湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第9節(2002年10月20日、日曜日)

高質サッカーで凌駕したとはいえ、結果的には「粘勝」だったジュビロ・・(ベガルタ対ジュビロ=2-3、延長Vゴール!)

レビュー

 久しぶりに、高質なプレーイメージが有機的に連鎖するジュビロのサッカーをみせてもらいました。いや、堪能です。ゲーム自体も、エキサイティングな展開でしたからね(二度追いつき、最後は延長Vゴールで勝利をおさめたジュビロ!)。

 忠実なディフェンスをベースに鋭いカウンターを繰り出し、二度もリードを奪ったベガルタ。彼らも、タイミングのよい選手交代で、勝負所の時間帯でペースを奪うなど、立派なゲームを展開しました。それでも最後は「実力」で押し切られてしまって・・。

 さて、ジュビロが魅せつづける爽快なボールの動き。「アソコへボールが通ればチャンス・・」というシーンで、例外なく「ソコへ」パスが回ってくるんですよ。その「球出し」には、少しの躊躇もありません。こちらがイメージした通りのタイミングとコースに、どんどんとボールが動きつづけるのです。爽快! もちろんパスレシーバーたちも、明確なイメージをもって、そのスペースへ入り込んでいる・・。

 彼らが展開するサッカーでは、組み立てのボールの動きと、仕掛けのボールの動きが、素晴らしいメリハリの効いたハーモニーを奏でます。組み立て段階では「足許への鋭いパス」が主体ですが、とにかく一人がボールをもってからパスを出すまでのタイミングが素早い(ワントラップ&パスや、ダイレクトパス!)。それは、パスを受ける前から、「次の展開」をクリアにイメージしていることの証です。

 もちろん「仕掛け段階」でもまた、勝負所に対する、全員共通のイメージを感じます。ラストパス(クロス)を送りこむ状況の演出や、シュートスポットに対する明確なイメージ・・それです。

 例えばこんなシーン。中央ゾーンでの、藤田、名波、グラウが絡んだ「タテのパス交換」。そして最後は、まるで「最初から、その勝負スポット」をイメージしていたかのようなタテパスが、左サイドでまったくフリーになった中山ゴンへ通される。素晴らしいの一言じゃありませんか。

 これは、前半の20分あたりでジュビロが作り出した決定的シーンでしたが、ベガルタの守備ブロックは、「前後」に動きつづけた三本の「タテパス」によって、完全に視線(意識)とアクションをフリーズさせられていました。もちろん中山は、そんなベガルタ守備陣の「反応」を予測していたかのように、「スススッ」と、左サイドスペースへのクレバーな動きを魅せていました。タテパスを交換していたジュビロ選手たちも、(その最中から)そんな中山の動きを明確にイメージしていた!? そして最後は藤田から、当然のごとく、中山へのラストパスが通されたというわけです。まるで、タテパスの交換がはじまる「前」から、そのラストパスを明確にアタマに描かれていたかのように・・。

 また「こんな」シーンも続出していました。セットプレーからの、ベガルタゴール前での競り合い。そこで、中央ゾーンの後方へ「こぼれた」ボールが、サイドでフリーになっていた味方へダイレクトで回される。そんな「セカンドチャンスの演出シーン」を何度目撃したことか。フムフム・・。

 組み立て段階は別にして、仕掛けに入ったときのジュビロ選手たちは、「二人目」が、確実に「三人目の動き」を意識しながらパスレシーバーになる等、明確な仕掛けイメージを実際にグラウンド上で現出させるために、ものすごい集中力を発揮しつづけます。

 一つの「勝負のコンビネーション・ユニット」がはじまるとき(一度ボールの動きが落ち着き、ある程度フリーでボールをもつ「起点」ができたとき)、そこからのパスレシーバーが、常に、その次でパスレシーバー(ラストパスの出所やシューター)になる味方(=三人目)を明確にイメージしているということです。だからこそ、その「仕掛けユニット」がはじまりそうになれば、常に、目立ちにくい「三人目」もフリーランニングをスタートしている・・。

 例えば・・。

 中央ゾーンで藤田がボールを持って「起点」になる。そのとき右サイドの西が、タテのスペースへ走り上がる。同時に、同サイドの後方から、川口「も」スタートを切っている。そして藤田から、測ったように正確なパスが、西へ飛び、パスを受けた西は、迷わず、チョン!という正確な「落としのパス」を川口へ。そしてそこから(川口から)、ダイレクトのラストクロスが、「事前にイメージ」されている最終勝負スポットへ向けて送り込まれる。もちろんそこには中山ゴンが走り込んでいる。いや、素晴らしい。

 こんな「感じ」で、試合終了直前、立てつづけに飛び出した中山ゴンと福西の完璧フリーヘディングシュート。「どうして入らないの??」というチャンスだったのですが・・。とにかくジュビロの場合は、チャンスメイクではリーグ随一。でもそれをゴールに結びつけるという「理論を超越した部分」では、何らかの問題を抱えている!? なんてことを思っていました。

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 この試合では、ジュビロの点取り屋(単独ドリブル勝負という、組織プレーには欠かせない個のスパイスの担い手!)である高原が出場停止。代わりにグラウが先発です。まあ、彼の実力からすれば全力を尽くしたパフォーマンスではありましたが、「今の」高原とは比べものにならない・・。また名波のパフォーマンスも、ちょっと低落気味。まあ名波の場合は、中盤でバランスを執るという基本イメージでプレーしていたのでしょうが・・。

 そんなスターティングメンバーでしたが、試合が佳境に入ったところで、名波、グラウ、河村に代わって、金沢、西、川口がグラウンドに登場します。そのとき私は、ミッドフィールドのプレーイメージが微妙にズレてしまうかも・・なんて危惧したものです。でもそれは完全に杞憂。一度落ちかけたジュビロのボールの動きが、その交代によってダイナミズムを取り戻したのです。それこそ、攻守にわたる「プレーイメージ」が、チーム全体にしっかりと根を下ろし、浸透していることの明確な証でした。

 これで、レッズが首位を堅持し、つづいてジュビロ、ヴェルディー等が僅差でつづきます。さて、セカンドステージでの優勝争いが最高のドラマになりそうな予感がしてきたではありませんか。



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