湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第1節(2002年9月1日、日曜日)

ヴァスティッチ!! その一言に尽きますかネ・・グランパス対エスパルス(3-0)

レビュー

 さて、この試合をどのように分析しましょうか。両チームともに同じようなポジショニングバランスだし、守備、そして組み立ての「プレーイメージ」も似通っている。だから、中盤での攻防も、同じような現象の応酬になってしまう。ボールの奪い方(失い方)、そして次の組み立てまではネ・・。

 この試合の点差は(結果からロジックを導き出すのは本意ではないのですが・・)、エスパルスが、怪我人、アレックスの移籍騒動などでチームの成熟度に大きな揺動がある・・、対するグランパスは、W杯後のファーストステージ終盤で6連勝したメンバー「構成」がほとんど変わらずにイメージがシンクロしたサッカーができている・・ということでしょうか。その差が、特に、最終勝負の仕掛けの「質」に如実に現れていたということです。後半にアレックスが登場してからは、(もちろん二点差ということもあるのですが・・)エスパルスの攻撃に、前後左右のポジションチェンジを基調にした「変化」というダイナミズムが出てきましたらね。

 それまでのエスパルスの最終勝負の仕掛けポイントは、もうバロンのアタマだけ。中盤でのボールの動きにも、どんどんとスペースを使っていくような(つまりボールホルダーと周りの動きが連動するような)以前のエネルギーが感じられません。ということで、グランパス守備ブロックを崩し切るシーンを演出できない。数本ですかネ、バロンのアタマを効果的に使えたのは(とにかくピタリと合ったときのバロンのヘディングの威力は抜群!)。演出家は、主に市川。そこからのアーリークロスです。もちろん「バロンのアタマ(ポストプレーも含む!)」という絶対的な武器をもっているのですから、それをイメージした攻撃を仕掛けていくのはいいのですが、「それだけ」というのでは・・。

 テーマは、選手たちの、プレーオプション(仕掛けイメージ)の広がりということです。その意味では、成熟度の高いグランパスに明確な一日の長が・・。その主役は、単独ドリブル突破と爆発フリーランニングのウェズレイと、クレバーな「ポストプレー」を魅せるヴァスティッチ。特にヴァスティッチは、本当に優秀ですよ。彼の「眼」に対するチームメイトの信頼度は抜群のようで、彼がボールをもったときには、周りの選手たちのアクションが瞬間的に倍加する・・なんてことまで感じます。もちろん、そんなチャンスメイクプレーばかりではなく、彼自身も、抜群のシュート力を備えている。グランパスは、本当に優秀な「最終勝負の仕掛け人」を獲得したということです。

 またヴァスティッチがいることで、二列目の中村直志や両サイドの岡山、平岡(滝沢)の押し上げプレーも十二分に活かされています。とはいっても私は、中村直志には、最終ゾーンでの仕掛けの起点になる等、もっと多くのことを期待しています。でもまあ、今のところは、ヴァスティッチのサポートプレーが抜群の実効レベルにありますから・・。とにかく中村は、これから、もっともっと伸びていかなければならない存在なのですから、ヴァスティッチに使われるだけではなく、逆に彼を使うプレーにも積極的にトライして欲しいものです。

 それにしても、グランパスの三点目は、見事の一言でした。GK楢崎のゴールキックを、ヴァスティッチが、「明確な意図」をもってヘディングで流し、そこに走り込んでいたウェズレイが、そのままドカン!と蹴り込んだゴール。楢崎のゴールキックが蹴られたときには、まったくアクションを起こしていなかった(起こすつもりもなかった!?)ウェズレイ。ただそのボールの落下点にヴァスティッチが走り込むのを見た瞬間、爆発ダッシュをスタートします。もちろんヴァスティッチも、その「決定的フリーランニング」のタイミング、コースをキッチリとイメージして、ヘディングしたというわけです。二人の、最終勝負イメージが美しくシンクロしたゴール。いや、見事。

 週刊プレイボーイの連載で、ジュビロ、マリノス、アントラーズと並んで、グランパスをセカンドステージの優勝候補に推した湯浅ですが、その最後のところで、グランパスについて、『特に私は、グランパスに注目しています。自由奔放な創造性プレーを魅せつづける若手のホープ中村直志。力強いウェズレイに、いぶし銀のヴァスティッチが絡むツートップ。そして彼らをバックアップする、岡山、滝沢、山口等の堅実プレーヤーたち。選手のタイプが、うまくバランスしていると感じます』なんて書きました。「高質なバランス」。それが今のグランパスのキーワードかもしれません。これからも、彼らのプレーに注目していきましょう。

 それにしてもエスパルス。攻撃変化の演出家(仕掛けのイメージリーダー)としての「二列目の質」が欠けているという問題は、まだまだ根が深い・・。とにかく、何としてでも以前の「輝き」を早く取り戻して欲しい思っています。

 短いですが、本日のコラムはここらあたりで・・。



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