボにはまったエメルソンは凄いけれど・・だから、いつも「諸刃の剣」と書いている!)。何といっても、そのような攻め方では、相手守備ブロックが、レッズが繰り出す前への勢いを「正面」から受け止められますからネ。その背景に、後方の選手たちが「ボールを追い越していかない」という約束事があるのは言うまでもありません(次の守備でのバランスを崩したくないというハンス・オフトのこだわり?!)。だから、タテのポジションチェンジ(二人目・三人目のオーバーラップ)が出てこない・・相手守備にとっては、「個の才能ベースの勝負」しかないから怖くない・・もちろん「諸刃の剣」の仕掛けは脅威だけれど・・。

 そんなレッズの攻め(仕掛け段階の展開)に変化の兆しが見えてきたのです。「山瀬効果」とでも表現しましょう。積極的で実効あるディフェンス。ボールがないところでの大きな動きと、シンプルなボール扱い(素早いタイミングでのパス回し)をベースにした組み立てアイデア。そんな山瀬のセンスが、周りの選手たちの仕掛けイメージを広げているということです。特に、エメルソンに対しては、大きな影響力をもっている?!(ブラジル留学の経験からポルトガル語が堪能な山瀬・・エメルソンと同年代・・それに、エメルソンも、山瀬の上手さに一目置き信頼している?!)。組み立て段階におけるエメルソンのプレーが、ものすごくシンプルになっていると感じるのです。あんなに素早いタイミングでボールを離すプレーは、あまりお目にかかれない。だからこそ、エメルソンの「危険度」も格段に向上している。なにせ、あの「諸刃の剣」のプレーに、変化という武器が加わってきたのですからネ。シンプルに展開パスを回して次のスペースへ動き、そこで仕掛けのパスを受ける。そんな「ワンクッション」をおいた仕掛けプロセスだからこそ、相手守備が薄い(カバーリング人数が足りない)ゾーンでボールを持つことができるなど、「もっと良いカタチ」でドリブル勝負に入れるというわけです。決勝ゴール場面でのドリブル突破は、まさに「世界」でした。エメにしても、プレーが楽しくて仕方ないに違いない・・。

 また、山瀬効果は、エメルソンだけではなく、鈴木啓太を筆頭にした「後方選手たち」にも及んでいると感じます。ハンス・オフトの指示を「超越」することへのチャレンジ・・。私はソレを「クリエイティブなルール破り」と呼びます。それこそが、コーチのもっとも重要なタスクなのです。チーム&ゲーム戦術という決まり事をこなすのは単なるベースにしか過ぎない・・それを、選手たちが自分主体で「超越」するようにモティベートすることもコーチの重要な仕事なのです(リスクチャレンジへのモティベーション!)。もちろん、最前線を「追い越す」ようなサポートプレーは、まだまだ多くはありませんが、その姿勢が活性化してきているのを明確に感じるのですよ。これは相手にとって脅威です。それまでの「レッズの仕掛けに対するイメージ」を根本からあらためなければなりませんからね。

 鈴木啓太は、U22で、クラブでのフラストレーションを発散させた(そこで、良いプレーに対するイメージを醸成させた)?! この試合でも、マリノスのキャプテン奥をほぼ完璧に封じただけではなく、タイミングのよい押し上げを魅せていましたよ。まあ、最前線を追い越したのは数える程度でしたし、彼がマークする奥が下がり気味にプレーする時間帯が多かったこともありますがね。

 とにかく、レッズ選手たちのプレーマインドに、「ハンスを超えろ!」という姿勢が明確に見えてきたことは嬉しい限りです。ちなみに、この試合でのシュートですが、エメルソンの「5本」は言わずもがなとして、それ以外でも、山瀬(4本)、平川(4本)や鈴木啓太(2本)、はたまた山田(2本)といったところが積極的にシュートを打っている現象が、「変化の兆しの証明」だったと思っている湯浅でした。もちろん、中距離シュートだけではなく、決定的スペースへ入り込んでのシュートも目立っていましたしね。

 さてこれから、前に告知した「座談会」へ行かなければなりません。ということで、それ以外のポイントや、マリノスに関するコメントなどは、(できれば)後ほど付け加えたいと思っていますので・・。



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