湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第14節(2002年8月11日、日曜日)

素晴らしいエキサイティングマッチ・・やはり具体的に何かが賭かったゲームは違う・・アントラーズ対マリノス(2-1)

レビュー

 さて、マリノスにとっての勝負マッチがはじまりました。立ち上がりは、日本代表監督の就任挨拶に立ったジーコが観戦しているということ、そして相手のリーグ優勝がかかっているホームゲームということで、ガンガンと攻め上がるアントラーズ。その勢いを落ち着いて受け止め、組織的な攻めを繰り出していくマリノス。

 最初のチャンスを作り出したのはマリノスでした。2分でしたかね。中盤の高い位置で、清水と奥がワンツーを仕掛け、射水にアタックを仕掛けたアントラーズの本田を置き去りにします。そして清水が、リターンパスをフリーでシュート。あの状況では、本田の清水に対するアタックはタイミングが遅れていたから、彼は、明確に「次のワンツー」を読んでいなければならなかったのに・・。

 その直後のCKから、再びマリノスがチャンスを迎えます。マリノスの攻撃には、決めるゾ! という強い意志を感じます。正確なパス。そして効果的な仕掛け。それでも、アントラーズの前への勢いは衰えません。とはいっても、それを確実に受け止め、強い意志をベースにした鋭い攻撃を仕掛けていくマリノス。これは、本当に「マッチオブザシーズン」になるかも・・なんて期待が膨らんだものです。

 マリノスの強さのベースは、何といっても堅牢な守備ブロック。最終ラインの三人と、上野、遠藤で組む守備的ハーフコンビの「有機連鎖プレー」が絶妙なんですよ。中盤での「抑え」が効いているから、最終ラインの「読みベースポジショニング」もうまく機能するというわけです。それに対してアントラーズの攻めは、相変わらず「力ずく」です。

 「力ずく」といったのは、前の二人(柳沢とエウレル)だけが最終勝負の仕掛け人という状態がつづいていたからです(エウレルのドリブル突破勝負と、柳沢の決定的フリーランニング等)。(メンバーはまったく違いますが)以前のように、二列目のコンビ(今は本山と小笠原)と最前線コンビによる「縦横のポジションチェンジ」。それがまったく見られないんですよ。これでは攻撃の変化を演出することなどできるはずないし、マリノス最終ラインの「読み(最終勝負ポイントでのタイトマーク!)」が、常にピタリ、ピタリとツボにはまってしまうのも道理。エウレルは、チームに参加してからもう数試合戦っているのだし、本山にしても、もっともっと、攻守にわたる「アクション・ラディウス(行動半径=プレーの種類)」を広げていかなければ・・。もちろん、その「行動半径」の意味は、運動量だけではなく、仕掛けの種類も含みますよ。

 14分には、アントラーズ中田浩二のロングシュートから、エウレルが、こぼれ球をフリーでヘディングシュートを放ちます。アントラーズが最初に作り出した決定的チャンスでした。結局それは外れてしまいましたが、この時間帯あたりから、アントラーズの攻めに、(まだまだ「変化」は足りないにしても)壁をぶち破る勢いだけは出てきたような・・。

 マリノス攻撃の仕掛け人は、明らかに両サイドの波戸とドゥトラ。特にドゥトラの突破力が目立ちに目立ちます。もちろんバックアップは上野と遠藤が十二分にこなしていますから、その「後ろ髪を引かれない押し上げ」にも格別のエネルギーが込められているというわけです。

 この、マリノス両サイドの押し上げによって、アントラーズ攻撃の「一つのキーポイント」である、名良橋、アウグストのオーバーラップが冴えてきません。この勝負マッチでは、このサイドの攻防も見所の一つだということです。まあアントラーズの場合、両サイドの前のスペースを本山と小笠原、はたまたエウレルが「占拠」するという状況が目立っていることもありますがネ。

 試合は、15分すぎから、徐々に膠着状態に入っていきます。ボールキープ率という視点での「ゲーム支配傾向」ではアントラーズに軍配は上がるのですが・・。

 アントラーズでは、(例によって!?)本山と小笠原の「守備参加」がうまく機能していないと感じます。彼らの絡みが中途半端だから(寄せはするが、途中で守備アクションのエネルギーを抜いてしまう!)、どうしてもアントラーズが、高い位置でボールを奪い返せない・・そう思うのです。

 そんな一進一退という展開がつづいていた前半41分。名良橋のミスパスから、波戸に右サイドを突破され、最後は、後方から押し上げたマリノスの奥に、フリーでの決定的ヘディングシュートを浴びてしまいます。ほんの10センチ、右へそれたから事なきを得た・・。

 アントラーズでは、ちょっとミスパスが目立ちすぎると感じます。名良橋しかり、本山しかり、中田浩二しかり。何か、全体的な雰囲気として、ボールをしっかり動かすという意識が希薄になってきているような・・、だから、タイミングが遅い「足許パス」ばかり・・、これでは、マリノスのポジショニングバランスが巧みな読みの網に引っかかってしまうのも道理・・なんて思っていました。もちろん全体的なゲームの流れは堅調ではあるんですがネ。とにかく、彼らはもっとダイナミックなサッカーが出来るはず・・、セカンドステージでは主役を務めなければならない存在なんだから・・、そのためにも、ファーストステージでの「課題」を全員がしっかりとイメージしなければ・・なんて思っている湯浅なんですよ。

--------------------

 さて後半が、ものすごい量のキリが吹き込んでくるカシマスタジアムではじまりました。このキリですが、「いつものことですよ。神戸戦じゃ、ピッチが見えにくくなったしネ」、なんてアントラーズ関係者の方が言っていました。それしてもスゴイ勢いで、ガスがスタジアムを包み込んでいきます。本当に大丈夫なんだろうか・・。

 そんな心配をよそに、後半8分、アントラーズが先制ゴールを上げます。ゴールゲッターはアウグスト。

 後半立ち上がりも押し気味にゲームを進めるアントラーズ。でも、前半同様に、スムーズなボールの動きを演出できているわけではない・・、だからマリノスの守備ブロックも余裕をもって対処できている・・なんて感じていました。でも、先制ゴールをもぎ取ったアントラーズ。まず、柳沢へのタテパスが通り、そこからのギリギリの展開で(また、途中でミスパスかな・・なんて思っていたのですがネ)、シンプルプレーに徹する本田を経由して右サイドでまったくフリーになっていた本山にパスが通ります。私は、「また本山は、ボールをこねくり回してタイミングを失することで、中央ゾーンでのチャンスを潰してしまうに違いない・・」なんて思っていました。でもそのときは違った。ちょっと中へ持ち込み、そこから、ファーポストゾーンへ早めのラストパスを送り込んだのです。それが、アウグストにピタリと合ったというわけです。

 そこまで、しっかりとした守備ブロックからのカウンターをイメージしてゲームを進めていたマリノス。さて、ここからは、自分たち主体で仕掛けつづけなければならなくなった・・。逆にアントラーズは、守りに入りすぎたら墓穴を掘ってしまう・・。いよいよ、面白くなってきたじゃありませんか。急にキリも濃くなってきたし、何か波乱の予感が・・。

 先制ゴールを奪ってからのアントラーズですが、マリノスのレベルを超えた前への勢いもあるのですが、とにかく守備が受け身。マリノスが繰り出す最終勝負の仕掛けを「待っている」という姿勢がアリアリなんですよ(決して待ち構えるという積極姿勢じゃありません!)。彼らの後ろ向きの守備プレーからは、中盤から仕掛けていって置き取りされたら大変・・なんていう心理が見え隠れします。それなんですよ。そんな「受け身の心理」が、組織プレーの破綻をもたらすのです。

 人数がいるから、ワンツーで置き去りにされても全力で戻る姿勢が明確に見えてこない・・、マークが受け身で、読みのインターセプト意識も感じられない・・。アントラーズゴール前のゾーンでは、(マーカーの寄せが甘いことで)どんどんと(ある程度)フリーなマリノス選手たちが出現してきてしまいます。さて、どこまで持ちこたえられるのかな・・なんていう気にまでさせられてしまって・・。「あの」堅守のアントラーズに対して、こんな低次元の感覚さえわき上がってきたものです。

 そんなことを思っていた後半25分、案の定(!?)アントラーズがやられてしまいました。コーナーキックからのこぼれ球をナザに押し込まれてしまったのです。セットプレーだったから、前述の「流れのなかでの受け身傾向」には当てはまらないケースだ!? いやいや、積極的なディフェンスさえ出来ていれば、ギリギリの競り合い場面での素早い身体の寄せや粘りも出てくるものなんですよ。まあ感覚的な表現ですがネ・・。

 でも、そのちょうど5分後。本山が、勝ち越しゴールを奪ってしまいます。マリノスディフェンダーの横パスミスを奪った本山が、そのまま彼の真骨頂ともいえるドリブル勝負にチャレンジして右足でシュートを決めたのです。いや、素晴らしいゴールでした。でもそれで、彼の全体的な出来の悪さが払拭されるわけではありませんがネ。

 さて、アントラーズは、同点ゴールを奪われた教訓を、残り15分に活かすことができるのでしょうか・・。私は、最後の時間帯、そのことだけに集中して観戦していました。

 先ほどと同様、ドゥトラと松田がミッドフィールドまで押し上げ、必死に厚く攻めつづけるマリノス。それに対し、アントラーズの守備ブロックは、少なくとも「先ほど」よりは安定している(より積極的=攻撃的だ)と感じます。何せ、先制ゴールを奪った後は「下がりすぎ」るだけではなく、互いに守備での勝負を「譲り合う(アナタ任せにする)」姿勢がアリアリでしたからね。アントラーズでは、「先ほどのお灸」が効いたということでしょう。誰が、そんな「姿勢の変化」を演出したのだろう・・、誰かが、強烈な刺激を飛ばしたに違いないハズだ・・、なんて思っていた湯浅でした。

 「攻撃的な姿勢」。それは、攻守にわたるキーワード。極論すれば、最終的には自由にプレーせざるを得ないサッカーでは、守りの姿勢などあり得ないとも言えます。アントラーズの、リードしてからの守備に、またまたテーマを見出した湯浅でした。

-------------

 さて、ファーストステージ優勝には厳しい状況になってしまったマリノス。ファーストステージの最終節がどうなるかは、もちろん神のみぞ知る。それでも彼らが、バランスのとれた優れたサッカーを展開していること、そしてセカンドステージでも主役の一角を占めることは確かなことです。

 ジュビロは、柏の葉競技場でレイソルと、またマリノスは、国立競技場でエスパルスと戦います。さて最終節が楽しみになってきました。



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]