湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第7節(2001年5月3日、木曜日)

好循環すると思われた松木監督の「勝負(チーム改造)」・・でも・・東京ヴェルディーvs横浜マリノス(2-3)・・そして、魅惑サッカーの本質は??・・浦和レッズvsジュビロ磐田(0-2)

レビュー

 いま、国立競技場でこの原稿を書いています。ジュビロが展開した魅惑的なサッカーを見た後・・。とにかく彼らは、サッカーをプレーするうえで重要なすべてのファクターにおいて、他の「J」チームと比べて、アタマ一つ抜け出していると感じます。でもまずは、ヴェルディー対マリノスの試合から・・

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 「林、前園、小倉は、ケガや出場停止じゃありませんヨ。単に、メンバーに選ばれなかっただけです。でも米山はケガですが・・」。あるヴェルディー関係者が言っていました。

 メンバー表を見たとき、「エッ!?」と思ったのです。上記の四人が外れていましたからネ。最初に挙げた三人の「ボールプレーヤー」はともかく、米山まで・・

 でも「背景」を聞いて、「ナルホド・・」と思ったというわけです。ナルホド、松木監督は、「やっと」勝負に出たか・・

 これまで私は、ヴェルディー選手たちの「プレー態度」を何度も批判してきました。サッカーは、「積極的なムダ走り」が、クリエイティビティーのベースになるというボールゲームです。それを、「オレたちは効率的にプレーするのサ・・」ってな、斜に構えた姿勢でプレーする選手たち。マークにしても、忠実にボールへ(パスレシーバーを予測して)プレスを掛けていくのではなく、ポジションだけをパスコースに取ってインターセプト「しか」狙わなかったり、しっかりとマークしなかったことで遅れたタイミングでボールホルダーをチェックにいかざるを得なくなり、結局はファールで止めることになってしまったり・・、また攻撃でも、足許パスのオンパレードで、ボールがないところで忠実にフリーランニングをくり返す選手などは希・・これでは・・

 要は、守備であれ、攻撃であれ、「自分主体で、積極的に、目立たないダーティーワークを探す」という姿勢が、「美しく、強いサッカー」をクリエイトするためのベースだということです。

 そして松木監督は、そんな「斜に構える選手」たちを外すことで、チームの改造に取り組んだというわけです。少なくとも私は、そう確信しています。そしてそれが、実効ある結果につながります。少なくとも、北沢がグラウンドを去るまでは・・

 さて、「今は昔」のゴールデンカードですが、上記したように、前半から、北沢が交代してしまう後半途中までの時間帯、「内容的」に、ヴェルディーがコントロールしていました。もちろんその「心理的な背景」に、(前述した)ボールプレーヤーの除外があったことは言うまでもありません。「良いゲーム」を目指す選手たち自身も、「自分勝手なプレー」には不満をもっているものです。でも、それを言いにくいチームの雰囲気というのもありますからネ。それは、監督の仕事だというわけです。

 たぶん選手たちも、「監督は勝負した・・」と感じていたはずです。

 この試合では、フォーバックの前に、北沢を「コア」として、若手の瀬沼と三浦淳宏が、トリプルボランチを組みます。その前に、永井秀樹が「二列目」にポジションするという布陣です(まあ、永井が右で三浦が左の前気味ハーフという捉え方もあるでしょうがネ・・)。そしてそれが本当にうまく機能します。まったくといっていいほど、効果的な攻撃を組み立てることができないマリノス。逆に、中盤での「積極ディフェンス」をベースに、クリエイティブで危険な攻めを展開するヴェルディー。

 永井と三浦については、前に何度も、その消極的なプレー姿勢を批判したわけですが、この試合については、二人ともに、(北沢の忠実でダイナミックな守備に引っ張られるように・・)積極的に守備に参加してきます(二人ともに、次を読んだアクティブ守備を展開!)。そしてそれが、ボールを奪い返した後の、「よし、オレが行ったる!」という積極的な姿勢につながります。(以前のように)ボールをこねくりまわすのではなく、シンプルにつなぎながら・・、そしてボールがないところでのフリーランニングをくり返しながら・・。やっとヴェルディーの攻めに、素早く、広いボールの動きが出てきたのです。

 永井が挙げた二得点は、まさに「勝ち取ったゴール」でした。

 そんなヴェルディーペースの試合展開ですが、それには、マリノスの出来が悪すぎたから・・という見方もできます(サッカーは相対的なボールゲーム・・)。でも私は、ヴェルディーの「安定したプレー」によって、マリノスが良いゲームを組み立てられなかった・・という見方の方を支持します。

 北沢ですが、たしかにいつも守備での競り合いに勝てるわけではありません。またボールを持っても、昔のように決定的な仕事ができるわけでもありません。それでも闘う姿勢をベースにした「チームにとっての実効プレー」は昔のまま。相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する、忠実でダイナミックな(身体を張った)プレスをくり返すのです。それがあったからこそ、最終守備ラインだけではなく、三浦、瀬沼、はたまた永井の「次の相手ステーションに対するディフェンス」も効果を発揮することができたと考える湯浅なのです。

 ただ後半にはいって、瀬沼のペースが目立って落ちてきます。「そろそろ代えどきだな・・」、そんなことを思っていたとき、ヴェルディーのベンチが動きます。ただ出てきたのは、ストッパーの松原(スリーバックへ変更)。そして、彼と交代してグラウンドを去ったのは、北沢・・。何てことだ・・。

 その直後、上野のロングシュートが中澤に当たってコースが変わり、ヴェルディーゴールに飛び込んでしまいます。不運な同点ゴールではありました。

 そしてここから、マリノスの大反撃がはじまります。その勢いは、それまでの二倍、三倍のペース。それに対して、「中盤を薄くした」ヴェルディーは、その勢いをまったく受け止めることができなくなってしまって・・

 上野のロングシュートは見事ではあったのですが、試合の流れがあれだけ「逆流」してしまったら、マリノスの大逆転ゴールも時間の問題だった・・!? ヴェルディーは、押し返すための「パワータンク」である中盤の勢いが落ち込んでしまっていましたからネ・・。

 この試合には、「松木監督の勝負」、そしてそれがうまく循環しかけたという見所と、彼の試合中の采配(選手交代)が、見事に裏目に出てしまった(もちろん湯浅の評価ではありますが・・)という見所があったと思う湯浅でした。

 最後に・・。たしかに負けはしましたが、内容的にはポジティブな面も見えたわけですから、松木監督には、この「考え方」をベースに「監督としての勝負」をどんどんとつづけて欲しいと思う湯浅です。なんといっても選手たちには、常に「刺激」が必要ですからネ。そして、そのベースになるのが、監督の「強烈な哲学」だというわけです。

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 さてレッズ対ジュビロ。

 この試合については、素晴らしくダイナミックなジュビロの中盤というポイントに絞ってハナシを進めましょう。

 とにかく今のジュビロの中盤は、ノリに乗っています。守備においても、攻撃においても・・

 何といっても彼らの真骨頂は、全員が、自分主体で、攻守にわたって積極的に「仕事を探している」ということです。福西、服部、奥、藤田、そして『名波!!』。とにかく、素晴らしいの一言です。

 守備では、ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する効果的なプレスをベースに、次、その次と、ターゲットを絞り込むように、どんどんと「プレスの輪」を集中していきます。そして攻撃となったら、「その時点」で絡める選手は、例外なく全員が、攻撃の最終シーンに絡んでいくのです。もちろんボールのないところで・・

 攻撃では、何といっても、彼らの「決定的スペース」を狙う姿勢が秀逸。もちろんゴンと高原の存在が目立ちに目立ってはいるのですが、それ以外でも、中盤の誰もが、「ボールを持つ前の段階」から既に、決定的スペースへの「リスクチャレンジパス」を意識していると感じます。

 例えば、シンプルな横パスが回されるシーン。「逃げパス」などではなく、彼らの場合は例外なく「仕掛けの横パス」になっています。だから、その「横パスが出された瞬間」には既に、トップの選手や、二列目の選手が、「ウエーブ」を描きながら、決定的飛び出しのスタートを切っている・・。

 そんな攻めの方向は、相手ゴール前だけではありません。サイドに広がる「決定的スペース」も同様です。両サイドの藤田、奥だけではなく(彼らは本当に縦横無尽にポジションチェンジをくり返しますからネ・・)、その時点で「飛び出せる」選手は、本当に例外なく、フリーランニングをスタートするのです。そしてその「サイドへの勝負パス」が通った状況では、ゴール前のスペースに、ゴンや高原だけではなく、二列目で狙っていた誰もが飛び出していく・・それでも「前後のバランス」は崩れない(もちろん、その後の守備に関してですよ・・)。強いはずです。

 そんな勝負シーンの基盤は、言うまでもなく、「素早く広いボールの動き」。心地よい限りです。

 レッズは、田中達也が出てきた後半、少し盛り返します(ジュビロの中盤のペースが落ちたこともあったのですがネ・・)。それでも、決定的なチャンスを作り出すことがままならず・・。結局は、チカラの差を見せつけられたゼロ敗に終わりました。

 それでも、「小野伸二」の闘う姿勢がどんどんと発展していると感じ、嬉しく思ったものです。攻撃だけではなく、守備においても・・。彼以外では、堅実で「力強い」ディフェンスを魅せつづけた石井俊也、前線で、ねばり強く実効あるプレーをつづけた永井雄一郎、そして後半から出場し、何度か「才能を感じさせる」リスクチャレンジプレーを魅せた田中達也が、私にとって目立った存在でした。

 レッズについては、機会を改めて詳しく分析しようと思っていますので・・。では本日はここらあたりで・・



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