The Core Column


The Core Column(10)__ 守備意識こそが・・リヌス・ミケルスの教え・・(2013年11月5日、火曜日)

■伝説のトータルフットボール・・

「あのチームでは、ヨハン(クライフ)も含めて、一人の例外もなく、しっかりと守備につくことが大前提だったんだよ・・」

オランダ伝説のスーパープロコーチ、故リヌス・ミケルスが、私の目を正面から見据え、静かに語りはじめた。

私も正式会員のドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟が、彼を国際会議に招待したときのことだ。それからも何度か、教えを請う機会があった。

1974年ドイツワールドカップにおいて、まさにエポックメイキングと呼べる画期的なサッカーを展開したオランダ代表。

リヌス・ミケルスは、そのチームを創りあげた男だ。そこから、世界サッカーの潮流が変わった。

全員守備、全員攻撃のサッカー。「トータル・フットボール」とも呼ばれ、今でもサッカー史に燦然(さんぜん)と輝きつづけている。

それは、世界の名だたる名将の多くが、「あのサッカーによって、我々が目指すべき方向が見えた・・」と述懐するほど鮮烈なインパクトを残したのである。

「オマエは、しっかり守備をするという ことの意味は分かっているよな。その意識が全員に深く浸透していたからこそ、互いの信頼関係を確立できた。そしてだからこそ、チャンスを見つけた誰もが、 攻撃の最終勝負シーンまで絡んでいけたし、次の守備で大きくバランスが崩れるこ ともなかった。オレは今でも、あのサッカーを実現できたことを誇りに思っているよ」

リヌス・ミケルスは、そう言って、当時に思いを馳せていた。

1974年ドイツワールドカップで決勝まで進出したオランダ代表では、後に「ボール狩り」と表現されるほどダイナミックな協力プレス守備がフル回転で機能しつづけた。

それがあったからこそ、「ポジションなし」とまで呼べるような、縦横無尽のポジションチェンジを駆使したアグレッシブでリスキーな攻撃をブチかましていけたのだ。

■守備意識こそが、全てのスタートライン・・

ということで、今回コラムの中心テーマは、守備意識。

そして、もう1つ。

リヌス・ミケルスが語っていたように、そこには、優れた組織ディフェンス(連動性)を支える、選手全員の高い守備意識こそが、コレクティブ(組織的)で、ポジションチェンジと変化に富んだ攻撃を繰り出していくための絶対的バックボーン・・というテーマも含まれる。

さて、守備。

それは、とてもキツイ仕事だ。何せ、攻撃とは違い、相手の攻撃プレーに対して、受け身に反応せざるを得ないというのが基本なのだから。

もちろん、そんな受け身のディフェンスを、相手の次の攻撃プレーを予測したり、自分に有利になるようにプレーさせたりする(そのように仕向ける)ことで、限りなく「能動的」なモノへと進化させてしまうことも可能なわけだが、そのためには、経験とスキルアップが必要だ。

そのベースは、言うまでもなく、地道な努力。

そんな、自分が主役になれる「能動ディフェンス」を実現するためにも、まずは、忠実な「汗かきハードワーク」をスタートラインとして経験を積んでいかなければならないのである。

その典型プレーが、相手にボールを奪われた次の瞬間から仕掛けていくチェイス&チェックだ。それが機能しなければ、他のチームメイトが、相手の次のプレーを予測したり、自らが有利になる状況に誘い込んだりなど出来るはずがない。

そう、ディフェンスは、共同作業なのである。

・・味方の忠実なチェイス&チェック(寄せ)によって、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)のプレーが制限される・・それがあるからこそ、周りの味方も、次のパスレシーバーを狙える・・

・・また、そのハードワークが、相手ボールホルダーのプレーを「停滞」させたら、すぐにでも、協力プレスの輪を狭めていける・・等など・・

そんな忠実な連動アクションを積み重ねることで、「能動的」なボール奪取プロセスに磨きをかけていくのである。

繰り返しになるが・・

・・最初のアプローチ(チェイス&チェック)がうまく機能すれば、相手のボール周りプレーを制限できるし、チームメイトも、予測ベースの守備アクションを、より早いタイミングで、効果的に繰り出していける・・

・・そして、もしかしたら、現代サッカーにおいて最も高い確率で結果を出せる「ショート・カウンター」をブチかましていけるかもしれない・・

そんな「能動的」なボール奪取プロセスにこそ、守備の連動性と呼ばれるモノの本質が内包されているのだ。

1人だけで相手からボールを奪い返すのは至難の業だけれど、協力すれば、効果レベルを際限なく高められる。

そう、守備にこそ、組織(協調)マインドの実態が映し出されるのである。

■守備意識と呼ばれるモノの本質は!?

優れた守備意識。

それは、自ら進んで、苦しいディフェンスに「も」全力を傾注できる「強い意志」のこと・・なんて定義できそうだけれど、では、その心理・精神的なバックボーンは何なのだろうか??

プライドベースの責任感!? 勝利へのこだわり(負けず嫌い)!? チーム内のヒエラルキーアップ(チーム内における自らの価値のアピール)!? さて〜・・

まあ、やはり、最高のモティベーションは、何といっても自己主張の機会ということなのだろう。

そう、チームのなかでレスペクトされる存在になりたい・・。それである。

もちろん、その選手が「才能系」だったら、その存在感は天井知らずってなことになるだろう。

今の「J」では、何といっても、マリノスの中村俊輔でしょ。

誰もが認める天才。そして、大ベテラン。

最高の名声(プロサッカー選手としての評価)も含め、大方の目標を達成してしまったスター選手だからこそ、アメリカの心理学者アブラハム・マズローの言う「欲求五段階説」で最高位にランクされる「自己実現」を追い求められる・・ということか。

若手のチームメイトを差し置き、まず自らが率先してチェイス&チェックなどのハードワークに全力を傾注するビッグスター。その「強烈な意志」に、誰もが敬意を抱き、頼りにする。

とはいっても、「普通」の選手たちの守備意識を、極限までアップさせるのは簡単なことじゃない。それも、レギュラーを張っている「普通の選手」たちが難しい。

彼らは、中村俊輔とは違い、攻守にわたって、ハードワークをするのが当たり前だと思われている選手たちであり、既に、マズローの言う3段階目までの欲求(地位や富に満たされたいという外的な欲求!?)は達成してしまっているのだ。

だから、マズローの欲求五段階説でいう、自己実現より1つランクが下がる「社会的(承認・尊重)欲求」が、現実的な(物質的なモノよりも次元の高い!?)モティベーションになると思うわけだ。

そう、チームのなかで「もっと」レスペクトされる存在になるという、内的に満たされたい欲求。

ことほど左様に、監督・コーチは、選手それぞれに違う、守備意識を高みで安定させる心理マネージメントの工夫に「も」心血を注がなければならないのである。

■そして、高い守備意識が、攻撃をも活性化していくというテーマ・・

このテーマは、とても深い。

だから、ここでは、経験則として、フットボールネーションで常識になっている考え方を紹介するに留める。

要は、ディフェンスでの積極的なハードワーク(強い意志)が、次の攻撃へも、継ぎ目なくスムーズにつながり、そこでのハードワークをも活性化させる・・という経験則(フットボールネーションの常識!?)である。

攻撃におけるハードワーク・・

もちろんその目標イメージは、フリーランニングに代表される、ボールがないところでの動きの量と質のアップである。

それは、攻撃における後方からのサポートを極限まで活性化させるというテーマとも言える。

そこでは、前方にチャンスを見出した誰もが、後ろ髪を引かれることなく全力で押し上げていけるだけの心理的バックボーンが必要だ。

ボールを奪われても味方がカバーしてくれるという安心感。それである。

全員の守備意識が高まり、苦しい状況でも全力で戻る汗かきディ フェンスが当たり前という心理環境が整えば、おのずと相互信頼が醸成され、組織プレーも深化していくはずなのだ。

そのことについては、リヌス・ミケルスも強調していたっけ。

そして私は、1974年ドイツワールドカップで「オレンジ軍団」がブチかましたスーパーサッカーに思いを馳せる。

優れた守備意識は、運動量をアップさせ、攻撃での優れた組織プレーやリスキーな個人勝負プレーを引き出す。そして、そんな攻撃での自信の深まりが、守備意識を限界まで引き上げていく。

それこそが、目指すべき「ポジティブな心理サイクル」なのである。

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

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