湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第8節(2002年10月12日、土曜日)

いや、すごい迫力だね、レッズ攻撃陣は・・(パープルサンガ対レッズ=1-4)

レビュー

 素晴らしい集中力でしたね、ジェフは。田中の退場で10人になったとはいえ、「あの」ジュビロですからね。最後まで、攻守にわたる「考えつづけるダイナミックプレー」で粘り勝ったのは立派。でもそれを「集中力」という一言だけで片づけていいものかどうか・・。

 この試合を目で追いながら、またまた偶然と必然が織りなすドラマか・・なんてことを思っていたんですよ。昨日のことですが、ある方から、「組み立てプロセスは別にして、仕掛けに入った最初の段階では意図が満載されているじゃないですか・・。でもその後は、かなり偶然ファクターが絡んでくるでしょ。そこら辺のメカニズムをもっと分かりやすく表現してもらいたいな」なんていうリクエストをされてしまいました。

 とはいってもネ・・。とにかく、偶然だとみえる現象にも、「予測」という必然ファクターが複雑に絡んでくるから、そうそう簡単には「メカニズム」を解明することはできないんですよ。それでも「この人」は、私にとっては「VIP」だから、まあ、五秒間のドラマでの心理&戦術ドラマを、もっともっと詳細に・・なんて思っています。

 あっと・・。ちょっとハナシが逸れてしまいましたが、「導入部」で言いたかったのは、もしこの試合でレッズが勝ったら、数年ぶりの「リーグ首位」に輝くということです。でも相手は、「ソリッドサッカー(チーム戦術が浸透している堅実サッカー)の権化」ともいえるパープルサンガ。監督のゲルト(エンゲルス)にしても、レッズがどんなサッカーをやってくるのかは明白だから、しっかりとした「ロジック・ゲーム戦術」を組んでくるでしょう。これから30分後にキックオフなんですが、とにかく楽しみで仕方ありません。さて・・

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 さてゲームですが、まずパープルサンガから。

 最初の時間帯は、サンガのゲーム戦術がはまっていました。攻守にわたる忠実なシンプルプレー。守備では、ボールホルダーに対する素早く忠実なチェックと、安易なアタックを仕掛けていかないクレバーな「待ち」の姿勢、そしてそれをベースにした、「次」を狙いつづける高い守備意識が目立ちます。彼らの「組織ディフェンス」は、本当に素晴らしい機能性を魅せていましたよ。

 前線へパスを供給する選手をうまくチェックすることでパスコースを限定する。だから、「次のパスレシーバー」へのマーク要員が効果的なポジションを取れる。そして、他のチームメイトは、タイミングを測った「集中」をもイメージできている。最初の20分間、レッズのスリートップは、「振り向く余裕」さえも持つことがままなりませんでした。また振り向いても、(時間がかかってしまったことで)既にそこにはカバー要員も詰めてきている・・。サンガの組織ディフェンスは、インプレッシブそのものでした。

 攻撃でも、シンプルなボールの動きをベースにしたハイレベルサッカーが冴えます。一人ひとりが、次のプレーを「事前」にイメージできているのです。それこそトレーニングのたまもの。一人ひとりが、「この状況だったら、絶対にアイツが次のスペースに入り込んでいる・・」なんていう確信を持って、パスを受けるのです。そして、そんな「あうんのイメージシンクロ」をベースに、次のパスレシーバーも、スッ、スッと、次のスペースへ入り込んでくる。前半では、そんな中盤での組み立てばかりではなく、タイミングのよいロングボールも織り交ぜていました。

 でもやっぱり、パク・チソンの「穴」が明確に感じられる。彼がいれば、最後の仕掛けアイデアにも、もっと広がりが出てくるはずですからね。まあ、この結果が原因で、理想へ向かうベクトル上にある彼らの「サッカー・コンセプト」が崩壊するわけではありませんから・・。

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 さてレッズ。ここでは、やはり攻撃にテーマを絞りましょうかネ。

 最初は、サンガのツボ守備にはまったかな・・なんて思っていたのですが、終わってみればスリートップの爆発で4ゴール。いや、止められない、止まらない。

 まあ、爆発するまでには上記した「ネガティブな前段」はありましたが、サンガ守備のチェックが、ちょっと遅れ気味になってからは、振り向くプレーにも余裕を持てるようになり、導火線に火がついたというわけです。

 とにかく、トゥットがヘディングで挙げた同点ゴールが秀逸でした。まず、ハーフウェイ付近の右サイドでパスを受けたエメルソン。振り向きざまに、どんどんと突っかけ、相手マーカーとの間合いを詰めながら「ワンのパス」。そして永井からの見事なリターンパスを、そのままダイレクトで、ファーポストゾーンで待つトゥットへ・・ってな具合でした。

 それは、「個」ばかりだ・・なんていうイメージが強いレッズ攻撃陣全員が参加した美しいコンビネーション。それこそ、「ワン・ツー・スリー」というモダンサッカーの理想的なリズムを体現した最終勝負ではありました。

 その同点ゴールは前半25分だったのですが、その10分後には、これまた「ワン・ツー・スリー」のリズムで素早く「タテ」にボールが動いたことで、またエメルソンの爆発フリーランニングに相手の意識が引きつけられたことで、永井とマーカーとの間合いが広がり、そこからの見事な中距離シュートが決まりました。

 そして徐々に、サンガ組織守備の根幹ともいえる、ボールホルダーへの素早く忠実なチェックが甘くなっていきます。もちろんそれには、同点に追いつかなければならないサンガの重心が、より前へ移動していった(守備への切り換えが遅れ気味になった)こともあります。そしてレッズの「核弾頭スリートップ」が、よりフリーで仕掛けていけるようになっただけではなく、逆に、その爆発力を気にかけるサンガの攻撃に、「中途半端」という雰囲気が出てきてしまったという展開でした。

 「個ばかり」だったのが、「あうんのコンビネーション」も加味されてきたレッズ攻撃陣(まあ、スリートップの配置をこのまま維持するでしょう)。要は、彼らの攻撃に「組織ベースの変化」も出てきているということです。守備の「組織バランス」が少しでも崩れた状況で彼らがボールを持ったら、もう例外なく最終勝負シーンまで持ち込まれてしまうんですからね(後半にレッズが挙げた2点の追加ゴールは、サンガ守備ブロックの横パスミスを拾われたことが原因)。だから相手は、それ「専用」の守備ゲーム戦術で臨まなければ止められない・・それも、どんな試合展開になっても、それを維持しつづけなければ傷口を広げられてしまう・・。

 チーム戦術(選手たちのプレーイメージ)がガッチリと固まっているレッズ。もうここまで来たら、チーム戦術のコンセプトレベル云々なんてシーズンが終わってから考えればいい!? とにかく今は「このまま」突っ走るしかない。かれらが展開しているのは、ナビスコカップや天皇杯という一発勝負トーナメントにも最適なチーム(ゲーム)戦術ですからね。さてどこまで彼らの快進撃がつづくのか・・。



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