湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第13節(2002年8月7日、水曜日)

そろそろ「次の段階」をイメージさせて欲しい!?・・レッズ対アントラーズ(0-2)

レビュー

 さて、何から書きはじめましょうか・・。

 この試合でのレッズは、例によって、井原、坪井、内舘のスリーバックで臨みます。その前に、石井と鈴木のダブル守備ハーフ(彼らは基本的には「専業」!)。攻撃は、アリソン、トゥット、田中の三人に、たまに、両サイドから、平川と路木が絡むといったイメージでしょうか。

 対するアントラーズは、トップで左右に動きまわる柳沢とエウレルに、小笠原と本山、また両サイドのアウグストと名良橋が、臨機応変に絡んでいくというイメージですかね。エウレルは、頻繁に小笠原、本山と、タテのポジションチェンジを繰りかえします。

 レッズ守備の基本イメージは変わらず。中盤でマークを受けわたしながら、(内舘を除き)なるべく早いタイミングで相手を掴み、一つの攻撃ユニットが終了するまで最後までマークしつづける・・。これが、前半の15分を過ぎたあたりからキッチリと機能しはじめます。

 それまでは、エウレルに左サイドを突破されたり(そのサイドへの守備の集中が甘い!)、最後の瞬間での柳沢に対するマークが甘くなったりで(基本的には内舘がオールコートマンマーク!)、彼らに何度か決定的な仕事をさせてしまいます。まあ内舘も、徐々に、柳沢のプレーのスピードとリズムに慣れてはいきましたが、それでも、最初の時間帯の「不安定なマーク」は反省材料ではあります。最後の瞬間にボールウォッチャーになってしまうことで、二度、柳沢に「半身」ほど振り切られてしまったことも含めてね・・。

 ところが、徐々にアントラーズの攻撃から危険な香りが消えていきます。最初の15分間うまく機能していた彼らボールの動きが、20分を過ぎたあたりから停滞しはじめた・・とも言えそうです。何といっても、エウレル、本山という、かなり似通ったタイプの選手が「並列」していますからネ。何度か、「ここだ!」と爆発ダッシュをスタートした柳沢が、「ア〜〜アッ」と、動き(ボールがないところでの決定的フリーラン!)を止めてしまうシーンを目撃しました。もちろんその場面では、マークする内舘は、既に「ウラ」を突かれていたわけですが・・。

 ということで、アントラーズの両サイドによる押し上げも目立ってきません。要は、後方の六人と前方の四人が、徐々に「分断」されていったということです。それを有機的にリンクしなければ往年の攻撃を展開できるはずがないのに・・。前後をつなぐ「接着剤」が・・。スッと下がり、名良橋やアウグスト、はたまた中田浩二などを、「行け!」と前へ送り出すような接着剤がネ。

 それに対し、単発とはいえ、レッズ攻撃の生きのいいこと。エメルソン、福田という常連先発メンバーを欠いてのダイナミズム。フムフム・・。やはりサッカー攻撃の基本は、ボールのないところでの動きを基調にしたパスプレーだということです。まあエメルソンについては、ボールの動きが活性化すれば、それに合わせて、「個の才能」がもっと活かされるようになるでしょうがネ・・。

 とにかくレッズの攻めは、単発ではありますが、アリソンを中心に、鋭いボールの動きで危険なカタチを作り出します。また、右サイドの平川も、素晴らしいドリブルでチャンスを作り出しましたからね。そんな(単発ではあるにしても)鋭いボールの動きをベースに「起点」を作り出し、そこからの個人勝負を仕掛けていく・・。もちろん「起点」とは、最終仕掛けゾーンにおいて、ある程度フリーでボールを持つ選手のことですよ。

 前半の井原。たしかに、決定的な勝負ポイントへのスタートタイミングの早さなど、次に対する「読み」は、まだまだ健在です。それでもスピードのなさは如何ともし難く、一対一の状況に陥ったときの不安や、カバーリングの遅れが目立ちますますネ。やはり、相手が強くなり、ギリギリのところで、自分自身が最終勝負へ行かなければならなくなる頻度が高くなれば、それだけ、彼の衰えが目立つということでしょう。まあ、要所では、石井や鈴木が、彼の代わりを務めてはいましたがネ。

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 さて後半。

 まずペースに握ったアントラーズ。でも、前半と同じく、レッズ守備ブロックの「ウラ」を突くことができません。まあ忠実なレッズ守備ですから、いくらアントラーズが押し込んでいるとはいえ、決まった選手たち「だけ」による、「あんなレベル」のボールの動きでは、崩すのは至難のワザ・・ということです。

 それでも後半15分、一発のタテパスからアントラーズが先制ゴールを奪います。

 左サイドでカウンター気味のタテパスを受けたエウレル。相手は井原だけです。これでは・・。そして二度、三度と井原を振り回すことで「余裕」を作り出したエウレルが、柳沢へラストパスを通したという次第。柳沢は、一度、完全にボールウォッチャーになってしまった内舘の「背後スペース」へ開き、そこからスッとファーポストの「ここしかないスペース」へ入り込んだのです。まったくフリーで「ゴールへのパス」を決める柳沢。前半に目立っていた(前述した)レッズ守備陣の「アキレス腱」を突かれた失点・・ではありました。

 その後は、必死に突っかけていくレッズだけれど、一点を奪ったことで「守備意識が先行」した堅牢なアントラーズ守備ブロックによってことごとく跳ね返され、逆に危険なカウンターを食らうという展開になっていきます。

 後半30分、山田が石井と交代出場し、平川が「中盤」へ入っていきます。そして直後の後半32分、レッズが決定的なチャンスを作り出します。この試合でも活発なプレーを魅せつづけていたレッズの田中が、右サイドから、ズバッとセンターへ持ち込むことでアントラーズ守備陣を引きつけ、ベストタイミングで決定的スペースへ走り抜けたトゥットへスルーパスを通したのです。まったくフリーでパスを受けるトゥット。でも最後のボールタッチに失敗し、アントラーズGKにボールを奪われてしまって・・。「オッ!」と思わず声が出る素晴らしいチャンスメイクではありました。

 それでも、その直後の34分。左から持ち込んだ本山に、井原が軽〜〜く外されてしまって・・。そしてそこからのラストパスをエウレルが決めて「2-0」というわけです。

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 ハンス・オフトは、長期計画でチームを引き受けたと聞きます。そしてまず、選手たちのフィジカルコンディションの向上と、守備イメージの徹底から入ります。守備では、もちろんマークの受けわたしはするし、最終勝負のラインコントロールにもトライしますが、原則的には、(早い段階から)限りなく「人」を意識する守備のやり方を徹底することからチーム作りに着手したというわけです(マン・オリエンテッドな守備イメージ)。この試合も含め、その方向性は、「それなり」に成果を挙げていると思います。坪井という素晴らしい選手が実戦経験を積み、主力にまで成長しましたしネ。

 それでも、どうしても「それだけでいいのかい??」という疑問が出てしまうんですよ。ハンスは優秀なコーチだと思います。様々な意味を包含する「実効ある経験」も積んでいますしネ。それでも・・。

 チーム作りの初期段階だから、守備と攻撃の要所には「経験」を置こうということなんでしょうが、どうしても私には、ベテランの起用が、どちらかといえば「停滞」につながってしまっていると見えるんですよ。攻守にわたるダイナミズムの向上という意味では、マイナス要素の方が強いと思うのです。

 いくら長期計画だとはいっても、確実に最低のポイントだけは積み重ねなければ・・だから初期段階では堅い布陣で・・というベンチの意図は分かります。それでもレッズは、優秀な若手や「実績ある中堅」を抱えているじゃありませんか。「将来的な展望」という視点では、彼らを起用することの方が、より理にかなっているのでは・・なんて思うのは私だけではないに違いありません。もちろん私には、チーム内の詳細な事情は分かりませんし、同業者として、ハンス・オフトの評価と、「プロセス」に関する決断内容には敬意を表しますがネ・・。

 例えば、右サイドの平川が「大きな可能性」を示しつつあるのだから、そこは彼に任せ、その代わりに最終ラインの中央に山田を据えるだとか・・、攻守両面にわたってもっと仕事を与えるために、アリソンを限りなくボランチに近いポジションまで下げ(彼は、もっともっと出来る!)、その代わりに走りまくる田中や永井を「二列目」に置くとか・・、ユーティリティープレーヤーの阿部を、様々なカタチでもっと重用するだとか・・。

 特に攻撃。それが「分離」し、どうも「(アリソンやエメルソンの)一発勝負(単発勝負)」ばかりが目についてしまうという現状を考えれば、現有勢力でも、やり方によっては、より「前後」が有機的に連鎖するに違いないと確信する湯浅なのです。

 とにかく、ハンス・オフトのウデに期待しましょう。



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